2010.02.19

今、輝く~シャンソンに魅せられた女たち

一人ひとりのドラマを歌う

  • 「シャンソンを始めるきっかけには、一人ひとりドラマがある」と語る長坂玲さん

 以前小欄で取り上げたことのあるシャンソン歌手の長坂玲さんは、銀座8丁目で「銀座シャンソニエ マダムREI窓」を経営するかたわら、シャンソン教室を開いて200人以上の生徒を指導している。

 20代から70代と生徒の年齢層は幅広く、新幹線や飛行機で銀座の教室通いを楽しみにしている人も少なくない。最初は一人で参加した人が、親子で、夫婦で、きょうだいで、仲良しの友達同士でと誘い合い、シャンソンに魅せられた仲間たちの輪は自在に広がっている。

 教室に集う生徒たちの交流会が先日帝国ホテルで開かれたので、ちょっとお邪魔した。「シャンソンを始めるきっかけには一人ひとりドラマがあって、面白いのよ」と聞いていたからだ。

 人生半世紀を過ぎたと思しき女性たちが、それぞれに語ってくれた。

 Hさんは、3年前の正月に突然間質性肺炎に襲われ、3か月間意識不明に陥った。意識が戻ってのどに穴を開ける手術を施し、9か月間声を失い、酸素ボンベを手放せない生活を送っていた。

  • 「銀座シャンソンイエ マダムREI窓」には、素敵なワインのコレクションも

 そんな時、インターネットで偶然教室と出会い、長坂さんが中学・高校の先輩であることを知った。「しゃべることができるのなら、絶対に歌える。シャンソンは語りだから、あなたのペースでできるわよ」と励まされ、昨年3月から恐る恐るレッスンを受け始めた。最初は一つのパートを歌うごとに咳き込んでいたのだが、今では一曲歌い終えることができるまでになった。

 「生の音楽に触れて本当に元気をいただきました。命がつながり、この幸運に心から感謝。一日でも長く歌っていたいと思います」という。

人生を楽しみ、幸せな今に感謝

 シャンソン歴10年のベテランMさんは、高校時代の友人の誘いで、長坂さんが当時自宅で開いていた個人レッスンを受けるようになった。夫を亡くし、2人の子どもを育て上げ、何かやりがいのあることを始めたいと迷っていた時だった。コーラスが好きだったが、子育てで中断。また歌ってみようか、と昔の夢を追った。

 「シャンソンには、ポエムの文学性、フランス語の音の美しさ、人間の声の楽器としての美しさ、そして人間性の表現力の美学など、凝縮された魅力があるのよ」。長坂さんのそんな言葉にひかれ、フランス語を学び始めた。唇の形から丁寧に矯正する厳しい発音指導に、「ついていけない自分が情けなくて、やめたいと思ったこともありました」と振り返る。

  • 交流会には、シャンソン教室の生徒たちが全国から駆けつけた。長坂さんはこの日は和装で

 6年前、長坂さんのコンサートの前座として、初めて舞台に立たされた時は、さすがに声が震えた。それが今では、「年に何度か出演の機会をいただけることが楽しくて仕方ありません。持ち歌をもっと増やしたいな」と語る。

 シャンソン好きな母親の影響で、昨春から本格的に習い始めたのというBさんは、昨年長坂さんに連れられ、本場パリの有名シャンソニエでも歌った。「たった2曲しか歌えないのに、あの場に立ってしまった自分がいまだに信じられず、時々頬をつねっています」と笑う。「あれだけほめられ、おだてられれば、だれでもその気になっちゃいますよ」とも。

 敬虔なクリスチャンで、カッチーニの「アヴェ・マリア」が得意だ。「元気に人生を楽しみ、『今日はよい日』だと、毎朝脳にインプットするんです。すると、本当にそうなるから不思議ですね。先生からは歌そのもの以上に人生の楽しみ方を教わりました」。そ ういうBさんも、肝臓を患ったことがある。

 Wさんは、多忙を極めた仕事を退職した後、シャンソンに出会った。「長い人生、様々なことがあったけれども、シャンソンは、私の今を輝かしく燃え上がらせてくれています。この幸せが与えられたことに感謝です」と、楽しそうに話してくれた。

 それぞれの人生、それぞれの思い・・・。シャンソンはそのすべてを包み込み、だれもを幸せな気分にしてくれるのだろう。

 さびついたフランス語を磨きなおそうか。そんな気持ちにさせられた。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

 ◆長坂玲さんの東京シャンソンアカデミー

 http://academy.chanson-tokyo.jp/

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)