2011.05.20

被災地訪問で見えた希望の光

 被災地の母子にハンカチをプレゼント

  • 助産師会は被災した母子の精神的支柱にもなっている(仙台市宮城野区で)

 東日本大震災の発生から2か月が過ぎた。大型連休が終わって最初の5月の週末、仙台市宮城野区にある宮城県助産師会を訪ねた。

 実は、プランタン銀座では、母の日フラワーギフトの売り上げの一部でハンカチ約1000枚を用意、被災された母子にプレゼントするというプロジェクトを行った。

 きっかけは、20代の若手社員たちから上がった声だった。4月28日付けの小欄でご紹介した、母と娘の着まわしファッションショーを企画した女性たちで、「今年の母の日は、自分たちの母親への感謝の気持ちを表すだけでなく、被災地のお母様たちにエールを届けるような特別な日にしたい」というのである。

 そこで、地域のお母さんたちの日常生活をきめ細かく把握し、精神的な支えにもなっている被災地の助産師会に相談、私たちの思いを伝えたところ、「それならば、厳しい環境で頑張っているお母さんたちの気持ちがぱあっと明るくなるような、たとえば、きれいなハンカチでいただくことはできないかしら」と提案された。

  • ボランティアのピエロのケンちゃんを交えて、支援物資の配布はなごやかな雰囲気で(写真左)、従業員食堂で被災地のお母さん宛てメッセージをつづる(プランタン銀座で)

 今回の仙台訪問は、そのハンカチに従業員から母親たちに宛てたメッセージカードを同封してお届けするためだった。

 仙台駅から車で15分。同会事務局前の空き地にテントを立てて、NPOなどから届いた支援物資と一緒に、ハンカチを配らせていただいた。

 集まったお母さんたちは皆笑顔で、「わあっ、きれい!」「いつ使おうかしら」「本当にありがとうございます」などと、こちらが恐縮してしまうくらい喜んでくれた。

 主催側の助産師さんの中には、家を流され、避難所暮らしを続けている人も少なくない。にもかかわらず、「東京から本当に御苦労さま。遠くまで来てくれて、うれしいわあ」とたくさんのねぎらいの言葉をかけられ、私の方が元気をもらった気がする。

取り壊しの市場ですし店が復活

  • 仙台市荒浜地区では、壊れた家屋の撤去も急ピッチで進んでいる(写真左)、海岸近くにある荒浜小学校
  • 教室の中、車が積み重なったままに(写真左)、観光客にも人気だった塩釜海岸中央鮮魚市場はひっそり

 事務局のある場所から海岸方面へ車で10分ほど走れば、多くの犠牲者を出した荒浜地区がある。

 がれきなど災害廃棄物の処理が着々と動き始めている一方で、海岸そばの荒浜小学校の校舎に入ると、1階の1年生の教室の中に、防風林の松の大木とともに流された車が積み重なり、手つかずのままだった。

 国道を北上して、塩釜市へ。大間、境港、気仙沼など、全国有数の漁港から集まってくるホンマグロの水揚げ日本一で、すし屋の密度も極めて高い街だ。

 新鮮な三陸の食材が安価で買えて観光客にも人気だった塩釜海岸中央鮮魚市場は取り壊しが決まって、ひっそりとしていたが、その一角にあるすしの名店「すし哲」が復活していたのは、うれしいニュースだった。

  • 4月29日に営業再開した「すし哲」
  • カウンターの向こうで、職人の威勢のいい声が飛び交う
  • 旬の味覚、カツオの酢の物(写真左)、「すし哲」一番人気の特上にぎり

「いらっしゃい!」 威勢のいい声が飛ぶ

  • 笑顔が戻った大将の白幡泰三さん

 カウンターに座って、特上にぎりを握ってもらった。大将自慢のマグロをはじめ、ウニ、イクラ、アワビ、子持ち昆布、甘エビ、ほっき貝、アナゴ……。いずれも、今まで何度か食べた味、そしてバランスのよい形に変わりない。私の大のお気に入り、こりこりした食感のアワビは三陸・青森から。

 「すしネタを仕入れていた水産業者も少しずつ営業を再開している」と、大将の白幡泰三さんはいう。

 旬の味覚、カツオの酢の物は、ミョウガやオオバ、ネギなどを加えたダイコンおろしでさっぱりと。カニ汁は、弾力のあるカニの身がたっぷりで、食べごたえがあった。「食べやすいように包丁入れましょう」と、何気ない気づかいもうれしい。

 まるで何事もなかったかのような、いつも通りの行き届いたサービス……。「でもね、ウチも、あの柱の上の時計のところまで水が来てね。みんな2階に逃げて無事だったけれど、魚をたくわえた大きな冷蔵庫はプカプカ浮くし、調理場のものは全部入れ替え。カウンターも削り直して、ようやく4月29日に再開できた」。大将はぽつりぽつりと話してくれた。

 地下街づくりで実績のある東京の設計事務所のすすめで、幅10センチ近くもある分厚い鉄の防潮板を入口4か所に設置していたこと、前の駐車場に鉄柵があったことで、押し寄せる車や自動販売機などが店内に流れ込むのを防げたという。

 大将と同級生の赤間善久さんがシェフを務めるすぐ近くのフレンチレストラン「シェ・ヌー」も、5月1日から営業を再開した。4月半ば、2人は共同でスペシャル牛丼を炊き出しし、早期の営業再開を誓って、地域の人々を勇気づけたと聞いた。

  • 分厚い防潮板が役に立った
  • 駐車場の鉄柵には、津波当日、車が何台も突き刺さったそうだ(写真上)、フレンチレストラン「シェ・ヌー」も営業再開
  • 石巻の駅舎に、「がんばろう!石巻」の横断幕(写真上)、ブルーシートで覆われた中で再開した洋品店

営業再開に復興のきざし

  • 日和山公園から石巻市内を見下ろす

 さらに北の石巻市。高台にある日和山公園に上ると、市内が一望できる。集落も漁港も、市場も倉庫群も、すべて水没した風景に、言葉を失うとはこういうことだろうか。

  • 石巻市役所前には仮面ライダーV3(写真左)、「マンガロード」にはサイボーグ009

 しかし、市内の商店街を歩いてみると、まだブルーシートで覆われた建物の一角で「90%OFFセール」を始めた洋品店、「ボランティアの皆様、ありがとうございます」「お陰様で、営業再開できました」と書かれた短冊を店先の桜の枝に結んでいる美容室など、復興のきざしをあちらこちらで見ることもできた。

 石巻は、漫画家、石ノ森章太郎氏のゆかりの地。市役所前の仮面ライダーV3をはじめ、駅前大通りから続く「マンガロード」には、サイボーグ009の像が設置され、街の復興をしっかり見守っているように見える。

心に残った「石巻市民憲章」

 日和山公園で見つけた手書きの「石巻市民憲章」が心に残る。

 いわく、

 

 まもりたいものがある

 それは生命(いのち)のいとなみ 豊かな自然

 つたえたいものがある

 それは先人の知恵 郷土の誇り

 たいせつにしたいものがある

 それは人の(きずな) 感謝のこころ

 わたしたちは 石巻で生きてゆく

 共につくろう 輝く未来

 震災を機に、人と人とのつながりの大切さを、誰もがかみしめているこのごろである。

  • 美容室の軒先には、ボランティアへの感謝の言葉が…
  • 公園で見つけた手書きの「市民憲章」

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)