東京・南青山の「ランベリー」は、岸本直人シェフのなんとも繊細な料理にいつも感動させられる素敵なフレンチレストランです。
銀座の「オストラル」で腕を振るわれていたころから、私は大のファンでした。
そして、ソムリエで支配人の長田照彦さんの歯切れのよい解説には教えられることばかり。
岸本シェフも長田ソムリエも、プランタン銀座の「エコールプランタン」で、おしゃれな講義をしていただいたことがあります。
今回は、4月末に「ランベリー」で開かれた「まぼろしのバクス豚ディナー」についてご紹介したいと思います。
スペインとの国境にあるフランス・バスク地方は、食の宝庫。生ハムやチョコレートの産地として有名です。
ここの出身のシェフはいま、パリのビストロでも非常に注目されています。
バスク豚が「まぼろし」と呼ばれるのは、1981年、22頭にまで減り、絶滅の危機に瀕したという事情があったからです。
この豚を妻とともに蘇らせたのが、初来日した生産者のピエール・オテイザ氏で、2006年にはフランス政府からレジオン・ドヌール勲章を授与されました。
今回のディナーは、「ランベリー」のスーシェフがフランス修行時代に同氏から地産食材の教えを受けたというご縁で実現したそうです。
バスク豚は、現在では年間生産量が3千頭まで回復したとのことですが、依然として非常に希少な豚であることには変わりがありません。
2か月間は親豚のミルクで育ち、成長した後は12-14か月になるまで野山を元気に駆け回り、クリやドングリ、ブナの実など、季節の恵みに囲まれて暮らすそうです。よくイベリコ豚と比較されますが、旨みがより凝縮されていて力強い味わいといわれてるようです。
当日供されたワインは5種類でした。
1.NM アンリ・ジロー ブリュット・エスプリ
2.2006 ジュランソン・セック キュヴェ・マリー (ドメーヌ・クロ・ウロラ)
3.1999 コート・デュ・ローヌ クロ・ドゥ・レルミタージュ
4.1995 ヴォーヌ・ロマネ プルミエ・クリュ レ・ボーモン
(ドメーヌ・ペルナン・ロサン)
5.NM バニュルス キュヴェ・デュ・ドクター・アンドレ・パルセ
(ドメーヌ・デュ・マス・ブラン)
まず、サラミや生ハムなどを盛り合わせた1皿目。「バスクからの想い」というタイトルがついていました。
オテイザさんが自ら切り分けてくれた中には、生後1か月の赤ちゃん豚から作られたという貴重なものも。日本にもファンが多いアンリ・ジローのシャンパーニュと合わせます。
シャンパーニュ地方アイ村にあるメゾンの歴史は、ルイ13世統治下の17世紀初めにさかのぼります。ただし生産量が少なく、モナコ王室や英国王室や特別な顧客などへの販売が中心で、一般市場に登場したのは近年のこと。
そして、世間的には無名であったこのシャンパーニュを一躍有名にしたのは、あのワイン評論家のロバート・パーカー氏。「ハチミツ味のあるブルゴーニュの白に近い」「ノン・ヴィンテージのシャンパーニュは最高峰の一つ」「プレステージクラスはクリュッグのような後味」などと、絶賛したのでした。
よく熟れたモモのような香りとともに、ナッツやバニラのニュアンスが感じられます。クリーミーでふくよかな甘みとコクが、サラミの油分をやさしく包んでくれました。
2皿目は、ランドの砂地で育ったホワイトアスパラガスの冷製です。立派なホワイトアスパラに、驚きました。
ワインは、ジュランソンの辛口白。
ボルドー地方の東からピレネー山脈にかけて広がる地域は、「南西地方」とくくられます。スペイン国境に近いピレネー地区で作られるジュランソンは、過熟のブドウから造られる甘口の白ワインとして有名ですが、今回は辛口です。
ブドウ品種はグロ・マンサンが主体。辛口とはいえ、ハチミツや白い花のような、ほんのり甘みが感じられます。ドメーヌ・クロ・ウロラは、1983年、ワイン醸造学者のシャルル・ウール氏が娘と2人で設立しました。現在は14haの畑を所有。キュヴェの名前「マリー」は、娘さんの名前だそうです。
ホワイトアスパラのソースは、シェリービネガーとマヨネーズを合わせていました。そう、アスパラガスといえば、グリーンでもホワイトでも、やっぱりマヨネーズで決まりですね!
ダイコンの花の黄色、エンドウマメの花の藍色、オリーブペーストの土色など、花が咲きこぼれるアスパラガス畑をイメージしているそうです。さりげなく添えられた、砂糖まぶしのピスタッチオがワインとよく合います。
次回は3皿目以降についてご紹介します。