2014.04.11

大人の空間 「ケネディハウス銀座」

  • 銀座コリドー街にある「ケネディハウス銀座」の入り口
  • 夜はブルーに輝くエレキギターの看板が目印

 ザ・ワイルドワンズを率いる加瀬邦彦さんが1983年、東京・六本木のロアビル近くに開いたライブハウス「ケネディハウス」には、バブル景気の頃、時々足を運んだことがある。

 踊るスペースもあって、おしゃれな空間だった。店のネーミングには、アメリカに、中でもケネディ家に憧れを抱いていた加瀬さんの好みが反映されていた。

 その2年後、銀座コリドー街の地下に、「ケネディハウス銀座」がオープンした(六本木店は97年に閉鎖)。渡辺プロ直営のライブハウス「銀座メイツ」があった場所だ。「銀座メイツ」といえば、ナベプロのアイドル、太田裕美、天地真理、キャンディーズらが登場していたことで知られる。キャンディーズの解散記者会見が行われたのも、この場所だったそうだ。

往年のファンとGSを知らない若者たち

 81年1月、グループサウンズの有志が日劇に結集し、「最後のウエスタンカーニバル」が開催された。それをきっかけに再結成のラブコールが湧き起こって誕生したのが、新生の「加瀬邦彦&ザ・ワイルドワンズ」。現在も続く「ケネディハウス銀座」の月に1度のライブには、往年のファンとグループサウンズ(GS)を知らない若者たちとが入り交じり、大いに盛り上がる。95年からは、加瀬さんと親しい加山雄三さんの定例ライブも加わっている。

 「ケネディハウス」の開業以来、通常のライブを務めているのが、専属バンドの「スーパーワンダーランド」である。リーダーは、上田司さん(62)。平日の夜は午後7時半から4回のステージをこなす。

 60~70年代のロックやポップス、ビートルズナンバーにグループサウンズ、最近のヒットソングまで、バンドのレパートリーは300曲以上とか。ボーカルのMioさんは1982年生まれ。「五番街のマリーへ」や「異邦人」などを、ちょっと哀愁のある声で歌い上げる。7歳から母親に連れられて店に通っていたというから、幼い頃の貴重な体験がそのままライブに()かされているのだろう。

 上田さんは、加山雄三さんに憧れて、熊本から東京の大学に進学。フォークソング全盛期で、学生時代は100人のシングアウト(合唱)のコンサートマスターを務め、音楽の道に進んだ。ザ・ワイルドワンズの再結成後は加瀬ファミリーの仲間に入り、コンサートツアーに同行してサポートバンドを務めたりしていた。加瀬さんからライブハウスの専属バンドをと頼まれて、六本木の店から数えるともう30年近く活動を続けている。

  • ハウスバンドのスーパーワンダーランドの面々
  • スーパーワンダーランドのステージはアットホームな雰囲気
  • スーパーワンダーランドのステージ・プロデューサー、上田司さん

 

とても近いステージとの距離

  • 人気の加瀬邦彦&ザ・ワイルドワンズのステージ

 どんな音楽を楽しみたいか、お客の要望を聞きながら選曲する。「アーティストとお客様が一緒になって作る楽しいライブ空間――そんな加瀬さんのスピリッツを受け継いで、ずっとやって来ました。バンドメンバーは入れ替わっても、目指すところは変わりません。ライブが終わって、お客さんから『これで明日の仕事にも力が入るよ』と声をかけられるのが一番うれしい」と、上田さんは言う。

 ある日のステージを見た。席数100人ほどなので、客席とステージとの距離がとても近い。40~50代のサラリーマンを中心に、上司に誘われて来たOLさんなどの姿も目に付いた。

 ザ・タイガースの曲をリクエストしたら、加瀬さんが作曲した「シー・シー・シー」(作詞は安井かずみさん)を最初に演奏してくれた。途中の「アイム・ソー・ハイ」に反応し、「ノー・ノー・ノー」と人さし指を振って答えるのは、タイガースファンしかわからない仕草(しぐさ)だろう。私はちょっと得意だった。

 深夜放送メドレーでは、オールナイトニッポンの最初に流れる「ビター・スウィート・サンバ」に始まり、「木綿のハンカチーフ」や「YMCA」、「セーラー服と機関銃」、ヤザワあり、松山千春あり、一緒に歌って動いて、あっという間の30分だった。

どこの席に座ってもバランスの良い音

  • 音響機器のヒビノのこだわりの機材が入っている店内

 「バブル景気がはじけた90年代、昔の音楽はもうダメじゃないかと言われた時期もあったけれど、いま、心安らぐねと、昭和歌謡が見直されている。もちろん、音楽は時代とともにあるから、若い世代の名曲、たとえば森山直太朗の『さくら』なんかもやりますよ」と、上田さん。

 「ケネディハウス銀座」を運営する、加瀬邦彦さんの息子の加瀬友貴さんは、「だれもが自分の家だと思って『ただいま』と帰って来られる、ハートウォーミングな場所であり続けたい」と、語る。友貴さんの美声も、次回はぜひ聴きたいです!

  • ケネディハウスの誕生から昨年で30年を迎えた

 実は、「ケネディハウス銀座」の親会社は、音響機器メーカーのヒビノ。100人規模のライブハウスなのに、2000人規模のホールで行うコンサートと同程度の質が保てる音響機材を投入しているそうで、店内のどこに座ってもバランス良く音が楽しめるのはうれしい。

 オリジナルカクテルの「想い出の渚」を片手に青春時代を振り返りながら、少しばかり、いや、かなりはしゃげる大人の空間。では、もう1曲、タイガースをリクエストしようかな…。

  • (左)カクテル「想い出の渚」 (右)カクテル「光進丸」は加山雄三さんの船から創作
  • (上)懐かしのザ・ビートルズのLP (下)LPを開けてみると、あれれ、メニューでした

 

◆ケネディハウス銀座
http://www.kennedyhouse-ginza.com/

 (読売新聞編集委員・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)