2014.10.10

つながる“銀座ソーシャル映画祭”

  • (上)美しい竹林は日本人の心のふるさと (下)放置竹林の問題解決のためには、適切な間伐が必須

 地球環境や保育、介護など、社会的な課題をテーマにしたドキュメンタリー映画の上映会が東京・銀座で定期的に開かれていることを知ったのは、ある環境系のメールマガジンの情報欄だった。どんな人が主催しているのだろう。ずっと気になっていた。

 中心になっているのは、銀座に東京本社を構える総合紙パルプメーカー、中越パルプ工業の営業企画部長、西村修さん(49)だった。

“まずは自分で行動”から多くの有志の協力を

 木材の買い付けや海外駐在など主に原材料畑を歩んできた。サーフィンなどアウトドアスポーツ好きで、「仕事はそこそこにこなして、プライベートを大切にするというタイプのサラリーマン」(西村さん)だったが、4年ほど前、CSR(企業の社会的責任)関連の活動をしている社外の人々と接点をもつ機会があり、少しずつ意識が変わっていったという。

社会に誇れる製品「竹紙」

 社内を改めて見直すと、社会に誇れる製品があった。日本の竹100%を原料とする「竹紙」である。

 間伐した竹は、かつては竹垣や竹かごなどに利用されていたが、ライフスタイルの変化で需要は激減、全国各地で放置竹林の問題が深刻化している。放置竹林は、隣接する里山の生態系を壊し、また、根の張りが浅いために土壌を支えきれず、土砂災害の原因にもなっている。

  • (上)製紙工程を経て、竹紙が完成 (下)竹紙は、様々な製品に採用されている

 竹林が多い同社の川内工場(鹿児島県)では、1998年より間伐された竹から紙を作る取り組みに挑戦、今では年間2万トンを超える竹が活用されている。竹紙は汎用性があって、はがきから産業用紙まで多様な製品に応用できるそうだ。そういえば、銀座三越で七夕の期間中、願い事を書く短冊に竹紙が使われていたのを思い出した。

 「竹紙の製品を知ると、皆が『いいですね』と共感してくれます。会社のブランディングの重要な武器になるはずなのに、今までまったくPRしてこなかったんですね。良いものを作っているのだから、いつか誰かが気づいてくれるといった姿勢でした。これではダメだと思い、自分でノートを作って、銀座の文具店、伊東屋さんに営業に行きました」と、西村さん。まずは自分で行動してみる、というわけだ。数々のコンクールで優秀賞も獲得、竹紙の認知度はぐっと上がった。

社会貢献意識向上コミュニティー

  • (上)「銀座ソーシャル映画祭」の会場は、手づくり感がいっぱい (下)上映後には、関係者によるトークショーも企画された
  • 中越パルプ工業の西村さん(右)と片岡さん

 その延長線上で始めたのが、「銀座ソーシャル映画祭」である。

 第1回は、昨年8月、ホテルモントレ銀座で、東日本大震災の復興支援がテーマのドキュメンタリー「LIGHT UP NIPPON~日本を照らした奇跡の花火」を上映した。社員の社会貢献意識を高めようと考えて企画したもので、社外の協力者を通じて参加者を募ったところ、10日間で80人以上が集まった。

 「来場者アンケートから、とても意識が高い人が多いとわかりました。上映後に、有機食材を使ったケータリング料理を囲んで、来場者同士が交流する場も好評でした。何か社会の役に立つことをやりたい、考えたい、語り合いたいといった同じ志を持つ人たちが集まれる場が、この銀座の地に求められていたのでしょうね。それは、私の目指すところでもありました」

 映画は、ドキュメンタリー映画の配給を得意とする「ユナイテッドピープル」の作品を中心に、西村さん、西村さんの最も頼れる協力者で映画好きな片岡裕雅さん(36)、社外の協力スタッフで選ぶ。ごみ処理場を舞台にしたごみアート、生きる力を育む森の幼稚園の実践例、息子による親介護の問題、食品ロス、幸福の尺度とは何かなど、多彩なテーマが並ぶ。

 10月6日、銀座三越で開かれた第10回をのぞいてみた。会社帰りと思われる30-40代を中心に、50人ほどが集まった。入場料は1000円。

  • 第10回で上映された映画のワンシーン(©台北カフェ・ストーリー)
  • (左)映画祭で人気だった森の幼稚園のドキュメンタリー(©こどもこそミライ) (右)「こどもこそミライ」に登場するのは、中越パルプが支援している山梨県の「森のようちえんピッコロ」

 上映された「台北カフェ・ストーリー」は、台北で美人姉妹がオープンしたカフェが舞台のフィクション。カフェで始まった物々交換が人気になり、来訪する人々の人生模様が交錯する。自分にとって、他の何ものとも換えられない一番大切なものって、何だろう。そんなことを考えさせてくれる作品だった。ちなみに、配給したユナイテッドピープルの関根健次社長にとって、「人生の中のベスト3に入る」作品だそうだ。

 映画祭の企画は、一部会社の予算を使って運営しているが、大々的に会社のPRはしていない。「社会的意義のある活動を支援している会社はいい会社に違いない。長い目で見て、会社のイメージアップにつながればいいのでは」と、西村さんは考えている。

 活動2年目。「私、何か手伝いますよ」。そんな社外の仲間が自然に1人、2人と増えて、つながっていくのが楽しいという。「銀座でいろんな知恵が集まれば、映画以外にも何でもできそうな気がしてきました」。西村さんと片岡さんの夢は広がっている。

◆「銀座ソーシャル映画祭」の情報は、中越パルプ工業のホームページのイベント欄に随時掲載される。
http://www.chuetsu-pulp.co.jp/event

(読売新聞編集委員・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)