国技館の升枡席に座ると、なぜおみやげにあんみつが入っているのか、ずっと不思議に思っていた。
スイーツ通で有名な、芝田山親方のように、お相撲さんにあんみつ好きがいたのかなあ。そんな疑問がようやく解けた。
あんこはどこ!? 鉄瓶の中は…
明治28年(1895年)創業の銀座7丁目にある老舗店「銀座 立田野」。そこは、元力士だった立田野
相撲人名鑑によると、立田野関は、富山県の出身。初土俵は明治7年で、19年まで続けた。最高位は前頭8枚目。廃業後は、魚河岸の荷揚げ人として働いて資産を築き、店を持つまでに至ったようだ。
当初は日本橋にあったが、大正13年、関東大震災後、復興の象徴の場として注目されていた銀座に移転した。
あんみつは、みつ豆みつまめと共に夏の風物詩とされ、俳句では夏の季語。高浜虚子は「蜜豆をたべるでもなく よく話す」と詠んだ。
確かに、透明な寒天がたっぷり盛られているところなど、涼しげな印象が強い。立田野でも、売上げの約7割は暑い夏の季節が占めるそうだ。
そのあんみつを、冬でもおいしく、いや、冬だからこそのアレンジでおいしさをパワーアップして提案しようと、同店では新スタイルのあんみつを売り出した。
その名も、「ほっとあんみつ」!
早速いただいてみた。
お盆に載せられていたのは、たっぷりの黒みつが添えられた、いつもと変わらぬスタイルのクリームみつ豆。一緒に、鉄瓶がサービスされた。特別なお茶でも入っているのだろうか。それにしても、あんこが見えない!!肝心のあんこはどこへと思っていたら、鉄瓶の口から注がれたのは、小豆色の…・・・。そう、あつあつのお汁粉だった。
「店で通常お出ししているお汁粉を基本に、今回の特製あんこソースは、薄過ぎず、かと言って、濃過ぎず。こしあんを湯で延していくだけなのですが、何度も何度も繰り返し、ようやく最高の濃度を見つけました」と、開発に携わった調理担当の山之内隆マネージャーは胸を張る。
濃度は、通常のお汁粉の半分くらいらしい。上に載った冷たいバニラアイスクリームに、あつあつのあんこソースがかかって、徐々にとろりと溶け出し、寒天や赤エンドウ豆とからみながらやさしく包み込んでゆく。
添えられたフルーツの中では、やはり肉厚でほどよい歯ごたえのあるアンズが一番好きだ。でも、缶詰みかんもあんこと一緒になると、柑橘系の甘酸っぱさが引き出されて、本来のフルーツらしさを取り戻しているような感じがする。みかん缶の味わい再発見、だ。
最後の決め手は、濃厚な秘伝の黒みつ。味にコクが加わり、リッチさが増す。
こだわりの素材と職人技
同社の「あんみつ」は、素材の一つひとつにこだわりがあるという。
あんこに使うのは北海道産の小豆で、約5時間煮る。季節によって堅さや水分が異なり、練り方も違ってくる。それは、長年経験を積んだ職人だけがわかる感触だそうだ。煮立てたあんこの中にしゃもじを入れてすくい上げると、ツノが立つ。そのツノの出来でき具合を見て、出来上がりを判断する。手作りの職人技であるからこそ、可能なことなのだ。
寒天にも特別なこだわりがある。あらめ、ほそめ、あおくさ。伊豆の3つの天草を使って、弾力を加減し、嫌みのない磯の香りを演出する。こちらも、愚直な手作りでないとできないことだ。
そんな話を山之内さんから聞いていたら、職人さんの手の温かさが加わって、「ほっとあんみつ」がますますあったかく感じられた。
「ほっとあんみつ」は、銀座本店のほか、東京・新宿の京王百貨店、渋谷の東急百貨店本店などでいただける。1200円。冬季限定。恐らく3月の初めくらいまで。
また、同社では、季節によって練りきりなどで飾り付けをした期間限定のあんみつも、若者たちを中心に人気なのだとか。バレンタインデーには、ピンクのハートの練りきりが愛らしい「恋するあんみつ」が販売される。
寒さが増す中、「ほっとあんみつ」を食べて、銀座でほっこりしてみてはいかがだろうか。
(読売新聞編集委員・永峰好美)