2012.12.07

経験が彩る和のスイーツ…銀座の職人(3)

 江戸開府以来、将軍や大名らの生活を支えるため、銀座には諸国から様々な職人が集い、職人町を作った。鎗屋(やりや)町、弓町、紺屋町、鍋町など、旧町名には名残がみられる。

  • 中村良章さん(左)に細工菓子の作り方を学ぶ、永峰編集委員(東京・銀座で)=米山要撮影

 歌舞伎座に近い、木挽(こびき)町もその一つ。昔この一帯は海辺で、船から木材を運んでいた。江戸城修築の時、大鋸(おが)で木材をひく職人を住まわせていたことから名付けられた。

 手入れの行き届いた鉢植えの緑に誘われて路地に入ると、和菓子の「木挽町よしや」がある。

 店主の中村良章(よしあき)さん(63)は、銀座生まれの銀座育ち。金沢の農家出身の父親は14歳で家出し、上京して一旗揚げようと、銀座の老舗和菓子店で修業を重ね、当地に菓子工房を開いた。機械いじりが好きで大学で機械工学を学んだものの、父の希望で家業を手伝うことに。随分と繁盛したが、バブル崩壊後は商売が先細り。大工仕事をして食いつないだ時期もあった。

 「銀座で開いたおやじの夢を消すまい」と頑張って、12年前、工房跡に「よしや」をオープンした。客自らがデザインする焼き印を押して、オリジナルどら焼きを作るのが当たった。

 本来得意なのは上生菓子と聞き、教わることにした。練りきりで作るミニチュアサイズの果物かご飾りは、「日本の技」として、ニューヨーク・タイムズ紙でも大きく紹介されている。

 白あんにぎゅうひを混ぜて彩色した生地を指でちぎり、大ぶりの梅干し大に丸めて果物にする。粘土細工と同じで楽しい。私は上出来と思うのだが、いびつだ、しわが寄ったなど、中村さんの合格印がもらえず、何度もやり直し。特に難しいのはクリとモモ。先端の自然なとんがりが作れない。

 リンゴやナシには、先を削った割り箸でくぼみを作り、刻んだ昆布の軸をあしらう。ミカンの表皮のつぶつぶは楊枝(ようじ)でつつき、ナシのざらざら感は小粒の上南粉(じょうなんこ)をまぶして表す。

 モモには、表皮の色の変化を出すため、食紅を水に溶かして霧のように吹きつける。ストローの先にガーゼをかぶせて輪ゴムで留めた道具は手作り。強く吹くと、真っ赤に染まるし、弱すぎると表情が出ない。「吹きの技は40年」といわれるくらい、奥が深い。

 仕上げに、水あめを混ぜた寒天でつやを出す。「何度くらいが適温ですか?」と聞くが、「測ったことないからわからない。寒天が『さあ、どうぞ』と呼びかけてくる頃合いを待つ」

 幾度も鍋を焦がし、試行錯誤で見つけた経験値こそ、職人の宝なのだろう。

 木挽町よしや

 東京都中央区銀座3―12―9

 03―3541―9405

 月曜~金曜は午前9時~午後7時(売り切れ次第終了)

 土曜は不定休(来店の際は要確認)

 日曜・祝日は定休日

 (読売新聞編集委員・永峰好美)

 2012年11月15日付 読売新聞夕刊「見聞録」より

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)