2015年3月アーカイブ

2015.03.20

進化し続ける銀座に残る「柳」と「バー・ルパン」

  • 「銀座復興祭」を伝える読売新聞1946年4月21日朝刊
    「銀座復興祭」を伝える読売新聞1946年4月21日朝刊

 東京・銀座にとって4月は、桜の季節というより、柳の季節である。

 柔らかい黄緑色の若葉が風に吹かれて、そよと揺れる。風まかせ、か。春のしだれ柳を見ていると、なんだかやさしい気持ちになってくるのは、私だけだろうか。

 「昔恋しい銀座の柳」と、西條八十(さいじょうやそ)作詞の「東京行進曲」が歌われたのは、昭和の初めであった。

 明治初期、煉瓦(れんが)街になった銀座では、水分の多い土壌ゆえ、松や桜、カエデの街路樹が根腐れで枯れた。代わって植えられたのが、水に強い柳だった。しかし、1945年1月の大空襲で、当時208本を数えた柳は、7丁目、8丁目の40本を残して焼失。柳は引き抜かれ、その跡には作物が植えられたという(勝又康雄著「銀座の柳物語」)。

 銀座の人々の「柳」に対する思いは強かった。終戦の翌年、46年4月の「銀座復興祭」で、銀座4丁目に柳が復活する。復興祭にあわせて「花咲く銀座」という歌謡曲も作られたようで、「春の東京はどこから開く 芽ふく柳の銀座から」とうたわれた。

戦後の柳並木の復興

 柳は、戦後の銀座において、復興の象徴でもあった。銀座8丁目の高速道路の高架下近くには、54年建立の「銀座柳の碑」が残る。そこには、西條八十がやはり昭和初めに作った「銀座の柳」の詞が刻まれている。

 だが、その後も銀座の柳の受難は続く。55年、街路樹として、イチョウやスズカケなどとともに柳も植えられたのだが、生育が思わしくなく、68年の銀座通り大改修事業で、共同溝を建設するに伴い、ほとんどの柳が撤去されてしまった。

 再び柳並木が復活するのは2006年春、西銀座通りだった。1丁目から8丁目までの約1キロに約200本の柳を植える8年がかりの事業が完成したのである。その年、「銀座柳まつり」も復活し、今年で9回目になる。

 柳並木の復興に尽力した1人、西銀座デパート社長だった柳沢政一さんに話を聞いたことがある。

 「子ども心に歌で聞いて育った銀座の柳がどこにもないのは寂しい。大学が神田で、柳の下の銀ブラ・デートとしゃれこんだ楽しい思い出もあった。広々として昔の風情が残る銀座には、柳がやっぱり似合うんだ」。当時87歳の柳沢さんが目を輝かせて語ってくれたのを思い出す。

  • (上)「銀座の柳」の詞が刻まれた石碑 (下)石碑を守るかのように、銀座帰りを果たした「銀座の柳2世」も植えられている
    (上)「銀座の柳」の詞が刻まれた石碑 (下)石碑を守るかのように、銀座帰りを果たした「銀座の柳2世」も植えられている
  • 西銀座通りに復活した柳並木。若葉の季節が待ち遠しい
    西銀座通りに復活した柳並木。若葉の季節が待ち遠しい

銀座に「怪盗ルパン」出没

  • 銀座5丁目の路地裏にある「バー・ルパン」
    銀座5丁目の路地裏にある「バー・ルパン」

 読売新聞の記事で銀座の戦後を調べていたら、46年4月の復興祭後、段々と店先に物資が出回る中、銀座を騒然とさせる興味深い事件が発生している。

 「怪盗ルパン」の出没である。1947年8月22日の朝刊記事によれば、犯人と思われる男性は、銀座2丁目の美術店を襲い、陳列してあった象牙の彫り物(時価10万円)のほか、下駄箱から靴7足、また、物干しにあったタオルと靴下を取って逃げた。そして、応接間の窓ガラスの格子に、鉛筆で「黒ルパン、ルルパン」の落書きを残していた。

 続報で、「近日中にまたお伺い致します、留・留凡より」という脅迫状が同店に舞い込み、警戒のために店を閉じたという。当時、「怪盗ルパン」だけでなく、この手の事件が頻発しており、「美術・宝石類の売買が盛んになったのに目をつけた犯罪が増えている。犯人検挙に大々的に力を入れる」と、京橋署はコメントしている。

 怪盗ルパンといえば、夜会服をまとい、シルクハットに片眼鏡のイメージが強い。そのイメージ通りの看板を掲げるのが、1928年(昭和3年)に開店し、戦災をくぐり抜け、今も続く銀座5丁目の「バー・ルパン」だ。

 開店に際して、泉鏡花(いずみきょうか)、菊池寛、久米正雄といった名だたる文豪が支援し、多くの文豪に愛された店として知られている。

 太宰治もその1人で、「ルパン」で、写真家の林忠彦が撮影した写真をたいそう気に入っていたらしい。

 48年6月13日、太宰は、玉川上水で、愛人の山崎富栄と心中に及ぶが、その前に、山崎宅に仏壇を作り、自分と富栄の写真を飾った。48年6月16日の読売新聞朝刊には、その仏壇周りの写真が掲載されていて、「ルパン」ですっかりくつろいでいる太宰の笑顔が印象的である。

  • 「怪盗ルパン」の出没を報道した読売新聞1947年8月22日朝刊
    「怪盗ルパン」の出没を報道した読売新聞1947年8月22日朝刊
  • ルパンでくつろぐ太宰治(左)が偲ばれる読売新聞の記事(1948年6月16日)
    ルパンでくつろぐ太宰治(左)が偲ばれる読売新聞の記事(1948年6月16日)

 「ルパン」がある銀座5丁目界隈(かいわい)は、ビルの裏側に迷宮のようにつながる路地があって、私のお気に入り。観光客でにぎわう表通りの喧噪から離れ、ちょっとレトロな思いに浸れるからでもある。

  • 「GINZA通信」の1回目は、2005年9月1日の読売新聞夕刊から始まった
    「GINZA通信」の1回目は、2005年9月1日の読売新聞夕刊から始まった

 さて、10年近く連載してきた「GINZA通信」は、今回で終了します。

 2005年9月から読売新聞夕刊で始めたコラムを、2009年4月にヨミウリオンラインに移し、両者を合わせると約400回。それだけ銀座には、魅力的な話題が尽きないということでしょうか。伝統と品格を保ち、日々変化を受け入れながら進化を続ける銀座の街で、たくさんのすてきな人々との出会いがありました。

 銀座を愛する1人として、これからも進化する銀座をしっかりウォッチしていきたいと思います。銀座ファンのあなたとは、きっとまたどこかでお会いすることになるのでは……。

 本当に長い間、ご愛読いただきまして、ありがとうございました。

 (読売新聞編集委員 永峰好美)

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2015.03.06

頭皮をきれいに…ヘッドスパで極楽マッサージ

  • (左)東京駅に直結しているJPタワー商業施設「KITTE」 (右)1階の明るいアトリウムが開放的な雰囲気
    (左)東京駅に直結しているJPタワー商業施設「KITTE」 (右)1階の明るいアトリウムが開放的な雰囲気

 三寒四温。満開の桜が待ち遠しい季節ではあるが、気温の変化についていけず、体調を崩している方も少なくないのでは? 

 リフレッシュしようと向かったのは、ヘッドスパである。疲れがたまって、何となくだるさが抜けない時には、頭のマッサージに限ると思っている。

 銀座のお隣、東京駅構内からアクセス抜群のJPタワー商業施設「KITTE」3階にある「uka丸の内KITTE店」に出かけてみた。

個室で、ゆったり

 美容室に併設された個室で、ゆったりと施術が受けられる。担当してくれたのは、ヘッド・セラピストの塩沢直子さん。まずは、マイクロスコープで、頭皮と髪の健康診断からスタートした。

 「頭皮が各所で赤く、うっ血していますね。頭全体が硬く、肩こり、睡眠不足、ストレスなどの症状があらわれていますね。毛根の汚れも気になります。皮脂が詰まって臭いの原因になりますから、シャンプーのすすぎ残しには注意してください」と、塩沢さん。

 芳香療法や植物療法などを組み合わせたフランスの頭皮ケアブランド「ジョジアンヌ・ロール」を使った70分のコース(11000円)を受けることになった。

  • 白を基調にした「uka丸の内KITTE店」のレセプション
    白を基調にした「uka丸の内KITTE店」のレセプション

 ブラッシングで頭皮と髪をほぐした上で、頭皮の毛穴の詰まりを取り除くヘアエッセンスを頭頂部中心に塗布していく。ラベンダーのほどよい甘い香りが眠気を誘う。頭皮全体になじませ、その後、保湿効果のあるヘアパックをつけて、入念にマッサージ。この血行を促す頭皮マッサージが本当に気持ちいい。

 次に、シャンプーが続く。海のミネラルをたっぷり含んだフランス・ブルターニュ産の海藻エキスが主成分というシャンプーを使う。髪全体を優しく包み込むような極楽マッサージは、もう、からだ全体がとろけてしまいそう。というか、いつの間にか、しっかり眠りに入ってしまっていた。

 その後、頭皮を健康な素肌と同じ弱酸性に整える効果があるローションをなじませて、潤い成分ケラチンタンパクと12種類の植物エキスが配合されたトリートメントで仕上げる。トリートメントは、日本人の髪質を調査して、日本人向けに特別に開発されたものだそうだ。

  • 当日使った「ジョジアンヌ・ロール」のヘアケア製品
    当日使った「ジョジアンヌ・ロール」のヘアケア製品
  • 海藻エキスが入ったシャンプーを使ってマッサージ
    海藻エキスが入ったシャンプーを使ってマッサージ

 最後に、首や肩のまわりをマッサージ。気分的にもだいぶリラックスできた。

 さて、頭皮に変化はあっただろうか?

頭皮をきれいにして、からだ全体の疲れを和らげる

  • ビジネスマンに人気の「男磨き」コースもある
    ビジネスマンに人気の「男磨き」コースもある
  • ネイルオイルを使ったハンドマッサージも気持ちがいい
    ネイルオイルを使ったハンドマッサージも気持ちがいい

 マイクロスコープで見てみると、毛穴をふさいでいた皮脂が除かれ、頭皮のうっ血が消えて、健全な状態の青みが戻っている。最初の頭皮の健康診断の時と比べると、まるで別人の頭皮を見ているかのようである。

 「頭皮は肌の延長で、肌は28日周期で生まれ変わります。1か月または1か月半に一度、ヘッドスパを実践して、頭皮をきれいにしておくと、目の疲れや肩のこりをはじめ、からだ全体の疲れが和らぎます」と、塩沢さんはアドバイスする。

 髪をセットしながら、ネイルオイルを使ったハンドマッサージも選ぶことができる。

 同店では、男性用に「男磨き」コースも用意されていて、ヘッドスパと爪のケアが同時にできるので、忙しいビジネスマンに人気だそうだ。

 頭皮のお手入れで、疲れ気味のからだをリフレッシュ。季節の変わり目には、特に必要な時間なのかもしれないと思った。

 なお、3月15日まで、「スパ&ウエルネスウィーク2015」が、全国約90の施設で開かれている。期間中、5000円から1万5000円までの特別料金で、施術体験ができる。ヘッドスパから温浴スパ、リゾートスパなど、スパを体験するにはいい機会である。

 詳細は、スパウィークの公式ウェブサイトで。

 http://spaweek.jp/

 

 (読売新聞編集委員・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)