2009.07.24

イタリア縦断の旅から~その4

イタリアのワイン産地の中でも世界的に最も知られているトスカーナへ。

中世の文化都市シエナの郊外にあるサンフェリーチェ社を目指します。


トスカーナ州は、さらに北のピエモンテ州と並ぶ、DOCG、DOCワインの宝庫。

トスカーナからウンブリアにかけての一帯は、紀元前8世紀にはエトルリア人がワイン造りをしていたという伝統ある地域でもあります。


思えば、30代の初め、休暇でシエナに住む友人を訪ね、その友人の紹介でキャンティを訪問したのが、私にとって初のワイナリー体験だったのでした。

とはいえ、「おいしい! おいしい!」と、何杯もグラスを傾けたことしか覚えていないのですけれど。


さて、トルジャーノからシエナに向かう途中、ヴァルディキアーナという高速道路の出口近くのアウトレットモールでお昼休憩。

 


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ランチには、バールで、チェリートマトがいっぱい載ったフォカッチャと冷たいビール。

 


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高級ブランドというより、イタリアのお手ごろブランドの衣服から、下着、コスメ、台所雑貨など70店舗近くが大集合のアウトレットでした。


リゾート仕様のオーガンディーのチュニックを見つけたので、70%オフにひかれて衝動買い!
今回の旅では。ワイン関連以外は買わないつもりだったのですが・・。早くも決心が緩みます。

 

シエナに向かう道はまっすぐです。

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ゆったりとなだらかに続く緑の丘陵の風景を楽しみつつ、この景色は中世のころからそれほど変わっていないのかもしれないな、と悠久の時の流れを思いました。

 

09060329a.jpg糸杉の道をしばらく走ると、サンフェリーチェ社が経営するシャトーホテル「ボルゴ・サンフェリーチェ」に到着。

 

サンフェリーチェは、714年から続くという古い畑でしたが、1978年、イタリア最大の保険会社RASの手に渡り、その豊富な資金力により、事業を拡大しています。


モンタルチーノのカンポジョバンニ農園の買収、マレンマ地方のペロッラ農園の買収、豪華な宿泊施設の経営など、ビジネスは成功しているようです。

現在210ヘクタールを所有、ワインやオリーブオイルのほか、トスカーナ地方特産のキアーナ牛の飼育もしているのだとか。 

 

 

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まずは、広いホテルの敷地内をツアー。

ボガオさんが案内してくださいました。

 

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醸造所を見学して、

 

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いよいよテイスティング。
オリーブオイルをたっぷりかけたパンをお供にします。

 

 

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ワインリストは、以下のとおり。

1)2008 ヴェルメンティーノ (マレンマ・トスカーナIGT)

2)2007 ペローラ (マレンマ・トスカーナIGT)

3)2006 DOCGキャンティ・クラシコ

4)2005 イル・グリッジョ (DOCGキャンティ・クラシコ・リゼルヴァ)

5)2006 プニテッロ

6)2004 ヴィゴレッロ

7)2004 カンボジョヴァンニ(DOCGブルネロ・ディ・モンタルチーノ)

 

 

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ヴェルメンティーノは、スペインからコルシカ島を経て、イタリアに伝わったといわれる品種。

トスカーナ州の北、リグーリア州サンレモあたりに植えられたようです。海の近くの風通しのいい乾いた丘陵地が好みのよう。

麦わら色で緑がかった色調。フレッシュでフルーティーで、わずかに苦味が残るのがアクセントに。

ソーヴィニヨンブランが15%ほどブレンドされているそうです。 

 

 

 

 

09060339.jpgこちらは、同じトスカーナのマレンマ地方で造られた赤ワイン。

地元のサンジョヴェーゼに、シラー、メルローを3分の1ずつブレンドしています。

 

シラーのコクのある甘みが加わって、果実の味わいが増しているように思いました。

 

 

 

 

 

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おなじみのキャンティ・クラシコ。

キャンティの歴史は古く、14世紀ごろに始まります。

プラートの街に始まり、フィレンツェの貴族、リカゾリ家によって広められ、さらに、アンティノリ、フレスコバルディ、フリーノ、チェッキなどの貴族が加わります。

 

ベッティーノ・リカゾリ男爵は、この土地に住み、香りのよいサンジョヴェーゼ種、甘みを増すカナイオーロ種、味わいにコクをもあらすマルヴァジア種やトレッビアーノ種を研究、食事に合うブレンドを考案した、というわけです。

これが今日のキャンティの基礎になりました。

その後、リカゾリ男爵は1848年に政界入りし、イタリアの首相になったそうです。

 

キャンティを算出する地域は石灰質土壌や砂利土壌で、ワイン造りに適した気候です。

生産量年間1億3千万本ほどで、DOCG、DOCワインの中でもっとも生産量が多いのです。

生産量の7割が輸出に回されています。

古くからキャンティを造っていた中心地は「クラシコ」と呼ばれて、全体の3割ほど。 

サンジョヴェーゼが主体です。

 

このワインは、酸がきわだち、とっても若々しい感じ。

それにしても、サンジョヴェーゼ=スミレの香り、とよく言われているようですが、

うーん、スミレの香りって思い出せないんですけれど。

   

09060341.jpgこちらは、「キャンティ・クラシコ・リゼルヴァ」。

よりエレガントで、タンニンもこなれ、まろやかに仕上がっています。

最初のビンテージが生まれたのは1974年。

上品な芳醇さをアピールするため、エチケットには、ルネッサンスの画家ティチアーノの描いたLorを採用。

ちなみに、絵のモデルは、ティチア-ノ本人の父君らしいです。

この君主の髪と髭の色がグレーだったことから、「イル・グリッジョ」、つまり灰色の髭と名付けられました。

 

映画「ハンニバル」では、フィレンツェのカフェのシーンで登場、狂気のレクター博士がこのワインを飲んでいるんですって。

 

ところで、「キャンティ・クラシコ」のシンボルマークといえば、ガッロ・ネーロ(黒いオンドリ)。その由来にはこんな言い伝えがあるそうです。

中世の時代、シエナとフィレンツェが領土争いを繰り返していたころのお話です。

両都市の騎士が、日の出を告げる雄鶏の鳴き声とともに互いの国を騎馬で出発し、出会ったところを国境にしようという取り決めをしました。シエナ側は、美しい白いオンドリに美味しい餌をたくさん食べさせ、一方、フィレンツェ側は、小さな黒いオンドリを選んで、餌を与えずお腹を空かせたまま夜を過ごさせました。

その結果、黒いオンドリは空腹のために日が昇る随分と前に時を告げ出し、フィレンツェの騎士の出発はかなり早まったのです。こうして、フィレンツェは、キャンティのほとんどを手に入れ、領土を広げることに成功したといいます。

ちなみに、黒いオンドリは、1924年に発足したキャンティ・クラシコ協会の商標でもあります。

 

以上は、トスカーナの伝統的かつ代表的な品種のワインでした。

 

ところが、この「プニテッロ」は、ちょっと変わっています。09060342.jpg 

 

1981年から、サン・フェリーチェ社がフィレンツェ大学と独自のサンジョヴェーゼ種の共同研究を20年間続た結果、229種類の中から最後に選別したものなのだそうです。

 

長期熟成の品種で、DNA鑑定の結果、今までのものとは異なるまったく独自のブドウであることがわかり、2003年、トスカーナ州の土着品種として認められました。

「プニテッロ」とは、ポニーテールの意味。ブドウの房がこぶし状になっているところから。

濃いルビー色でダークチェリーの香り、タンニンもしっかり、力強いワインでした。
 

 

09060343.jpg 「ヴィゴレッロ」は、トスカーナで最近人気者のスーパー・トスカンの一つです。

 

スーパー・トスカンは、1968年、ピエロ・アンティノリ氏によって提案された「サッシカイア」が草分け的な存在です。

ティレニア海に面したトスカーナ州マレアンマ地方のボルゲリ地区。 現当主ニコロ・インチザ・デ・ロレッタ侯爵の父で大のボルドーファンだったマリオ氏が1944年、ボルゲリの小石の多い畑にカベルネソーヴィニヨンを植えていました。


ピエロ・アンティノリ氏は、ニコロ氏のいとこ。

伝統的で保守的なトスカーナで、カベルネソーヴィニヨンを使った、世界に通じる新しい味わいのワイン造りに挑戦を試みたのです。

1994年に、「ボルゲリ・サッシカイア」という単独DOCを取得。トスカーナ州のワイン造りを大きく変えていきました。

 

さて、この「ヴィゴレッロ」も、「サッシカイア」と同じころから研究されてきたワイン。

2004年ヴィンテージは、サンジョヴェーゼ種45%、カべルネソーヴィニヨン40%、メルロ15%のブレンドだと伺いました。

「ヴィゴレッロ」という名前は、生命力を意味するVIGOREから。

うーん、名前負けしていません!

タンニンしっかりで力強く、のみ応えを感じるワインでした。

こういうワインを飲むと、活力がわきますねえ。

 

09060344.jpg 最後を締めくくるのは、大人気の「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」です。

まだまだ濃いルビー色、プラムの香り、力強いけれど、後口がとっても柔らかくって。

 

 

 

 

  

 

 

 

私は、「ヴィゴレッロ」が気に入りました。

売店でさっそく評判のよい2001年を2本購入、ブルネッロの1999年ヴィンテージも購入。

あと10年くらい寝かせたいです。

 

さて、夕食までの時間、広い施設を探検です。

 

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ゼラニウムの赤い花があちらこちらに植えられています。

 

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犬を散歩する人も楽しそう!

テラコッタのそばでたたずむネコちゃんも、しっとりした風景になじんでいました。

 

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教会もあります。

 

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ちょっとベンチで一休み・・・

 

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ブドウを使ったヴィノテラピーの美容スパの施設などを通り過ぎ、奥の方には、ハーブ園もありました。ラベンダーやミントなどなど。

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明るい陽光に誘われて、プールも大にぎわい。

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いったん部屋に戻りました。

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部屋には、うれしいワインのサービスもありました。

 

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そうこうしているうちに、ディナーの時間。

先ほどのプールサイドのレストランで。

 

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09060359.jpg マリネしたサーモンにハーブのレモン風味添え、タリオリーニというちょっと太麺のパスタはセージが練りこまれていて、白インゲンのコクのあるソースでいただきました。

地元産牛肉のサーロインステーキは、ナスのピューレでさわやかな味わいに。

パンがとっても美味でした。

 

 

 ワインは、先ほどテイスティングしたものの中から、

2008 ヴェルメンティーノ

2005 キャンティ・クラシコ・リゼルヴァ

2004 ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ

 

 

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デザートは、昨晩と同じく、冷たいセミフレッド。

イタリアの夏のスイーツなのですね。

モスカートワインとパッションフルーツの風味です。

デザートワインは、

2003 ヴィンサント・キャンティ・クラシコ DOC

 

ヴィンサントは、厳選されたブドウを数か月間陰干しし、干しブドウのようになった果実をゆっくり圧搾、小樽による醗酵のあと、5-6年の熟成を経て出荷される、とっても手間のかかったワインです。

トスカーナでは、カントチーニという、アーモンドが入った硬い焼き菓子ビスコッティーとよく合わせるみたいです。

 

このヴィンサントは、ちょっとローズがかったガーネット色。焼きリンゴや焦げたキャラメルの香り。

シェリーのアモンティリャードのような、余韻が残りました。

 

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教会の屋根の十字架のあたりに、月が上っていました。

静かな、静かな、満月の夜でした。

 

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)