江戸開府以来、将軍や大名らの生活を支えるため、銀座には諸国から様々な職人が集い、職人町を作った。
歌舞伎座に近い、
手入れの行き届いた鉢植えの緑に誘われて路地に入ると、和菓子の「木挽町よしや」がある。
店主の中村
「銀座で開いたおやじの夢を消すまい」と頑張って、12年前、工房跡に「よしや」をオープンした。客自らがデザインする焼き印を押して、オリジナルどら焼きを作るのが当たった。
本来得意なのは上生菓子と聞き、教わることにした。練りきりで作るミニチュアサイズの果物かご飾りは、「日本の技」として、ニューヨーク・タイムズ紙でも大きく紹介されている。
白あんにぎゅうひを混ぜて彩色した生地を指でちぎり、大ぶりの梅干し大に丸めて果物にする。粘土細工と同じで楽しい。私は上出来と思うのだが、いびつだ、しわが寄ったなど、中村さんの合格印がもらえず、何度もやり直し。特に難しいのはクリとモモ。先端の自然なとんがりが作れない。
リンゴやナシには、先を削った割り箸でくぼみを作り、刻んだ昆布の軸をあしらう。ミカンの表皮のつぶつぶは
モモには、表皮の色の変化を出すため、食紅を水に溶かして霧のように吹きつける。ストローの先にガーゼをかぶせて輪ゴムで留めた道具は手作り。強く吹くと、真っ赤に染まるし、弱すぎると表情が出ない。「吹きの技は40年」といわれるくらい、奥が深い。
仕上げに、水あめを混ぜた寒天でつやを出す。「何度くらいが適温ですか?」と聞くが、「測ったことないからわからない。寒天が『さあ、どうぞ』と呼びかけてくる頃合いを待つ」
幾度も鍋を焦がし、試行錯誤で見つけた経験値こそ、職人の宝なのだろう。
木挽町よしや
東京都中央区銀座3―12―9
03―3541―9405
月曜~金曜は午前9時~午後7時(売り切れ次第終了)
土曜は不定休(来店の際は要確認)
日曜・祝日は定休日
(読売新聞編集委員・永峰好美)
2012年11月15日付 読売新聞夕刊「見聞録」より