ちょっと立ち止まって、“人生の寄り道”
夢中で突っ走った青春の日々、懐かしい友達、実らなかった恋、キャリア、異国で体験したカルチャーショック、結婚そして別れ、再出発、ずっと持ち続けていたいヤンチャなハート、まだあきらめきれない夢のいくつか……。
人生の半ばを過ぎた「おとな世代」ならば、どこか心に引っかかるキーワードではないだろうか。
人生、思うようにはいかないものさ、とつぶやきつつも、まだあきらめていない自分がいる。とはいえ、残された人生の短さを知ってあせりもする。さて、次の一歩を踏み出すには、どうするか。ちょっと立ち止まって、“人生の寄り道”でもして、冷静に自分を見つめ直してみるか――。
そんな気持ちにさせてくれる映画である。
10月31日から全国ロードショーが始まる「サイドウェイズ」(20世紀フォックス映画配給)。2004年にアカデミー賞脚色賞を受賞した米映画「サイドウェイ」を、日本人キャストで新たにリメークした日本版だ。
公開に先駆けて、銀座のお隣、有楽町の東京国際フォーラムで完成披露試写会が開催され、小日向文世、生瀬勝久、菊地凛子、鈴木京香の4人のキャストがオープニングで登場、ワインで乾杯した。
というのも、この映画のもう一人の“主役”はワインなのである。
主な舞台は、米カリフォルニア州ナパ・ヴァレー。カリフォルニアワインの聖地だ。劇中には、フロッグス・リープ、ニュートン、ベリンジャーなど、バラエティーに富む11のワイナリーが登場。色、味、香りなど千差万別なキャラクターをもつワインに、主人公たちは自らを重ね合わせつつ、人生を振り返るといった設定である。
ワインと人生、そして人生折り返し点を過ぎてからの夢の実現……。
映画に登場するワイナリーの一つ、「ダリオッシュ」のオーナー、ダリオッシュ・ハレディ氏は、そんな物語を体現している人物として知られる。完成披露試写会に合わせて、氏の右腕として活躍する同ワイナリーのダニエル・デ・ポロ代表が初来日したので、食卓を囲みながらじっくり話を伺った。
では、ダリオッシュ・ストーリーのはじまり、はじまり――。
ワインへの尽きない情熱
ダリオッシュ・ハレディ氏は、イラン西部、ロレスターン州のホッラマーバードの生まれ。家族は軍属で、イラン国内の主要都市を点々とする幼少時代を送っていた。
父親は趣味でワイン造りを
テヘランの大学で土木工学を学び、1968年に卒業。しばらく国内で仕事をしていたが、76年、自由な新天地を求めて南カリフォルニアに移住。英語をまったく話せなかった氏だが、義理の兄弟とともに、ロサンゼルスを拠点にスーパーマーケットの経営に乗り出し、ヒスパニックなど非白人向けの品揃えで人気店に。カリフォルニア全体に事業を拡大し、成功を遂げたアメリカン・ドリーマーの一人として、ビジネス誌がこぞって取材する存在になった。
世界中のワインを飲み歩き、様々なシャトーのオーナーや醸造家たちとのネットワークを広げ、著名なワインコレクターとしても注目された。
だが、彼の夢はここで終わらない。幼い時から最も切望していたのは、ワイナリーのオーナーになること。渡米から約20年後の1997年、あるナパのワイナリーが閉鎖されると聞き、買い取りを決断、95エーカーのブドウ畑を手に入れ、念願だったワインビジネスに進出したのである。それからプランニングに3年、畑や醸造設備などの整備に3年、そして2004年、ペルシャ様式の宮殿を模した訪問客用の拠点、ゲストセンターを完成させた。
宇宙のすべてがあなたに味方する
まさに、人生の折り返し点を過ぎてからの夢の実現である。
センターの入り口で一際目立つ円柱群は、古代ペルシャの遺跡、ペルセポリスで用いられたのと同じ石材を現地で調達・細工したものだそうだ。円形の野外劇場などもあり、氏は「洗練されたペルシャの文化伝統を伝える場にしたい」としている。
ちなみに、「ダリオッシュ」で造られるワインはといえば、「ラフィット」や「オー・ブリヨン」などボルドースタイルを好む氏ゆえ、特に果実味濃厚なカベルネソーヴィニヨンがお得意のようだ。
普段あまりお目にかからないワインかもしれないが、プランタン銀座のワイン売り場では、映画公開を記念して10月20日まで開催中の「カリフォルニアワインフェア」の中で取り扱っているので、興味のある方は試してみてはいかがだろうか。
氏は、在米イラン人向けのコミュニティー誌「ペルシアン・ミラー」のインタビューで、こんな風にも語っている。
「夢を実現できたのは、打算でなく、情熱があったからだ。人生に迷いを感じている人に、私は、パウロ・コエーリョ作『アルケミスト(錬金術師)』にある言葉を贈りたい。 いわく、何かを強く望めば、宇宙のすべてがあなたに味方して実現に向けて助けてくれるのだ、と」
夢を語ることは容易い。だが、その夢の実現に対して、どのくらい強く情熱を抱いているのか。それが重要なのだろう。
(プランタン銀座取締役・永峰好美)