銀座の片隅でさりげなく…
解体作業が始まっている銀座8丁目の「ホテル日航」ビルの裏手に、ひっそりたたずむ神社がある。
「八官神社」といって、金運アップの御利益があると名高い、宝くじファンにはおなじみの神社だ。
このあたり、旧地名を「八官町」という。17世紀初め、オランダ人ヤヨウス・ハチクワンに
神社の隣には、
サンテミリオンの「シャトー・フィジャック(2007年)」が1800円、ブルゴーニュのモンジャール・ミュニュレ「クロ・ド・ブージョ(2011年)」が2000円など。フランスワインが中心だが、一番人気は、カリフォルニアの「オーパス・ワン(2010年)」2800円だと聞いた。
ふと頑丈なカギで厳重に保管されている冷蔵庫を見ると、中には、DRC(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ)など1本ウン十万円という値段のついた超高級ワインが眠っていた。銀座だと、こういうワイン需要も少なくないのだという。さすがに、グラス売りはしていなかったけれど。
DRCのヴィレーヌ氏来日
ところで、先日、8年ぶりにDRCの共同経営者であるオベール・ド・ヴィレーヌさんが来日した。ブルゴーニュワインのファンが多い日本で、サン・ヴィヴァン修道院の修復・保存活動への理解と協力を求めるのが、目的だった。
修道院の歴史
時は、紀元900年頃。現在DRCのあるヴォーヌ・ロマネ村から西へ10キロほどのオー・コート・ド・ニュイのヴェルジィに、フランスでもっとも難攻不落といわれた城があった。スタンダールの「赤と黒」の舞台にもなった場所である。
城のあった小高い丘の中腹に建てられたのが、サン・ヴィヴァン修道院。ノルマン人(バイキング)の侵攻により追い立てられ、
「自分たちの土地から世界で最も優れたワインが誕生するとは、修道僧たちは考えてもみなかったことでしょう」と、ヴィレーヌさんは言う。
しかし、美しかった修道院も、フランス革命で破壊され、その後も修復されることなく長い年月の中、廃虚と化した。こうした歴史的史跡の状況を憂えて、1990年代、修道院の敷地を買い戻し、復興・保存運動に乗り出したのが、ヴィレーヌさんだった。
「ここには、幾世紀もの間暮らしてきた人々のエスプリ(精神)が残っている。こうした文化を残し、伝えたいという情熱で、運動を続けている。今は何でもスピーディーに事が進んでいくが、2000年という歴史の重みを、ワインの造り手としてもしっかり受け止めていきたい」と語る。
保存活動への賛同・寄付金を募る、有志へのお礼は貴重本
10年ほど前から建物の保護工事が始まり、考古学者や歴史学者の協力を得て、多くの貴重な史料も発掘された。資金はフランス政府からの補助金にとどまらず、運動に共感した世界中のワイン愛好家らの寄付でまかなわれている。現在第一期工事が一段落しており、それを機に、成果を「ヴェルジィのサン・ヴィヴァン修道院」という本にまとめた。
日本でも、弁護士でワイン研究家として著名な山本博さんを中心に修道院の保存を支援する会が組織され、翻訳本が出版された。非売品で、一口1万円の寄付をした人にお礼として渡す。寄付は、ヴィレーヌさんが会長を務めるサン・ヴィヴァン修道院協会で今後の修復・保存事業に役立ててもらう。既に、日本から1万ユーロが寄付された。
本には、当時の修道院で使われていたミサ典書の写本など、宗教史的にも興味深い史料が載っている。銀座で出会った1杯のワインから、1000年以上前のブルゴーニュのブドウ畑に思いを巡らせるのは、楽しいひとときだった。
なお、日本で修道院保存を支援する「日本サン・ヴィヴァン修道院協会」事務局は、東京都港区南青山5-4-35―501 日本輸入ワイン協会内。電話03・6450・5547。
(読売新聞編集委員・永峰好美)