様々な願いを託された福の神
銀座周辺で
今回のテーマは、「笑顔の神さま、ゑびす大黒」である(展示は5月22日まで)。
会場には、聖徳太子が市を開いたことで知られる滋賀県八日市市の市神神社所有の約270体が並ぶ。江戸から明治期にかけて造られた木彫のご神像で、かつて家々の神棚に
家内安全、金穀増収、寿福円満……。庶民から様々な願いを託された「ゑびす・大黒」は対をなして
その七福神信仰が庶民の間で広まったのは、江戸時代。江戸後期文政年間の「享和雑記」には、「近頃正月初出に七福神参りといふ事始まりて遊人多く参詣する事となれり」とある。
ユーモアあふれる仕草、
たとえば、ぴちぴちはねる生きのいい鯛にまたがったゑびす様は、大物を仕留めて自慢げなポーズで決めている。また、鵜飼い装束の折り烏帽子と決まっているはずのかぶりものも、公家風の冠のものなどがあったりして、ディテールを観察すると興味が尽きない。
片足を一歩踏み出した「走り大黒」もいた。そうそう、「走り大黒」の霊符を逆さまに張って足に針を刺すと、逃げたものが戻ってくる、なんていう俗説、聞いたことがありませんか?
豊漁祈願の大漁旗、七福神が乗り合いの宝船の刷りもの、商店や商品の広告として配られた石版刷りの色鮮やかな「引札」など、両神は、あらゆるところで活躍してきたことがわかる。店の番頭役として、そろばんをはじき、帳簿を点検している姿は、とっても気さく。肩までたれた大きな福耳が強調され、商売繁盛間違いなし、であろう。
江戸の流行神は海外から
先日、同ギャラリーのセミナーで、民俗学者の神崎宣武さんの話を聞く機会があり、庶民の生活にこれだけ密着している両神が外来の神様であることを知った。
大黒天はインドのヒンズー教の神、マハーカーラが原型。仏教と習合して天部に取り入れられ。食糧を守る神、台所の神となり、さらに日本では、
一方のゑびす様は、「夷」「戎」の表記もあるように、海の彼方から漂着したとされ、漁民の間で大漁祈願や海上安全を願う信仰として広まった。保存のきかない漁獲物を携え、各地に商いに出掛けた漁民たちの守り神は、都市部ではやがて商売繁盛や市の神として定着することになる。
「当時、世界で最大規模を誇る新興都市だった江戸の町は、同じ日本人でも言葉やしきたりが違う人々が混在する場所でした。新しい規範のもとで争いごとを避けるためにと、江戸の町に合った形での神様のあり方が模索され、農山漁村の素朴な守り神は屋敷神、さらに商業神へと転じて融通
銀座におわす笑顔の神さま
さて、銀座周辺で大黒天といえば、JR有楽町駅銀座口の改札を入った駅構内に鎮座する「有楽大黒」。昭和初め、駅前の亀八寿司主人が秘蔵していたが、戦争末期に空襲を避けるため駅長に寄贈された。乗降客の安全をひっそりと見守ってくれている。
お隣の日本橋地域には、七福神めぐりのコースもあるので、またの機会にご紹介したいと思う。
では、ゑびす様は?
「銀座でも見つけた!」という声を聞いて、早速出掛けた。
銀座コリドー街に昨年末オープンした「YEBISU BAR(ヱビスバー)」。サッポロビールの看板商品「ヱビス」誕生120周年記念で作られた一号店である。
店内に入ると、カウンターの向こう、中央の柱に、確かにゑびす様が刻まれていた。「夜になると、入り口にはスポットライトで、ゑびす様が浮かび上がる趣向も。踏まないで入ると運が開けるって、皆さん、験をかついでいらっしゃいますよ」と、同店のスタッフさん。ちなみに、八幡鯛のカルパッチョやフィッシュ&チップスなど、「ゑびす様メニュー」もあった。
どんな困難なことに遭遇しても、破顔一笑――笑う門には福来たる!である。笑顔の神さまは、そんな心のゆとりを教えてくれる存在だった。
(プランタン銀座取締役・永峰好美)