自然栽培野菜とこだわりの食材
東京・銀座の一角に、健康や食の安全に気を配る人たちに、圧倒的に支持されている店がある。「ナチュラル アンド ハーモニック GINZA」。
1階の「
2階には、野菜が主役の「レストラン日水土」があり、ランチタイムは近隣のOLさんでにぎわっている。ある日の野菜盛り合わせは、長イモ、レンコン、トマトにジャガイモ……。ナスの上には雑穀のピューレが載って、ブドウジュースにコショウで風味付けしたソースがアクセントに。いかにも、体によさそうではありませんか。
オーガニック専門店が並ぶ北カリフォルニアのマーケット
「フレッシュな地元産のものを買おう」「サステイナブル(持続可能)な環境保全型のオーガニック(有機栽培)農家を支えよう」――先日訪問した北カリフォルニアの市場でも、店頭でそんなキャッチフレーズが目に付いた。
例えば、サンフランシスコ東側のウォーターフロント、フェリービルディングのマーケットプレイス。2003年の改装で、1階には、「近隣で収穫されたオーガニック・フードや雑貨」をテーマにした約40店舗が並ぶ。野菜にハーブ、チーズ、オリーブオイル、パン、コーヒーなど、小規模だがこだわりの一品を作る専門店ばかりである。
サンフランシスコ周辺は、ベトナム反戦の学生運動発祥の地。1970年代には、自然回帰を志向したカウンターカルチャー(対抗文化)の流れの中で、禅や有機農法などへの関心が育まれていった伝統がある。
ファストフード偏重やカロリー過剰摂取への反省、それに加えて、今後25年間でカリフォルニア州全体で2000万人の人口増が見込まれる状況では、環境保全型農業をはじめとするエコロジーへの積極的なかかわり方は危急の課題でもあるのだ。
この「マーケットプレイス」の仕掛け人、スティーヴ・カーリン氏がワインカントリーのナパに、2007年オープンしたのが、「オックスボウパブリックマーケット」。コンセプトはサンフランシスコと同じだが、さすがワインやチーズのコーナーがより充実している。
ワインは地球のナチュラルプロダクト
ブドウ畑でも、環境保全型の栽培方法が多くのワイナリーで採り入れられている。
1980年代から多様な生物や大地のもつ自然の力に注目して土壌改良を続け、ナパ・ヴァレーでオーガニックワイナリー第一号に認定されたのは、「フロッグス・リープ」。ワイナリーが創設された場所がカエルの養殖場だったことにちなんで、ジャンプするカエルがワインラベルにデザインされている。ソーラーシステムの導入、地熱を利用しての土地管理など、環境に配慮したワイナリーの先導的な役割を果たしている。
オーナーのジョン・ウィリアム氏は東部の酪農家に生まれ、コーネル大学で酪農を学んだが、ワイナリー実習ですっかりワインに魅せられ、卒業後、醸造学を修めるためにカリフォルニア大学デイヴィス校へ。ヒッピー生活を送った時期もあり、「ワインは地球のナチュラルプロダクト」が口癖だ。ブドウ畑が見渡せるゲストハウスの周りには花が咲き乱れ、すくすくと育った野菜やハーブなど、大地の恵みであふれていた。
映画監督のフランシス・フォード・コッポラ氏が1975年に設立したナパの「ルビコン・エステート」も、早くから環境保全型の栽培を実践してきたワイナリーとして知られている。
同ワイナリーの総支配人で世界のベストソムリエに選ばれたことのあるラリー・ストーン氏が説明してくれた。
「フランシスの妻のエレノアが、バークレーの有名なオーガニック・レストラン『シェ・パニーズ』のアリス・ウォーターズから薫陶を受けたのがきっかけです。80年代当時はまだ、一般的に、オーガニックに関心を持つのは変わり者のヒッピーぐらいと言われていた。それでもエレノアは、『健全な社会には健全な食品が必要で、健全な食品には健全な地球、大地が不可欠』というアリスの哲学を説いて、畑すべてに有機農法を採り入れた。時代を読んでいたんですね」
畑の畝の間には、クローバーやソラマメ、エンドウなど窒素を豊富に含む植物を植えているので、雑草も少なく、肥料をまかなくても土はふかふか。てんとう虫やクモが繁殖し、害虫を駆除してくれる。小川や湿地帯、草原が保全され、フクロウなどの野鳥も共存しているので、モグラなど畑を荒らす小動物が現れなくなった。様々な生物のサイクルが、ブドウ畑を中心に機能しているのだ。
灌漑はホースに付いた小さなノズルから水を適量散布するシステムで、水量を大幅に削減。また、醸造現場で使用した水はろ過して灌水として再利用しているという。
オーガニックホテルのエコ・メッセージ
オーガニックな風は、宿泊施設にも吹いていた。
サンフランシスコの中心部、ユニオン・スクエアにほど近い「ホテル パロマー サンフランシスコ」。お買い物スポットの喧騒の中に佇むブティックホテルだが、至るところにエコな工夫がみられる。
ロビーで振る舞われているのは、フェアトレードのオーガニックコーヒーだった。部屋のバスタオルもシーツも、客のリクエストがない限り毎日決まり事だからといって取り替えない。おしゃれなバスローブも素材はオーガニックコットン。
シャワーやトイレは節水タイプ、清掃には環境に配慮した洗剤を使用、パンフレットをはじめとする印刷物には再生紙と大豆由来のインクを使い、客が使用しなかったアメニティは慈善団体に寄付する。「我々のホテルグループが印刷物に100パーセント再生紙を利用することで、年間1万リットルを超える水や4000キロワットを超える電力……などの削減につながっている」といったファクトシートが、部屋の各所にさりげなく置かれている。「エコな行動はあなたの意識次第」――そんなメッセージが伝わってきた。
銀座のオーガニック旅館「お宿吉水」を、以前小欄でご紹介したことがある(3月27日付)。日本とアメリカ、比べてみるのも面白いかもしれない。
(プランタン銀座取締役・永峰好美)
◆ホテルパロマー サンフランシスコ(英語)