2011.01.07

悩める男女を励ます、原宿の母

自らを鼓舞する助けに

  • ズバズバ言うけれど、励ましのアドバイスも忘れないところが人気の「原宿の母」こと菅野鈴子さん

 先が見えない時代だからか、カリスマにすがりたいからか……。相変わらずの占いブームが続いている。

 初詣ではおみくじ、赤ちゃんの命名では字画、部屋の模様替えでは風水、というふうに、日本人の占い好きはとどまるところを知らない。

 雇用も老後も自然環境も、世の中は不安なことだらけ。瞑想、ヨガ、占い、パワースポット巡り……。神秘的なるものに触れることで内面を見つめ直して自分を鼓舞したいという気持ちは、年々強まる傾向にあるようだ。

 「私って何をやってもダメなんです。仕事も長続きしないし、彼氏もずっとできないし。どうすれば、いいんでしょうか?」

  • 原宿のマンションの1室には、手作りのこんな案内板が……

 正月早々、「原宿の母」のもとには、そんな悩める女性たちの来訪が絶えない。

 「原宿の母」とは、「プランタン銀座」のホームページで「占いコーナー」を担当する人気の占い師、菅野鈴子さんのことだ。

 菅野さんは占い師歴約30年のベテラン。吉本ばななさんのエッセイ集「パイナツプリン」(角川文庫)の「プランタンと私(?)」の章には、「言葉がばしっばしっと断定的で、ものすごい勢いで励ます」「とてもよく当たる」占い師として登場している。

運命の不思議を感じて

  • タロットカードも自分でデザイン。ポップなカラーが気持ちを弾ませます

 実は、20数年前、東京・原宿の路地裏で店を張っていた彼女を取材して新聞記事にしたことがある。

 「あんた、家庭運ないね」「来春は恋人と別れるよ」と。ズバズバおっしゃる。でも、切り捨てるだけではなくて、励ましのアドバイスがひと言加わり、相手の心を和ませていたのが印象的だった。

  • デザイン学校に通っただけあって、こんなプチTシャツ作りはお手のもの

 広島の高校を卒業後、上京。専門学校でファッションデザインを学んだものの、「絵が下手過ぎて、先生から完全に無視」された。人なつこい性格を生かして観光バスガイドになったら、人気爆発。ところが、会社の重役に、ギンギンに派手な通勤スタイルを目撃されて、即刻クビに。

 その後、パントマイムの振り付け師、結婚式場の巫女、風呂屋の番台、田植えのアルバイトなどを転々。やっと見つけたOLの仕事も、1年も経たないうちに会社が倒産……。

 悪いことは重なる。失意のどん底、力なく原宿の横断歩道を歩いていると、いきなり自転車が全力疾走で体当たり。ところが、かすり傷ひとつ負わなかった。

 「こんな経験、小学生の時もあったっけ。げに運命とは不思議なもの」と思い直し、みかん箱を占い机代わりに、この道に首を突っ込んだというわけだ。

3人に1人が男性に

  • 占い部屋のインテリア。オレンジは幸運、赤は情熱、白はリセット、緑は再出発を表すカラーだそう

 最初は見よう見まね。1回300円の安さにひかれて、原宿通いの10代の少女たちが群がった。彼氏や学校の悩みを打ち明けられる姉貴のような存在になり、「原宿の母」と慕われた。

 「当たらなければ笑ってごまかせばいい」と軽く考えていたものの、占いの世界は奥が深い。のめり込む性格で、500人以上の友人・知人の手相を徹底分析、気学やタロットカードも猛勉強するまでに。努力実って、「信頼できる占い師」との口コミでうわさが広がり、今では大手企業のイベントやテレビなどにも引っ張りだこなのである。

 いま、原宿のマンションにある占い部屋を訪ねて来るのは、1日15人ほど。最近では、訪問者の3人に1人が男性になってきた。

 定職を見つけようと走り回っているのに、仕事が決まらないと嘆く20代のフリーター、借金が返せず、「今度借りるにはどちらの方向がいいか」と尋ねてきた脳天気な30代の会社員、「会社にたんかを切って辞めたけれど、後悔している」と肩を落とす40代男性……。

 「リスクを背負ってこの仕事を続けるのが怖い」と、か細い声で相談してきたのは、産婦人科の男性医師。ちょうど妊婦が病院をたらい回しされたというニュースの直後だったので、驚いたという。一方で、「赤ちゃん誕生という素晴らしい瞬間に出会える仕事なので、やりがいがあって、とても幸せ!」と目を輝かせる若手助産師の話には心温まった。

「いつでも遊びにおいでよ」

  • 昨年プランタン銀座で開いた「女子会」イベントでは、手相占いをやって大好評

 恋愛・結婚に関しては、男女の悩みに差がなくなった。

 「友人の結婚が相次いで、あせるんです」「いつ結婚できますか?」……母親に付き添われて来た30代の男性は、最後までずっとうつむいたままだった。

 一番多い質問は、「私の天職は何ですか?」だという。

 そこで、「何かやりたいことはあるの?」と聞くと、「ない」との答え。「趣味は何?」と聞いても、「特にない」、「習いたいこと、学びたいことはあるの?」と尋ねれば、「わからない」。

 「それじゃあ、とりあえず、私と一緒に占いでも勉強してみる?」と水を向けると、「はい」と素直な返事が返ってくる。

 「寂しい人が多いんだ。結局、真剣に自分の話に耳を傾けてくれる人を、みんな、求めているのではないかなあ。だから、いつでも気軽に遊びにおいでよって言っている」

 社交辞令ではない。実際、昨年のクリスマスには、2DKの部屋に80人もが詰めかけた。ただ一度、占ってもらったというだけの縁なのに……。

 ところで、「原宿の母」によると、今年は「激動の年」になるのだとか。ファッションでは、明るく元気の出るような原色が流行するそうです。

 さて、あなたなら、占いに何を期待しますか?

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

 ◇「原宿の母」オフィシャルサイト

 ◇「原宿の母」鑑定ホロスコープタロット

Trackback(0) | Comment(0)

トラックバック(0)

このページのトラックバックURL
http://www.nagamine-yoshimi.com/mt/mt-tb.cgi/694

コメント(0)

新規にコメントを投稿する
※当ブログに投稿いただいたコメントは、表示前に管理者の承認が必要になります。投稿後、承認されるまではコメントは表示されませんのでご了承下さい。
<コメント投稿用フォーム>
(スタイル用のHTMLタグを使えます)
ニックネーム
メールアドレス
URL
  上記の内容を保存しますか?
コメント内容
 

永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)