中秋の名月(十五夜)とは、旧暦の8月15日に見える1年で最も美しいとされる月のことで、今年は9月8日だった。
関東地方では残念ながら雲に隠れて名月を拝むことができなかったが、翌9日、月が地球に近づき、満月が普段より大きく見える「スーパームーン」を楽しまれた方も多かったのではないだろうか。
今秋は、名月を3回も楽しめる特別な年と聞いた。秋のお月見は、十五夜に次いで美しい月といわれる、旧暦9月13日の十三夜があり、今年は10月6日に当たる。例年の名月はこの2回だが、今年はそれだけではない。今年は閏月が加わるため、旧暦の9月13日が2度出現するそうで、11月5日に「のちの十三夜」として、再び美しい月と出合える。なんと171年ぶりの極めて珍しい機会だという。
そんな話をキャッチして、お月見を
「お月見どろぼうです!」~和製ハロウィーン
銀座7丁目の「宗家 源吉兆庵銀座本店」を訪ねたら、愛らしい和菓子を見つけた。爽やかな香りのするユズあんの「うさぎさん」まんじゅうと、小豆ようかんの中に輝く月と躍動感みなぎるうさぎの姿が描かれた「
「うさぎさん」まんじゅうについては、興味深い話を聞いた。三重県や愛知県の一部地域には「お月見どろぼう」という風習が伝えられている。十五夜の日に限って、子どもはお月見の供え物を盗んでもよいというもので、各家庭では、子どもたちが手に取りやすい場所に供え物を置く習慣がある。これにちなんで、同店では、9月1日から8日までの期間、「お月見どろぼうです」と告げた子どもに「うさぎさん」をプレゼントした。
「今年で4回目になりますが、和製ハロウィーンとして皆さんに認知されてきました。失われつつある日本の季節感のある風習を次世代に伝えていければ」と、同店。 銀座三越で見つけたのは、享和3年(1803年)創業の京都の老舗、
ありました!
銀座三越の「王様堂本店」にあったのは、「月夜のきなこおかき」。満月に見立てた丸いおかきと、三日月のような柿の種の2種類。ほんのり甘いきなこがまぶしてあって、なかなかおいしい。こちらは、9月23日までの販売。
銀座4丁目の交差点近くにある「銀座あけぼの」では、「月見だんご」を売っていた。上新粉を使って、お米の味わいがしっかり生きたお団子だ。お団子の数は、十五夜は15個、十三夜は13個。団子の入った小箱が、ふたを裏返すとそのままお供えの三方になるのもアイデアだ。すすきのプレゼント付きだった。すすきは、軒先につるしておくと、1年間病気をせずに過ごせるとの言い伝えがある。ちなみに、十三夜用のお団子は9月26日までに予約が必要。
魅惑の一杯「与謝野ブルームーン」
さて、ちょっと足を延ばして、銀座8丁目の「月のはなれ」というカフェに寄った。
「大空の月の中より君来しや ひるも光りぬ夜も光りぬ」
歌人、与謝野晶子の作である。
「月のはなれ」は、1917年創業の銀座の老舗画材店「月光荘」が母体。晶子は、創業者の橋本平蔵を大変かわいがったといわれ、「大空の~」と詠んだ歌が店名の由来になっている。
「月のはなれ」は、「月光荘」近くのビルの5階に昨年末オープンした。エレベーターはない。狭く急な階段を上りつめると、緑あふれるテラスの奥にこぢんまりとした静かなサロンがあった。壁は小さな額に入ったポップな絵で埋まっている。日によって生演奏も楽しめるらしい。
「与謝野ブルームーン」というカクテルを注文した。
「許したまへあらずばこその今の我が身 うすむらさきの酒美しき」。晶子がそう詠んだのが、このお酒ではないかといわれている。ベースはジンで、ニオイスミレという薄紫色の香草系リキュールを加えているという。リキュールを見せてもらうと、その名も「パルフェタムール」。「完全なる愛」という意味だ。
「完全なる愛」と「かなわぬ恋」の間で揺れ動き、葛藤する女心、か。魅惑の一杯に酔いしれながら、秋の今宵は月の光と戯れることにしよう。
(読売新聞編集委員・永峰好美)