2010.01.08

銀座100年後の未来予想図

伝説の名店主集合

  • 銀座の名店主4人が語った「日本と銀座、次の100年」。右から、松崎社長、泉二社長、渡部社長、山本社長

 「影のCIA」と評される企業「ストラトフォー」の創設者、ジョージ・フリードマンが書いた「100年予測」(早川書房)という本が売れているらしい。

 人口爆発の終焉、宇宙太陽光発電による好景気の到来、米国とイスラム世界の戦争が終結、資源輸出国として生まれ変わったロシアと米国は再び冷戦状態になるが、ロシアの自壊で幕を閉じる。その後、一連の新興強国(日本・トルコ・ポーランド)が台頭、今世紀半ばに新たな世界大戦が起こり、世紀末になると、経済大国の1つに浮上してくるメキシコが米国と覇権を争う……などと分析している。あくまでも米国の世界戦略を中心に書かれたシナリオのようだが、「100年後の覇者は宇宙空間を征する国家」ということらしい。

 それにヒントを得たというわけでもないのだろうが、「日本と銀座、次の100年」という興味深いテーマで、銀座の伝説の名店主4人から話を聞く機会があった。

  • 銀座4丁目の「松崎煎餅」は創業200年を超える

 伝説の名店主とは、創業210年の「松崎煎餅」(銀座4丁目)松崎宗仁社長、男の着物で呉服再生に挑んだ「銀座もとじ」(銀座3丁目)泉二(もとじ)弘明社長、メソジスト教会宣教師の伝道活動から始まった老舗書店の「銀座教文館」(銀座4丁目)渡部満社長、岡本太郎を生んだ「東京画廊」(銀座8丁目)山本豊津社長の4人である。

 「100年後の銀座での商いはどうなっているのだろうか?」という主催者の問いかけに、4人は、「明日生き延びるためにどうしようかと頭を悩ませている時に、100年後の予測はとてもとても……」などと前置きしながらも、それぞれ示唆に富むコメントをしてくれた。

「場力」を信じて挑戦

  • 「松崎煎餅」伝統の江戸瓦煎餅

 「幼い時から商売を継ぐのが当たり前と半ば洗脳されてきた」と冗談めかして語ったのは、「松崎煎餅」の松崎社長。「細く長く商いすることが大切」との先代からの教えを守り、「鉄の鋳型で一枚一枚心を込めて焼くことが原点」「商品を売らせていただいているという気持ちを忘れない」という。

 伝統は継承しながらも、100年後、時代の変化とともに、甘さや食感、添加物などへの配慮等、煎餅のカタチも少しずつ変わっていくだろう。湿気に弱いといった弱点もあるが、「乾燥地域ならば通用する」と、国際商材としての可能性をみる。

 21歳で鹿児島から上京し、「人生一度しかないのだから銀座で勝負をしてみたい」と考えた「銀座もとじ」の泉二社長。「銀座では新参者」と謙遜するが、今年創業30周年を迎える。2002年には、呉服業界では未開拓の市場だった男のきものに着目した店を開いた。「人生を変えてくれた着物にいつも感謝」しつつ、「ナンバー1」「オンリー1」「日本初」に挑み、競い合えるのも、銀座の「場力」だと信じている。「おもてなしの職人づくり」を掲げ、養蚕農家や着物づくりの現場の職人たちにも、年一度は銀座の空気を吸ってもらうようにしている。

 顧客の家族構成からいつ何を求められたかまで、全てを記録している着物カルテが何よりの財産だ。「先日、孫の成人式の振袖をつくりに来られたお客様に、お宮参りや七五三など成長の記録をお見せすると、涙を流して喜ばれた。カルテは、おもてなしのカタチです」。100年後も、カルテがしっかり残っている店でありたいという。さらに、「海外に出掛ける時にもっと着物を着て行ってほしい。着物の文化を知ることは、必ず男磨き、女磨きにつながるはずです」。

アジアのアート発信基地に

  • 銀座3丁目の「銀座もとじ」は、男のきもので注目されている

 銀座で110年以上の歴史を誇る「教文館」。確かに本は、銀座で買っても新宿で買っても同じである。だが、渡部社長は、「銀座という街が求める質に応じた品ぞろえ」に配慮しているという。年間7万タイトルが出版され、書店の大型化も進む。活字離れ、不況で単価の張る本が売れない、デジタル化の進展など、新しい波は来ている。だが、本の歴史をさかのぼれば、布から紙へ、大きく変化した時代だってあったのだ。

 オンデマンド出版も本格化し、また、100年後は、自動販売機のようにお金を入れると本が出てくるマシーンも登場しているかもしれない。とはいえ、あふれる情報の中から価値ある良書を見つけるのは、ますます困難を極める。コンピューターの検索機能だけでは判断できないからだ。「これからは『知の案内人』としての本屋の存在が大事になる。良い本を並べて、いかに人間が丁寧に相談にのることができるかが勝負でしょう」。

  • 銀座4丁目の「教文館」は、にぎやかな銀座中央通りに面している

 「美術品は世界の文化遺産。世界中を回り、物語を伝えるコミュニケーションの役目を果たしてきた」と語るのは、「東京画廊」の山本社長。そして、近代美術を商品化し、店頭に並べるという画廊のシステムは銀座からスタートしたそうだ。トマトケチャップやハンバーグまでポップアートにして、消費文化の物語を紡いだ米国のアートは、世界中の家庭に浸透した。日本では、浮世絵とともに発達した富士山アートが、日本人のナショナルアイデンティティにもなって、企業は縁起物として正月に飾ったものだ。ところが、若い世代の関心は、富士山よりもアニメーションや漫画に移り、それがまた、海外でも人気になっている。

  • 銀座8丁目の「東京画廊」は、ビルの7階に。この通りには画廊が多い

 さて、次の物語はどんなものが語られていくのだろうか。「今までの100年は西洋文化に憧れ、それを学び吸収し、輸入する側でいたけれど、これからは日本から飛び出して、日本独自の物語を世界に売る時代。日本を世界にもっともっと知ってもらうことだ。アジアのアートの発信基地になることが100年後の日本の姿です」。

 堅実かつぶれない本業の「芯」を保ちながらも、時代をにらみ、海外をしっかり視野に入れた行動を考えている店主たち。銀座はいま、経営者の世代交代が進みつつある時だが、こうした発想は、次世代にも受け継がれ、21世紀の銀座の新しいカタチがつくられていくに違いない。

 さて、今年も、東京・銀座を中心に様々な情報を発信していきますので、ご愛読ください。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)