東京・銀座は、クリスマスのイルミネーションが日に日に点灯し、華やかな雰囲気になってきた。マロニエ通りのマロニエの木々を飾る上品なイルミネーションに、プチ・シャンゼリゼといったフランス的な趣を感じるのは私だけだろうか。
ヴェルサイユ宮殿にようこそ!
マロニエ通りと銀座通りの交差点にあるのが、シャネルの店舗。26日、その4階で、新たなヴェルサイユ宮殿の魅力をお披露目する会が、宮殿総裁のカトリーヌ・ペガールさん主催で開かれた。
ヴェルサイユ宮殿といえば、「宮殿の中の宮殿」ともいわれるフランスで最も人気のある世界遺産の一つ。訪ねたことのある方も少なくないのでは。
宮殿の中央に広がる黄金の装飾で彩られた「鏡の間」や、アンドレ・ル・ノートルによる、水なき土地に水を引き、運河や噴水などあらゆる水の芸術によって王のパワーを誇示した平面幾何学式庭園。この2つは、宮殿訪問の際のハイライトであるに違いない。
私などはこの2か所の印象が強すぎて、他の見どころは、なんか
「歴史あるヴェルサイユですが、時の流れが止まっているわけではなく、時代とともに新しい進化が見られるところが面白いはずです」と、ペガール総裁は話す。
たとえば、「王女のアパルトマン」は、ルイ15世の娘、アデライドとヴィクトワールという未婚の2人がフランス革命まで住み続けた居室群。かつて宮殿の中でも王のグラン・アパルトマンに次いで最も美しいとされたところだ。今年4月から再公開された。家具調度品や装飾具として使われていたオブジェなど貴重な品々が収蔵庫から展示品として取り出され、日の目を見ることになったそうだ。
ヴィクトワール王女はハープシコードを見事に弾きこなし、モーツァアルトはハープシコードのための最初のソナタ6作品を彼女に献じたといわれる。読書や音楽の好みがよく伝わってくるというから、興味深い。
注目スポット
私が注目したいスポットを3か所ご紹介しよう。
まず、「水花壇」である。水の芸術はどれも素晴らしいが、この泉水は、フランスの河川を象徴する4体のニンフなど横臥像で装飾されていて、ひときわ静寂で美しいのだ。
宮殿の北西にある「グラン・トリアノン」は、休息の場だった。私的な空間として、演奏会や祝宴などで使われた。ルイ14世は女官だけを招待していたらしい。フランス北部ランス産の真っ白な大理石と南部ラングドック産のバラ色の大理石が組み合わされ、「大理石のトリアノン」と呼ばれている。
庭園には様々な種類の花が植えられており、「オランダ水仙の強い芳香のせいで、安眠できない」といった日記も残っている。花の香りで眠れないなんて、一度経験してみたいものだが。
トリアノンの背後に広がる一帯は、「王妃の村里」と呼ばれ、マリー・アントワネットの命で造られた。当時流行していた自然回帰思想に刺激されて、ノルマンディーの小さな村のわらぶき屋根の家をモデルにしている。外観は田舎風だが、内部は極めて洗練されたスタイル。宮廷の窮屈さからひととき解放されて、リラックスしているマリー・アントワネットの姿が想像できそうだ。
新宿御苑とヴェルサイユ宮殿のつながり
ところで、明治期の近代西洋庭園、東京の新宿御苑は、ヴェルサイユ宮殿とちょっとした縁がある。19世紀末のパリ万博に菊の花を出展したのをきっかけに、ヴェルサイユ園芸学校のアンリ・マルティネ教授が庭園の設計を手がけた。新宿御苑を設計当時の姿に復元するプロジェクトも、来年から始まるそうだ。
まだまだ知らないヴェルサイユ。クリスマスのイルミネーションを楽しみながら、時空を超えて空想の世界に遊ぶのも一興だ。
(読売新聞編集委員 永峰好美)