メロン、みず菜、チンゲンサイ、白菜、ピーマン、ミツバ、レンコン、栗、干しイモ、鶏卵。これら農産物の生産量が全国一位を占める県って、どこだかおわかりになるだろうか?
答えは、茨城県。首都圏に近く、東京のスーパーでも同県産野菜をよく目にしていたが、「全国一」がこんなにあるとは知らなかった。
茨城出身女性で「いばらき美菜部」
「茨城は食の王国。消費者目線からふるさとの食をもっと応援、PRしていこう」と立ち上がった女性たちがいる。茨城県出身で、東京在住・在勤の20~40代の働く女性を中心に2年ほど前に組織された「いばらき美菜部」である。
現在部員は18人。コピーライター、メーカーの営業やIT企業勤務など、仕事は様々だが、「食べることが好き」という点では共通している。生産農家を訪ねるツアーやフェイスブックで参加者を募った料理教室など、活動は多彩だ。
とりまとめ役で広報ウーマンネット代表の伊藤緑さんは、「きっかけは、茨城県農林水産部販売流通課のテストキッチン事業でしたが、集まった女性たちはボランティアにもかかわらず皆とても熱心で、次々にアイデアが広がっています」という。
店に交渉し、いちごの料理やカクテルを開発
その成果の一つが、今回の「いばらき美菜部Week」と題した企画で、メンバー自らがお気に入りの店舗と交渉し、茨城の食材を使ったオリジナルメニューを相談しながら開発、提供してもらうという期間限定のイベント(3月31日まで。参加店舗は東京都内の11店舗。一部店舗では25日よりスタート)。食材としては、いちご「いばらキッス」と「れんこん3兄弟のれんこん」が選ばれた。
「いばらキッス」は、「とちおとめ」と「ひたち1号」を掛け合わせた新しいいちごの品種。私は先日ある会合で試食する機会があったのだが、表皮がしっかり硬めなのに、果肉は非常に柔らかく、食感の面白さが印象に残っている。「れんこん三兄弟のれんこん」は、真っ白な外観の美しさもさることながら、旨みたっぷりでプロの料理人の評価も高い。
東京・有楽町のジャズ&バー「
自虐的な県民性だが、見直してみると…
シングルモルトなど約200種類の酒をそろえる同店では、チーズなどと共にいばらキッスをそのまま味わうアミューズ(チャージ込みで600円)を提案。「いばらキッスは新しい品種なので、加工せずにフレッシュなまま味わってほしかった。酸味も甘みもバランスが取れていて、お酒との相性も抜群」と、植木さん。もう一品、フローズン・ストロベリー・ダイキリを試作中の内藤さんに、「もう少しラム酒を増やしてもいいかなあ」などリクエストしていた。
「茨城県人って、おらが県はすごいものがあるぞとあえて自慢しないで暮らしてきたと思います。どちらかといえば自虐的で、それでいて、他人から悪口を言われるとものすごく怒る。でも、改めて見直してみると、こんなに素晴らしい自然の恵をいっぱい享受しているのですから、情報発信していかないともったいないなと考えるようになりました」と、植木さんは話す。
れんこんに関しては、「マグロの卵とれんこんのキンピラ」(中野区の「マグロマート ハンチカ」)や「れんこん入りのパテ・ド・カンパーニュ」(目黒区の「sibafu」)など、手作り感のあるメニューにも注目したい。
一番人気の干しいもがモンブランに
ところで、銀座1丁目エリアは、沖縄県の「銀座わしたショップ」、高知県の「まるごと高知」、山形県の「おいしい山形プラザ」などが並ぶアンテナショップの集積地。昨年11月、その一角に茨城県の「茨城マルシェ」も加わった。最近では、県産のブランド納豆をランチサービスで提供する「納豆定期券」が話題になった。
店で現在の一番人気は、「西野さんの干しいも黒ラベル」。サツマイモをふかして天日で干して作る干しいもの、9割以上が同県ひたちなか市で生産されているという。同市における歴史は、百年ほど前の明治後期にさかのぼる。せんべい屋の湯浅藤七が、せんべいの作り方に似ているところから始めたとの説が有力だそうだ。冬場に晴れの日が多く、海からの強い風が吹く気候条件が干しいも作りに向いている。東日本大震災後に激減した売り上げも、ようやく震災前の水準に戻ってきたとも聞く。
ねっとりした歯ごたえと独特の甘みは、やみつきになるおいしさ。美菜部のメンバーにもファンが多い。この干しいもを使ったモンブランを店内のレストランでいただいた。栗と干しいもの2つのペーストが混じり合って、やさしい甘さにふんわり包まれる感じ。干しいもの潜在的な実力や恐るべし、だ。
次の美菜部のイベントでは、ぜひ干しいもの独創的なメニューを期待したい。
※「いばらき美菜部」
(読売新聞編集委員・永峰好美)