2013年2月アーカイブ

2013.02.22

沖縄の思いをつなぐ工芸展

  • 「想いをつなぐ暮らしの品展」には作り手のこだわりが並ぶ
  • 沖縄の色材いろいろ(「OKINAWA DESIGN SOURCE」から)
  • 新しい沖縄スタイルが発信されている

 どこまでも広がる青い海と白い砂浜、海面にきらきらと反射する太陽の照り返し、エキゾチックな亜熱帯の植物たち、三線(さんしん)の哀愁……。沖縄に対するイメージは、たとえワンパターンといわれようが、やはり日本の中で独特だ。常に心ひかれる魅力に富んでいる。

 まず、色彩だ。南国特有の明るくて鮮やかな色づかいがある一方で、赤瓦民家や芭蕉布などにみられる素朴でシンプルな色彩表現にも心惹かれる。

 生活と歴史に深く結びついた自然素材も魅力的だ。沖縄には、ものづくりの文化が元気に残り、そして、伝統と技を継承しようと、情熱をもった若者たちが集まってくる。

銀座わしたショップで展示即売

 前職の百貨店で仕事をしていた時ときにご縁のできた沖縄県工芸産業協働センターの大城亮子さんから、銀座で開催中の素敵なイベントのお知らせをいただいた。

 「想いをつなぐ暮らしの品展」といって、作り手が本当にこだわったデザイン、納得して作った工芸品を厳選、展示即売している(2月25日まで)。

 場所は、2009年7月3日付の小欄でも紹介したことがある、銀座1丁目の「銀座わしたショップ」。沖縄県物産公社が運営するアンテナショップだ。私は、いつもは1階の食材売り場で珍しい旬の食材を物色するのが好きなのだが、展示のある地下1階に直行した。

 今回の商品づくりは、(1)素材を生かし、技を生かし、先人の知恵を生かしている、(2)そこにあるだけで沖縄の空気が感じられる、(3)生活スタイルに溶け込み、人がつながり会話が生まれ、皆の心が豊かになる、といった考え方を基本に進められた。そうした新しい沖縄スタイルを編み出している若い作り手の作品が集まった。

沖縄経済を支えてきたアダン

 まず目に留まったのは、「ori to ami工房」のアダン葉で編んだ帽子である。琉球パナマ帽とも呼ばれているようだ。

 アダンの木は沖縄の島を取り囲むように生えていて、昔から台風などの自然災害から島を守ってくれたという。お盆などの供え物として、また、旬の限られた時期だけだが、新芽は炒めて食べる。帽子のほかにも、カバンや草履(ぞうり)などに用いられ、戦前まで、泡盛や黒砂糖とともに、アダン葉商品は沖縄の経済を支えてきたのだそうだ。

 アダンの葉は鋭いトゲがあって、扱うにはなかなかやっかいだ。トゲをそぎ落として2ミリほどの幅に割き、それを煮てから天日干しする。数週間後、水に戻して帽子に編む。たくさんの工程を経てできあがる、想い思いがいっぱい詰まった帽子なのだ。2万円前後と価格は安くはないが、その素朴な風合いと驚くほどの軽さには感動した。

  • 素朴な風合いがうれしいアダン帽
  • アダンの葉は扱いが難しいのだとか

祝いの鍋に、幸せの木

  • ガジュマルを盛った、ユニークなシンメーナービ

 沖縄独特のアルミ鋳物に植えた琉球プランツも面白い。シンメーナービと呼ばれるアルミの大鍋は、沖縄の祝い事には欠かせない調理道具で、ホームセンターに行けば必ず売っている。漢字で書けば、「四枚鍋」。4枚分の鉄板から作ったからとも、40人分の料理を作って多くの人が幸せを分かち合ったからとも、諸説ある。商品の背景にある物語を聞くと、さらに興味が増す。

 沖縄伝統の製法を守り続けてシンメーナービを作る工場は、現在、1946年創業の宇良アルミ鋳物ただ一つ。手間がかかり、アルミの大鍋は、1日わずか4個しか作れないという。これを小型化し、多幸の木として知られるガジュマルを植えたのは、なかなかのアイデア。5000円から。贈り物には重宝しそうな気がした。

沖縄の色、赤瓦と青空

 伝統的な沖縄の屋根材、赤瓦が、私は好きだ。明るめ煉瓦色というか、あの独特の「赤」は、青い空によく映える。その伝統素材が、コースターやアロマスティックに変身し、現代のリビングを彩る生活雑貨になった。

 製造しているのは、1951年創業の新垣瓦工場。沖縄での老舗工場も、時代とともに進化を続けている。赤瓦には、高い吸水性と速乾性といった特徴がある。コースターにすることで、コップの水滴を吸い取り、テーブルを濡らすこともない。アロマオイルを吸い上げて素早く発散させるスティックも便利そう。素朴な色合いも、香りファンの心をくすぐる。

  • 赤瓦の素材を生かしたコースター
  • アロマスティックも、生活のアクセントとして使えそう

 ほかにも、琉球漆器や三線のバチなど、どれも長く使えるように考えられていて、丁寧な手仕事に見入ってしまった。

 リサイクルであり、エコであり、なるべく土に帰る素材を使っているところも、沖縄のものづくりの原点であるような気がする。

 おおらかで温かみがあって、ゆったりした時の流れを感じさせる……。そんな手作りの品を見ていると、沖縄に旅したくなるのは、私だけだろうか。

(読売新聞編集委員・永峰好美)

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2013.02.08

名画座最後の特集で、昭和の銀座をしのぶ

  • 3月末で閉館が決まっている「銀座シネパトス」は三原橋地下街にある

 45年の歴史を持ち、銀座唯一の名画座として映画ファンに親しまれてきた映画館「銀座シネパトス」の3月末での閉館が、刻々と近づいている。

 閉館は、劇場がある三原橋地下街の耐震性の問題で昨年夏に取り壊しが決まり、東京都から立ち退き命令があったためだ。

 同映画館は、1967年(昭和42年)から翌年、「銀座地球座」「銀座名画座」としてオープン。2009年からは3スクリーンのうちの1スクリーンを邦画専門の名画座としていて、特集上映のラインナップの自由さに私は魅惑されていた。そのことは、2010年4月23日付の小欄に書いた。

 名画座番組のプログラム・ディレクターをやっていたのが、映画評論家の樋口尚文さんで、2月4日付けの日経新聞朝刊に「さらば名画座」という一文を寄せている。彼は記す。「昭和の経済と文化の発展を支えた原動力は好きな道でとことん無茶をやるという、コンプライアンスに束縛されぬ自由な精神の賜物(たまもの)だった」と。

銀座を舞台にした昭和期の映画29作品を上映

  • 最後の名画座特集は、待ってました!「銀幕の銀座」

 そうした昭和の時代の自由さを体感し、しかも当時の銀座の風景を楽しめる企画が、2月2日から同館で始まっている。銀座を舞台にした昭和期の映画29作品を一堂に集めた「銀幕の銀座~映画でよみがえる昭和」である。最後の名画座特集で、3月31日まで続く。

 戦前から戦後の高度成長期まで、夜のクラブや新聞社、画廊など、昭和の銀座を特徴づける舞台の多くを現場ロケで見ることができるのだ。「銀幕の銀座」(中公新書)の著作がある評論家の川本三郎さんが、解説を担当している。

 四方を川が流れ、新聞社の本社が建ち並ぶ。日劇ダンシングチームが踊り、空には森永製菓の地球儀ネオンが輝いていた。かつて「水の都」という言葉がぴったりだった懐かしい銀座をしのびながら、川本さんは川の風景にこだわって映画を選んだという。

「花籠の歌」では、三十間堀川にかかる三原橋の姿も

 「君の名は」(三部作、1953年~54年)は、空襲下、埋め立て前の外堀川にかかっていた数寄屋橋で男女が会うシーンがあまりにも有名だ。

  • 映画館閉館まで営業予定という「食事処・三原」

 東京オリンピックを前に高速道路の建設があわただしく進む中、汐留川の川縁に西洋の古城のような映画館「全線座」が確認できるのは、「セクシー地帯」(61年)。洋画の名画座で、78年に閉館。現在は銀座国際ホテルになっている。私は大学時代に何度か出かけたことがある。

 私が特に注目しているのは、昭和初期の作品だ。

 今回のラインナップにはないが、以前「東京ラプソディ」(1936年)のビデオを見る機会があった。この映画は、公開当時、「50銭で東京見物ができます」と宣伝のキャッチフレーズが付けられていたそうで、銀座の水の風景、特に、今は埋め立てられ、上を高速道路が走っている外堀川の雰囲気がよくわかり、興味深かった。

 同名の古賀メロディーが藤山一郎の歌でヒットし、すぐに作られた映画。関東大震災後に急速に復興した、大正末から昭和初期にかけてのモダン都市、銀座の街の建物がいくつもとらえられていた。たとえば、主演の藤山一郎が、幼なじみで今は芸者となった女性と再会する場所は、資生堂パーラー。2階まで吹き抜けになっていて、2階にはオーケストラボックスがあり、生演奏が聴けた。

 「東京ラプソディ」と同時期に作られたのが、「花籠の歌」と「女人哀愁」で、この2作品は、3月3日から7日に上映される予定だ。「花籠の歌」の主演で、銀座のとんかつ屋の娘を演じるのは田中絹代、その娘に恋をする銀座好きの学生は佐野周二。川が流れ、橋の上を市電が走る。川は、戦後に銀座の川で最初に埋め立てられた三十間堀川、橋は銀座シネパトスがある三原橋。関東大震災後に銀座に進出したデパート群も俯瞰できて、貴重な資料映像にもなっていることを、川本さんの本で教えられた。

 ああ、どれも見逃せない!

 映画を見た帰りには、地下街で現在も営業中の「食事処・三原」に寄って、かつカレーかあじフライ定食を食べることにしようか。

(読売新聞編集委員・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)