コシと旨み、吉田のうどん
焼きそば、おでん、カレーに餃子……。いまや全国各地にB級ご当地グルメがあふれている。
「安くて旨い」はもちろんだけれど、どの皿にも、「幼いころから親しんできた味」をいとおしく誇りに思い、大切にしている土地っ子の「地元愛」がたっぷり詰まっているのが特徴だろうか。
その人気のほどを競い合うイベントが、年1回開催される「B級ご当地グルメ!B-1グランプリ」だ。年々盛り上がり、昨年は2日間で40万人を超えるファンが集まった。地域活性化の救世主としても注目されている。
来場者が使った割り箸の総重量で順位を決めるのだが、昨年は、甲府鶏もつ煮が1位のゴールドグランプリを獲得したのは記憶に新しい。
私が最近現地で味わって感激したのは、同じ山梨県富士吉田市の「吉田のうどん」。
発祥といわれる店ののれんをくぐると、土間を囲むようにして座敷があって、田舎の親戚を訪ねた時のような温かな雰囲気だ。お品書きはない。かけうどんとつけうどんの2種類のみで、「あったかいの」などと言って注文する。
聞けば、江戸時代、富士山詣での人々に昼間だけ居間を開放してうどんを供していたのが始まりで、いまも看板のない民家風の店舗が多いそうだ。
太くてコシの強い手打ち麺で、かめばかむほど旨みが広がる。トッピングのゆでキャベツの甘みがしょうゆベースの濃い目の汁とマッチして、シンプルだけれども味わい深い。
金沢名物「ハントンライス」
ご当地グルメは、もちろん、現地を旅してその土地のいわれや伝説などを教わりながら食するのが一番だが、なかなか訪ねる機会がない場所もある。
そんな折、改築中の歌舞伎座近くの東京・銀座3丁目に、「B級グルメ村 ギン酒場」がオープンしたのを知った。「築地銀だこ」など全国に300店以上のチェーン店を展開する会社の経営で、そのネットワークを生かし、各地のスタッフから寄せられる情報でメニューを決定しているという。
ランチタイムにのぞいてみた。「ご当地グルメ」の赤い
ランチメニューは月替わりで、今月は、金沢市の「ハントンライス」、帯広市の「帯広豚丼」、岡山市の「デミカツ丼」の3種類。どれも780円。隣りの男性が食べているのを見て、迷わず「ハントンライス」を選んだ。
ケチャップで味付けしたバターライスの上に、とろり半熟の薄焼き卵をのせた、オープンオムライスのよう。卵の上からもケチャップをかけ、タルタルソースを添えた海老フライが2本。ケチャップの甘みとタルタルソースの酸味とが微妙にからみ合って、美味しい。現地では、オヒョウなどの白身魚のフライをのせているのが基本だそうだ。
まかない料理にヒント
元祖の店は、金沢にはもうない。1960年代、当時東京にもあった「ジャーマンベーカリー」が金沢に出店する際、洋食のシェフが考案したのが始まりといわれる。パプリカとバターで味付けしたご飯に、残り物のマグロのフライなどをのせた、まかない料理からヒントを得た。金沢店の人気メニューになり、市内の洋食店にも広まっていったようだ。
「ジャーマンベーカリー」といえば、プラネタリウムのある渋谷の東急文化会館(2003年に閉館)にあった。メレンゲたっぷりの甘酸っぱいレモンパイ、酸味がさわやかなライブレッド、肉汁がじゅわっとしみ出るハンバーガーも大好きなメニューだった。懐かしい味が思い出される。
ちなみに、「ハントン」とは、料理にパプリカを多用するハンガリーの「ハン」に、フランス語でマグロを意味する「トン」を合わせた造語という説が有力だ。
夜は居酒屋メニューで、銚子のさばカレーや飛騨高山の漬物ステーキ、岡山のホルモン焼きうどんなどが食べられる。
そばつゆ×シャンパンの意外なマリアージュ
ところで、B級グルメ好きなワインライター、葉山孝太郎さんから教わったシャンパンとB級グルメの意外な組み合わせを一つご紹介したい。
市販の濃縮そばつゆを好みの量の水で薄めて、天カスと刻みネギを散らす。このそばつゆをちびりちびりなめながら、休日の昼下がり、シャンパンを飲むぜいたくな時間に、最近私ははまっている。そばつゆのような発酵系の液体はシャンパンと相性がよいのだ。
名人になると、カップ入り天ぷらそばの粉末スープを水に溶き、同封の天ぷらを割り入れて肴にするという。
私はまだ名人の域には達していない。ご興味あれば、ぜひ試してみてください。
(プランタン銀座取締役・永峰好美)