2012年9月アーカイブ

2012.09.21

銀座によみがえれ、寄席の黄金時代

 明治初期の銀座には、寄席の黄金時代があったということを、昭和初期に活躍した東京毎夕新聞社記者の小野田素夢の著書「銀座通」で知った。

 煉瓦街ができ、西欧化が進む銀座には、旅の興行師やら香具師(やし)の一団やらが「開拓使のように乗り込んで来て」、煉瓦街見物の群衆を当て込み、様々な見せ物を出した。「犬芝居猿芝居、娘手踊から西洋奇術、ろくろ首、蛇使い、ハイカラなものでは伊太利(イタリー)風景のパノラマまで」、大看板を並べて人のにぎわいを誘ったという。

 にぎわいの一つとして素夢は、銀座の寄席にも注目している。

 銀座4丁目に開店した木村屋パン屋の2階では、パン食PRのために寄席が設けられていたが、「明治7年、松林伯圓(しょうりんはくえん)がそこに陣取って、銀座亭の看板を掲げた」そうな。同じころ、鍋町(銀座6丁目の交詢社付近)に艶物(つやもの)と義太夫が専門の鶴仙亭、新橋ぎわには講談専門の繁松亭、京橋近くには金沢亭ができて、講談落語会の名人たちが競って高座に上がったようだ。

東西の所属団体を超えた「大銀座落語祭」

  • 銀座の街をテーマに創作落語を発表する柳家さん生さん(上野・鈴本演芸場で)

 明治31年生まれのつづら屋職人だった浅野喜一郎氏は、落語好きの父に連れられ、金沢亭に行った幼いころの思い出を「明治の銀座職人話」(青蛙房)につづっている。月20日は通った落語の常連だったようで、圓右、小さん、圓歌、橘之助らひいきの落語家の名前を挙げ、「武家出身の柳家小さんの十八番は『うどん屋』。ちょっと歯切れの悪いところがあるが、それがまた『うどん屋』には打ってつけで、客を笑わせていた」など、具体的に記している。

 時代は下り、銀座の街から寄席は消えたが、2004年から5年間、春風亭小朝ら「六人の会」の主催で「大銀座落語祭」が毎年開催された。東西の所属団体を超えて多くの落語家の(はなし)が聞けるのは楽しかった。

 そして今年、銀座の街をテーマにした創作落語の連作公演があると聞いて、さっそく演じ手の柳家さん生さんを訪ねた。

 55歳になるさん生さんにとって、今年は落語会入りして35年、真打ちに昇進して20年の節目の年。

 「3年前から制作の人たちと何をやろうか考えてきました。そして、迷わず銀座をテーマに選びました。富山生まれの私にとって、銀座はあこがれだったし、いつか行きたいと夢見ていた場所でもあります」

柳家さん生の考える「銀座」とは――

 「銀座」とは――若者に媚びを売る街が増えている中、大人の街としてでんと構えているところがいい。結構新しもの好きで、柔軟に様々なものを受け入れる許容力がある。でも、だだっこみたいなことをしたら、ぴしゃりと怒られる。そんなイメージという。

 銀座に拠点をおく協力者の一人、東京画廊代表の山本豊津(ほづ)さんは、企画するにあたっていろいろとアドバイスした。

 「さん生さんに勧められて、柳家つばめの『創作落語論』という本を読んではっとしました。古典落語は古典芸能ではあるが落語ではない、落語とはその時代の庶民の生活を描くものだというのです。ならば、現代に生きる人が今の銀座を落語にしたら面白いのではないかと、提案してみたのです」

 老舗や名店を多く抱える銀座だが、その背後には様々な物語がある。画廊、洋食、和菓子、文房具をお題に、銀座をひもといていこうとの試みだ。

 場所は博品館劇場。初日の9月26日は、太神楽師の鏡味仙三郎社中を迎えてトークショー「銀座未来会議」でスタート。27日は画廊篇(ゲストは林家三平)、28日は文房具篇(同国本武春)、29日は和菓子篇(同桂米團治)、30日は洋食篇(同立川志の輔)。脚本は、モーニング娘。などの舞台脚本も手がける劇作家の金津泰輔さんが担当する。

 「洋食篇では、一杯のかけそばのような、親子のほのぼのとした思い出が語られて、ぐっときますよ」と、さん生さん。

  • 画廊篇に登場する銀座8丁目の東京画廊
  • 文房具篇に登場する2丁目の銀座・伊東屋
  • 和菓子篇に登場する7丁目の虎屋

落語は芝居を超えていると感じた

  • 洋食篇に登場する8丁目の資生堂パーラー
  • 資生堂パーラーで人気のオムライス まるで絵に描かれているみたい

 高校時代のホームステイでシェークスピア劇にはまり、役者を目指して上京。日大芸術学部に進んだが、先輩に連れられて落語研究会をのぞいたところから、目指す方向が変わった。

 それからまもなく、10代目金原亭馬生師匠の「お初徳兵衛」を国立劇場で聞いて、「芝居を超えている!」と感じたという。「しゃべりだけで、隅田川の流れ、夕立の音、2人の息づかいなどがすべてイメージできたのですからね」。ほぼ連日の寄席通いが始まり、大学を中途で辞めて、5代目柳家小さん師匠の内弟子に。人情話や長屋ものを得意とする。

 「高座に上がって、しゃべっている空気がどこか温かいね、安心するねといった印象を与える噺家でいたいです」と、さん生さんは語る。

 落語家は50代からが勝負。まずは還暦まで、ここ銀座の博品館での舞台を続けたいと思っている。「銀座に行くとさん生に会える――いなか者の私にとって、それが続けられたら本望です」

 「銀座今昔物語」は、9月26日から30日まで、銀座博品館劇場で。

 (読売新聞 編集委員・永峰好美)

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2012.09.11

南イタリアの旅から(11)~ナポリその2

13日目です。

午前中は、ナポリで、国立考古学博物館をじっくり見学しました。

いや、ここは、ファルネーゼ・コレクションと呼ばれるギリシャ・ローマ時代の模刻など大理石彫刻がすばらしいです。

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12070504.JPG 12070505.JPG 12070506.JPGローマのカラカラ浴場で発掘された紀元前4世紀の模刻「ファルネーゼのヘラクレス」

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こちらは、同じく「ファルネーゼの雄牛」

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中2階にあった、ポンペイの有力貴族、ファウヌス家で出土された、「踊る牧神」

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その奥には、「Gabinetto Segreto(秘密の小部屋)」があります。

予約制、子供は立ち入り禁止。

ディオニュソスを描いたこんな石板も。

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結構きわどいモチーフが多くて、掲載がはばかられました。

みたい方は、どうぞ現地で。

 

濃いブルーの上に白で描いたローマンガラスにも注目です。

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さて、ナポリの旧市街をぶらぶらと・・・。

市民の水くみ場もあります。

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サン・グレゴリオ・アルメーノ教会がある通りには、ミニチュア手工芸、プレセーピオの工房が並びます。かわいいですねえ。

12070510.JPG 12070511.JPGみんな、マラドーナが好きみたい!

12070512.JPG美しい中庭のあるサンタ・キアーラ教会です。

12070513.JPG教会内部で、こんなジオラマが見つけました。

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サン・ドメニコ・マッジョーレ教会です。

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このあたりが、スパッカ・ナポリと呼ばれる旧市街の下町です。

ひったくりも多いので、気をつけて歩きましょう。

ランチは、もちろん、ナポリ・ピッツァ。シンプルなマルガリータがおすすめ。

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ピカントリオ・・・唐辛子入りのオリーブオイルがアクセントに。

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あ、空中を舞っている、舞っている・・・

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オリーブがおいしいサラダと

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オリーブオイルのシンプルな味付けのニョッキ。

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絶品のアンチョビのパスタも。

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午後はイタリア本土最初のギリシャ植民都市のナポリ近郊、くーマなどを訪ねました。

旅の様子は、ヨミウリオンラインでチェックしてみてください。

http://www.yomiuri.co.jp/otona/pleasure/ginza/20120810-OYT8T00673.htm

 

ディナーは、やはりナポリで。

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ワインは、昨日と同じ造り手のフェウ・ディ・ディ・サングレゴリオ。

2011 Fiano di Avellino

2011 Ros'Aura

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料理は、魚介類中心です。

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12070527.JPG リゾットやらパスタやら・・・

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12070529.JPG陽気なご主人のおすすめは、この大きなエビです。

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12070531.JPGデザートは、酸味のしっかりした木イチゴです。

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今晩も、おいしくいただきました。グラッチェ!

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ホテルに戻ったら、ナポリ港から花火が上がるのが見えました。

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2012.09.10

南イタリアの旅から(10)~ナポリその1

12日目は、 サレルノ→ポンペイ→アマルフィ→ラヴェッロ→ナポリ

 

いよいよ旅も終盤です。

 

ポンペイ遺跡は、訪ねられた方もいらっしゃるでしょう。

とにかく広くて、全部回ろうと欲張ると、もう大変です。

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ここでは、市民生活の痕跡を見つけるのが、楽しいです。

たとえば、市場では、

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ちょっとわかりにくいかもしれませんが、魚の絵が壁面に描かれています。

古代から国際都市で、ギリシャ語、ラテン語など、いろいろな言葉を話す人がいたので、絵表示がとても多いのです。

大理石、よく残っています。

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ここから、商店街の入り口。ヴェルヴィオ山が見えます。

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これは、大浴場の中に刻まれたモチーフ。そう、テルマエロマエです。

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悲劇詩人の家と呼ばれる邸宅の玄関に刻まれた番犬のモチーフ。「猛犬に注意」と記されています。

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どこから現れたのか、わんちゃんが私たちのグループにくっついてきて、案内役を務めてくれました。

もちろん、猛犬ではない、おりこうなわんちゃんでした。 12070407.JPG

ちょっと離れた場所ですが、秘儀荘の壁画「ディオニュソスの秘儀」への入信の様子を描いたフレスコ画。背景には、ポンペイの赤と呼ばれる、美しい朱の色が使われています。中央の玉座に座っているのが、お酒の神様、ディオニュソス。ワイン好きの私は、ツアー中、川島先生から、「ディオニュッシア」と女性形で呼ばれていました。

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もう少し、ポンペイのことを知りたいなと思った方は、

ヨミウリオンラインのコラムをどうぞ。

http://www.yomiuri.co.jp/otona/pleasure/ginza/20120831-OYT8T00653.htm

 

ここから、険しい山道をバスはアマルフィへ向かいます。

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そして、アマルフィへ。

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今回は街の見学というより、ランチ休憩とショッピングタイム。

私は、ワインショップで、GAYAのバルバレスコをゲット。手作りの紙が有名なので、文房具も要チェックですよ。

ちなみに、アマルフィについては、ヨミウリオンラインで、2010年11月に書いてます。

http://www.yomiuri.co.jp/otona/pleasure/ginza/101112_01.htm

 

ラヴェッロという小さな街に到着。

12070411.JPG ヴィッラ・ルーフォロを見学します。

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ワーグナーが歌劇「パルシファル」のクリングゾルの魔法の花園を作曲した場所。

ワーグナーの家が、井戸の奥に残っています。

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花園はあちこちに。

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ここでは、ワーグナー音楽祭も開かれています。

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12070414.JPGレモンの木もたくさんありましたよ。

 

いざ、ナポリへ。

12070415.JPG ディナーに向かいます。

12070416.JPG ワインは、

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2011 Greco di Tufo

Terre degli Angeli

 

グレコ100%、豊かな酸味の白。

造り手は、テレドーラ。

1978年設立のワイナリーで、こちらも、アリアニコ、フィアーノ、グレコ、ファランギーナといったカンパーニャの地元品種の再発見に一役かったところ。

 

 

 

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2010 Rubrato Aglianico

 

アリアニコ100%。

濃いルビー色の外観ですが、フレッシュなベリーを感じさせて、飲み口は軽やかです。

熟成していないアリアニコの軽い感じは、魚介類中心の南イタリアの食事には、ちょうどいいです。

造り手は、フェウ・ディ・ディ・サングレゴリオ。

紀元1世紀に活躍した古代ローマのグレゴリオ教皇は、旧アッピア街道沿いに広がる丘陵地、サンニオ、イルピニア一帯にブドウ栽培を奨励して、ワイン造りの伝統を築いた人として知られています。フェウディ・ディ・サン・グレゴリオとは、「聖グレゴリオの領地」の意味だそうです。ミラノ大学やナポリ農業大学と共同で農学研究を行ったり、ジャック・セロスとカンパーニャ初のスパークリングワイン造りに挑んだり、カンパーニャワインの新潮流をつくりだしています。

 

 

わがままをいって、調理場に押しかけ、

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これちょうだい! とお願いした結果、

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今晩も、いろいろいただきました。

ピッツアも美味しい!!

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オリーブやルッコラがポイントです。

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トマトが入ったシンプルなアクアパッツア。この調理法がいいですね。

 

これも、調理場で見つけたデザート。

カスタードクリームが嫌みない甘さ。

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アイスクリームとスイカも食べて、もうお腹いっぱいです。

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2012.09.09

南イタリアの旅から(9)~サレルノ

11日目の行程は、ヴェリア→パエストゥム→サレルノ

 

パルメニデスが創設したギリシャ哲学エレア派の拠点、ヴェリア(エレア)。

すばらしい遺跡が残っています。

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ヨミウリオンラインのコラムをチェックしてみてください。

http://www.yomiuri.co.jp/otona/pleasure/ginza/20120810-OYT8T00675.htm

 

このころ、古代ギリシャ人は随分と活発に移動して、植民地をつくっています。

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ヴェリアで古代ギリシャ人が歩いた道を歩きました!

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お次のパエストゥムは、遺跡の保存状態がすばらしいところです。

まずは、ランチで腹ごしらえ。博物館隣りの評判のリストランテで。

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 ここの名物は、まず、フレッシュなトマトクリームソースのニョッキ

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それと、モッツァレラチーズ! ツアーリーダーの川島先生が太鼓判!!

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では、博物館に向かいます。

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 サレルノの「TSUNAMI」に関する特別展示がありました。

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博物館の目玉は、石棺の上蓋に描かれた絵です。

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ギリシャの大神殿がきれいに保存されています。

土に埋もれていて、発見が遅れたのがよかったようです。

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 では、この日の宿泊先、港町のサレルノへ。

街中の路地から、聖堂がみえます。

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この路地にあったリストランテへ。

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さあ、カンパーニャ州のワインを飲みましょう。

 

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2010 Fiano di Avellino Pietramara

 

フィアーノ種100%です。麦わらがかったイエローです。白桃やアーモンドの香りが広がり、ミネラル感も十分。繊細さが感じられる白です。

生産者はイ・ファヴァーティ。祖父が1915年に設立したワイナリーを、ピエールとジャンカルロ兄弟が復興、若手醸造家を迎えて、評価はめきめき上がっているそう。

2000年初リリースで、グレコ、フィアーノ、アリアニコといった地品種の単一品種で勝負しています。

 

 

 

 

 

12070316.JPG次に、大好きな品種、ファランギーナを。

2011 Guardia Sanframondi Falangina

 

ファランギーナ100%。

外観は、上記のフィアーノ種100%のワインよりちょっと濃いめのイエロー。

熟し始めたリンゴの香りがします。後味の不思議な苦みが好きです。

 

生産者は、アイア・ディ・コロンビ。内陸部ベネヴェント県の山に囲まれたグアルディア・サンフラモンディにあるワイナリー。地中海からの温暖な風と山から吹き下ろす冷たい風が、ミクロクリマを作り出しているのです。

典型的な家族経営で、年間生産量4万5000本。以前は量産タイプで組合に売っていたところですが、2003年から自社瓶詰めをはじめ、質にこだわったワイン造りに切り替えています。

 

12070317.JPGもう1本は、日本でも知られる

2010 Lachryma Christi del Vesuvio Rosso

 

ピエディ・ロッソ100%。

ヴェスヴィーオ山のふもとで造られているワイン。

ヨミウリオンラインでは、ヴェスヴィーオ山登山のあと、休憩地点でこのワインの白を飲んだことを書いています。

http://www.yomiuri.co.jp/otona/pleasure/ginza/20120831-OYT8T00653.htm

 

カシスの香りがある、柔らかい口当たりの赤です。スパイシーなニュアンスがあります。

カンパーニャのリーダー的存在、マストロベラルディーノのものです。1878年創業の老舗。地元品種にこだわり続け、タウラージもフィアーノ・ディ・アヴェリーニョも、DOCGにまで上り詰めることができたのは、このワイナリーのお陰と、だれもが認めています。

リストランテのご主人も、「やっぱりうまいよ、ここのは」と言っていました。

イタリア政府から、ポンペイ遺跡から発掘されたブドウ畑でワインを造るプロジェクトを唯一委託されているところでもあります。

 

 料理は、タパスのように、いろいろ注文してみました。

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イワシのマリネは鉄板です。シラス入りの焼きリゾットが絶品でした。

 

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2012.09.07

世界で4万種、グロッキーの語源にもなったラム酒

  • 銀座4丁目のラム酒専門バー「Bar Lamp」の中山篤志さん

 今年の夏、人気が爆発したカクテルといえば、モヒートではないだろうか。

 ミントの爽やかさ、ライムの酸味、ぱちぱち弾ける炭酸ののどごしの心地よさに加えて、ほんのり感じる甘みは、低アルコール志向のトレンドに合っていた。缶入り飲料なども売り出され、気軽に飲めるようになったことも一因かもしれない。

 東京・銀座8丁目のソニー通りには、期間限定でモヒート専門のバーが登場し、スイカやパッションフルーツをミキサーでブレンドして作るフルーツフローズンモヒートが、私のお気に入りだった。

 ところで、モヒートのベースは何か? すぐに答えられる人はどのくらいいるだろう。

 答えは、ラム酒。

 ラム酒といえば、学生時代によく飲んだラム・コーク、それに、ラムシロップに漬け込んだナポリ名物のババ。菓子の材料のイメージが強い。

 「いえいえ、ラム酒といっても、世界に4万種類以上。生産国によっても特徴が異なって、奥深いんですよ」

 そう教えてくれたのは、銀座4丁目にラム酒専門のバーを構える「Bar Lamp」の中山篤志さん(39)だ。壁面の棚にもカウンターにも、ぎっしり並ぶのは様々なラムのボトル。銀座に数あるバーの中でも、これだけ多くの種類のラムを置いているところは恐らくないだろう。

 2004年に開店した当初は、ウィスキーやジン・トニックを注文するお客がほとんど。「2杯目にラムを勧めると、『いや、甘いのは苦手でね』と逃げる方が多かった。『じゃあ、だまされて飲んでみてくださいよ』とオンザロックなどでお出しすると、うまいねって、はまる人が少なくないです」

 特に女性客は、マティーニとかシングルモルトとか、時のトレンドに敏感で、新しい酒へのチャレンジ精神も旺盛。「ラム酒ファン、意外に女性に多いんですよ」とも。

背景には植民地の悲しい歴史も

  • ミントをたっぷり入れてペストルで軽く潰し、モヒートを作る

 中山さんは、早稲田にあるリーガロイヤルホテル東京でバーテンダーを5年務めた。当時、葉巻を勉強する機会があって、地域的につながりの深いラムの歴史や文化を知って、とりこになったのだという。

  • 琥珀色のモヒートは独特のこくがある

 「ラテンの楽しくポップなイメージの裏に、植民地の悲しい歴史がある。それも全部含めて、興味を持ちました」

 サトウキビが原料のラムは、西インド諸島が原産。ヨーロッパ列強の植民地政策の中で、産業として大きく発展する。

 サトウキビ栽培の労働力として、アフリカから黒人を奴隷として西インド諸島に大量に送り込んだ。その奴隷船にサトウキビから取れた糖蜜を積んで米国のニューイングランドに運んでラム酒を造り、再びアフリカに向かい、ラム酒と黒人労働力とを交換した。歴史の教科書でだれもが知っている「三角貿易」で育った酒である。

 ちなみに、ものの本によれば、17世紀から19世紀にかけて大西洋上で勢力をもった英国海軍は、ジャマイカなどでラムを積み込み、毎日乗組員に配給していたそうな。水割りのラムは、指揮官のニックネームからグロッグ(grog)と呼ばれた。「二日酔いでグロッキー」などと言うが、このグロッグが語源らしい。

 「葉巻の煙には独特の苦みがありますが、ウィスキーを合わせてもどうもしっくりこなかった。ラムの甘さで柔らかく包み込んでマリアージュするのがよかったです」と、中山さんは話す。

海抜2300メートルの雲の上で熟成するラム酒の愛称は

  • グアテマラのサトウキビの収穫は12-1月が中心
  • 海抜2300メートルの冷涼な地で樽の熟成が始まる

 バーにあるたくさんのラムの中から、中山さんにおすすめを選んでもらった。1976年、グアテマラのサカパ市創立100周年を記念して作られた「ロン サカパ」。「海抜2300メートルの雲の上でゆっくりと熟成させたプレミアム・ラム」だそうだ。

 琥珀色の輝き、レーズンや焦がしたナッツの芳醇な香りが印象的で、余韻もしっかり楽しめる。私が今まで接してきた青臭さの残るラムとはひと味もふた味も違う。

 オンザロックで十分満足できるのだが、モヒートを作ってもらった。タンブラーにミントの葉をたっぷり入れて、ペストルという小さなすりこぎ棒で軽く潰して香りを出すのがポイント。琥珀色のモヒートは、独特のこくがあって、優雅な気分にさせてくれる。

  • 4種類の樽を使い分ける
  • ラムのパッケージに使われている「ペタテ」は、マヤ族の女性たちの手作り

 「ロン サカパ」のサトウキビ畑があるのは、海抜350メートル、酸性粘土質の肥沃な土壌。一年を通して気温は30度という熱帯の気候である。だが、樽に入れて熟成させるのは、海抜2300メートルの冷涼の地。こうした環境におくことで、“天使の分け前”ともいわれる、熟成途中で樽から浸み出して蒸発する水分やアルコール分の目減り量を極力抑えることができるという。

 熟成方法は、シェリーを造るソレラシステムに似ている。簡単にいえば、年数の古い酒が入った樽を下から順に組み合わせ、目減りした分は上方にある樽から補いながら熟成していく。樽は4種類を使い分ける。アメリカンウィスキーの樽が、新樽と内側を焦がした樽の2種類、シェリー樽も辛口オロロッソ樽と甘口ペドロ・ヒメネス樽の2種類。ブレンドの仕方がより複雑だ。

生産地によって違う風味を楽しめる

  • ラムのイベントでは、原料の糖蜜を実際になめてみた
  • 西インド諸島原産といっても、フランスか英国かスペインか、旧宗主国によっても違いが際だつ

 中山さんを訪ねる前に、予習の意味で、ラム酒のイベントに参加して、原料の糖蜜を実際になめてみた。まろやかで上品な甘さは、サトウキビの一番搾り汁を濃縮してハチミツ状にしたバージンシュガーケイン・ハニーからくるものなのだそうだ。ふつうラム酒に使われる糖蜜は、廃糖蜜といって、砂糖の製造過程で糖分を抽出した後の残り汁を使っているので、こちらはちょっと苦さを感じた。

  • ソーダの代わりにスパークリングワインで作るロイヤル・モヒートは絶品

 4年ほど前、中村さんらラムが好きなバーの店主5人が集まって、日本ラム協会を創立した。イベントやセミナーなどを通じて、ラムに関する知識や飲み方の提案など啓蒙活動を続けている。

 キューバやグアテマラ、ガイアナなど、生産地を歩いて、情報を収集し、交流も深めている。現地では、ラムにライムを絞って砂糖を少々加えたシンプルな飲み方が主流だが、マンゴーやグァバなどのジュースやコーラで割るなど、楽しみ方は多様だ。家庭では、日本の梅酒のように、ハーブやフルーツ、バニラなどと一緒に漬け込んだオリジナル・ラムが飲まれている。

 「生産地による違いを楽しむのも面白いですよ。フランス領はコニャック風、スペイン領はシェリーブランデーの上品な甘さを強調、英国領はモルトウィスキーの味わいをイメージなど、宗主国の嗜好が反映されているんです」と、中村さん。

 帰りがけ、ロイヤル・モヒートを作ってもらった。ソーダの代わりにスパークリングワインを加えたぜいたくなモヒート。果実味の豊かさが増して、味わいに深みが加わった。ワイン好きの私には、たまらない一グラスだった。

 (読売新聞編集委員・永峰好美)

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2012.09.02

南イタリアの旅から(8)~マラテーア

10日目は、まず、午前中、古代ギリシャ植民都市のクロトーネへ。

ここは、哲学者ピュタゴラス派の拠点。広場の周りのお店は、こんなポップな雰囲気。

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近くの市場をのぞきました。

野菜売り場のメンズたち。

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ピカンテがおっきい。

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これ、何だと思います?

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あれあれ、カタツムリではありませんか!

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唐辛子漬けの魚介類。

しらすのような小さな魚を漬けたのが、おいしい!

瓶詰めを見つけて、パンにのせてワインのつまみにしています。

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では、クロトーネの遺跡を歩きます。

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遺跡のことは、ヨミウリオンラインのコラムをご覧ください。

http://www.yomiuri.co.jp/otona/pleasure/ginza/20120810-OYT8T00673.htm

 

12070208.JPG午後、途中で立ち寄ったドライブインで、見つけたワインです。

 

Skanderbeg は、アレキサンダー大王のこと。

カンティーナ・グリソリアのギノ・ディ・ビアンコ。

マケドニアのアレキサンダー大王は、父に従ってギリシア地方に出兵し、カイロネイアの戦いでアテナイ・テーバイ連合軍を破り、その名を世界に知らしめました。紀元前4世紀のころです。

哲学者・アリストテレスの教えのもと、アレクサンダーは幼少の頃からギリシャ芸術に親しみました。アリストテレスは彼の家庭教師だったそうです。

彼の建設した都市、特にエジブトのアレキサンドリアには、たくさんの芸術家や科学者が集まりました。アルキメデスなど輩出した、ヘレニズム時代の始まり。ヘレニズム文化は、長期にわたって影響を及ぼします。

 

ナポリの博物館で、アレキサンダー大王が描かれた壁画を見ました。なかなかのイケメンです。

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この日は、マラテーラの丘の上のホテル泊。近くのリストランテでディナーです。

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12070210.JPGバジリカータ州のワインを飲みました。

2011 Il Preliminare

造り手は、Cantina del Notaio。

アリアニコ30%、シャルドネ30%、モスカート20%、マルヴァジア20%。

厚みがあって、複雑な白ワインです。。

 

 

 

 

 

 

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赤は、

2006 Aglianico del Vulture

造り手は、Carpe Dlem.

アリアニコ100%。

タウラージなどに比べると、12か月熟成で、果実味感が残って、爽やかな味わい。

 

 

 

 

 

 

 

料理は、魚介類や羊肉の串焼きなど。

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2012.09.01

南イタリアの旅から(7)~カタンツァーロ

9日目、メッシーナからフェリーでイタリア本土に渡りました。

長靴のつま先、カラブリア州の州都、レッジョ・ディ・カラブリア。

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 この街で見逃せないのは、「リアチェの青年戦士」といわれる青銅像2体。

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現在は博物館から移動して、ラボで解体点検中でした。

前5世紀のギリシャ時代の作。目は石灰石、歯は銀製。海底から引き上げられたそうで、保存状態良好です。

 

いざ、ランチへ。

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2種類のブルスケッタと、

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ライスサラダ。ハートのお皿で出てきました。

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午後は、素朴なビザンツ時代の教会が残るスティーロへ。

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貴重な壁画が残っています。

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このあたりのことは、ヨミウリオンラインにも書いています。

 http://www.yomiuri.co.jp/otona/pleasure/ginza/20120824-OYT8T00630.htm

 

この日の宿は、ビザンツ時代から栄えたカタンツァーロ。

海岸沿いのカジュアル過ぎないピッツェリア。

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ワインは、カラブリアを代表する「チロ」。

12070109.JPG2011 Ciro Rosato

カラブリア州で造られているDOCワインの90%がこのチロ。

まずは、冷やして軽めの若飲みタイプのロゼを。

古代ギリシャから伝わったガリオッポ主体。

チロが造られているのは、北東部丘陵の村チロと近隣の海岸沿いのチロ・マリーナ周辺。 

生産者は、リブランディ。1850年代から続く老舗で、ギリシャ時代の栽培法を復活、発展させるのに注力しています。

醸造家にドナ・ラナディ氏を迎えてから、品質が向上し、人気です。

 

 

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同じ生産者の白。

2011 Ciro Bianco

果実の香りときれいな酸の切れ味がよいワインです。

グレコ・ビアンコ85%が主体。

このあたり、古代ギリシャ人からエノトリア(ワインの大地)と呼ばれており、ブドウ栽培の歴史は古いのです。

火山灰土壌で、栽培面積はそれほど大きくありません。

 

 

 

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2010 Ciro Rosso Classico

ガリオッポで造る赤ワイン、これが3タイプの中でも一番知られているのでは。

というのも、古代ギリシャのオリンピックで、競技の勝利者に贈られたのが、このワインでした。

ちなみに、チロ・マリーナのあたりは、当時、ギリシャの植民都市クレミッサと呼ばれていました。

チロは、1968年のメキシコオリンピックで、オフィシャルワインにもなったそうです。

 

 

 

 

 もちろん、料理は、ピッツアも。

2種類のチーズを使ったピッツア。オリーブオイルをかけて。

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揚げ物は、ロゼワインで。

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12070117.JPG 12070118.JPGオリーブオイルやらアップルヴィネガーやら、好みで料理に加えられるようにテーブルに用意されていました。

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実はこの日、ユーロカップの決勝戦。イタリアとスペインの対戦で、普段「僕はあまりサッカー、興味ないんだ」と言っているイタリア人も、さすがにテレビの前にクギ付けでした。

でも、ピッツェリアの奥の部屋のテレビの前、歓声が上がらず、ため息が漏れるだけ。

そう、4対0で、完敗のイタリアでした。

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かわいい僕も呆然としていました・・・

レストランをあとに、海岸沿いを無言でうつむいて歩くイタリア人たち・・・。お通夜の帰りのようで、こんなイタリア人、初めて見ました。

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)