2014年7月アーカイブ

2014.07.04

「憧れ・敷居が高い…」と戸惑いの方への銀座案内

銀座おさんぽマイスターが語る“銀座”の魅力

  • 「銀座おさんぽマイスター」の岩田理栄子さん
  • 写真やイラストがいっぱいで楽しい本「銀座が先生」

 「銀座おさんぽマイスター」なる肩書をもつ岩田理栄子さんが、「銀座が先生」(芸術新聞社)という本を出した。

 銀座伊勢由、銀座松崎煎餅、ギンザのサヱグサなど、銀座の老舗や名店の主人や職人たちとのたくさんの対話から生み出された本で、「へえ、こんな銀座もあったのか」というサプライズが満載だ。

 「銀座」を題材にした本は数あれど、散歩の達人が実際に歩いて、人と出会って描く銀座の世界は、一段ときらきら輝いている。何といっても、岩田さんの「銀座愛」が、どのページにもあふれている気がする。私も何度か、岩田さんの主宰するお散歩イベントに参加したことがある。銀座で商いをする主人たちとの会話は、「おもてなしの心とは何か」をそれとなく教えてくれて、心温まる時間が過ごせたように思う。

 岩田さんは、政府系の財団で十数年、女性を対象にした相談事業や編集企画に携わった。その経験を生かして、コミュニケーションスキルを磨くビジネスコーチとして独立。交流ができた経営者たちを銀座の街に案内し、銀ブラしながらコーチングしたところ、とても喜ばれた。そんなことがきっかけで、「銀座おさんぽ」が仕事の一つになったという。

◇  ◇  ◇

 岩田さんに、銀座についてあれこれ聞いてみた。

 ――銀座での「初」体験で、印象に残っているのはいつ、どんなことですか?

 「銀座のウインドーはいつもキラキラしていてスケールが大きく、銀座の華やかさを演出してくれています。『銀座はどうしてこんなに美しいのだろう』というのが、いつも私の頭に浮かぶ問いでした。その秘密を知りたくて、朝に夕に銀座の街を回遊し続けました。すると、早朝、銀座松屋通りを清掃する店主の姿に遭遇。奥まった路地で掃き掃除をしている方もいらっしゃいました。『銀座は見えない所こそ美しく磨き上げる』という言葉を実感した瞬間です。20年くらい前のことです」

 ――ズバリ、岩田さんにとって、銀座の魅力は何でしょう。

 「有為転変の市場を生き残るために挑戦する商人のヒノキ舞台だと思います。私は『世界一の商店街』とお話します。どういう意味かというと、ブランドから専門商店、歌舞伎座や花柳界など日本文化の粋までが1キロ圏内に集まっているということ。このようなエリアは世界広しといえども銀座だけです。しかもその多様さは見事で、それこそが銀座の楽しさの理由だと思います」

 ――たくさんの出会いの中でも、特に忘れられない出会いはありますか?

 「銀座おさんぽで、『この老舗名店をお訪ねしたいなあ』と願いながらもなかなかご縁をつくれない場合があります。ある日、そんな老舗のご店主に直接電話をして、『一度お話させて下さい』とお願いしたところ、『5分以内に来ることができたら会いますよ』と無理難題を言われました。でも、たまたま携帯で電話をした場所がお店の真ん前(笑)。1分もたたずに現れたので、ご店主は目を丸くして『あっぱれ!』」とおほめいただいたことがあります。その日は土砂降りでしたので、ずぶぬれ姿の私に、相当驚かれたようでしたけれど。銀座の旦那衆には、そんな洒脱(しゃだつ)な一面もあって、お一人お一人との出会いがドラマです。いくつもの物語がおさんぽメニューに反映されていく楽しさがあります」

 ――銀座おさんぽイベントを開くようになったのは、いつから、何がきっかけでしたか?

  • いつも和服で銀座を歩く。後ろ姿を拝見したら、背中に草履やハイヒールの「おさんぽ紋」が

 「インカムをつけて着物姿の銀座おさんぽスタイルになったのは、今から8年くらい前から。それ以前に,ビジネスコーチとして経営者や個人投資家の方などと街に飛び出し、“経済のかけら”を探すツアーを企画していました。銀座の街角とお店をステージに見立て、主役は店主といった具合に、エンターテインメント性を少しずつ加えていきました。それが一般の方にも広がりました」

 ――本は、どんな人にどのように読んでほしいと思いますか?

 「銀座に憧れはあるけれど敷居が高いと感じている方、情報が多過ぎてどこに行ったらいいかわからないと戸惑っている方にこそ、手に取っていただきたいです。高校生でもわかるように、読みやすく楽しい銀座本を目指しました。写真やイラストをふんだんに使っているので、新世代のOLさんや趣味男子の目に留めてもらえるとうれしいです。先日銀座ファンの親御さんが娘さんにこの本をプレゼントしたお話を伺いました。世代を超えて手渡される本になってほしいと思います」

 ――銀座の『本当は教えたくないお気に入りスポット』ベスト・スリーを挙げるとしたら、どこでしょうか。

 「教えたくないスポットはたくさんありますが、銀座にしかなくて、扱っている商品が本物で、ご店主や女将(おかみ)さんの熱いおもてなしが受けられるという視点で、今挙げるとすれば、次のスポットでしょうか」

 <1>天空CAFE BAR(銀座8丁目、老舗画材屋・月光荘が屋上に創る天空エリア『月のはなれ』。生演奏と画材屋空間がすばらしい)

 <2>国宝が買える老舗(銀座7丁目、魯山人をデビューさせた黒田陶苑「夢幻 ギャラリー」で出会える本物)

 <3>高級ドイツワイン専門店(銀座6丁目、松坂屋再開発で一度は撤退した専門店がよみがえったことで有名。ドイツ大使館御用達の銀座ワイナックス)

 ――銀座でこれからやってみたいことは、何ですか?

 「銀座を舞台にした未来映画をぜひ作りたいですね。銀座中央通りや裏路地などの街角を背景に、大切な人や街を守るために戦う銀座7人衆が主人公。モデルはたくさんいらっしゃいますから、ドキュメンタリーでも素敵(すてき)なフィルムになりそうです」

(読売新聞編集委員・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)