そぞろ歩きが楽しくなる桜の季節――東京・銀座は、「GINZA FASHION WEEK(GFW)」(3月31日まで)で華やいでいる。
普段はライバル関係にある3つの百貨店、松屋銀座、銀座三越、プランタン銀座がタッグを組んで開催するイベントで、今回で6回目(プランタン銀座の参加は5回目から)。ズバリ「GINZAを楽しもう」を、共通テーマに掲げた。
日本のものづくりの知恵を集積・融合し、発信しているのも、銀座の魅力だ。そうした「世界のGINZAから、ファッションで日本を元気にしよう」との思いが、各店が展開する独自テーマの中に込められていて、興味深い。
松屋銀座“JAPAN BLUE”
松屋銀座は、「JAPAN BLUE」をテーマにした。古くは着物や浴衣、近年ではデニムなど、いつの時代も愛されてきた日本の藍色に着目している。
同じ「ブルー」といっても、素材やデザイン、ポップなモチーフのあしらい方で、洋服の表情がこんなにも変化するものかと、改めて驚かされた。
注目は、展示品の中にあった、「G.DRESS」のロングニット。たて編みの匠の技術をもつ北陸・吉田産業と、ワコール、松屋銀座の3社で共同開発した商品だそうだ。吉田産業は、伸縮性抜群の編みタイツを製造することで知られる会社。一見して変哲もないニットなので何がすごいのかわからない。だが、着てみると自在に伸びて、からだにほどよくフィットする感じがたまらないらしい。「昨秋売り出した当初はまったく売れませんでした。販売員がインナーとして着て、その着心地を率直に伝えることで、試してみようかなと思うお客様が増えて人気が出ました」と、担当者。
プランタン銀座“華やかに春の銀座を楽しもう!”
客層の中心を20-30代の女性が占めるプランタン銀座のテーマは、「華やかに春の銀座を楽しもう!」。日本人が愛する桜に目を付け、ピンクや花柄のトレンドアイテムをピックアップ。通勤、デート、アフターファイブのシーンごとに、若々しい装いの提案をした。
ファッションもさることながら、ここでは、愛らしいスイーツに目がいってしまう。さくらクリームがたっぷり入ったピンクのエクレアは、プランタン銀座直営の「サロン・ド・テ アンジェリーナ」から。ちょっぴり塩味が感じられる桜餅の風味、これこそ日本の春の味わいだ。パリで百年以上続く老舗菓子店の伝統と世界に誇る繊細な和テイストが融合した何ともおしゃれなスイーツだった。
銀座三越“ギンザ レトロ モダン”
銀座三越は、「ギンザ レトロ モダン」がテーマ。ストリートファッションの草分け「みゆき族」やアイビールックが流行した1960年代のファッションを今風に再現してみせた。
銀座の大通り、晴海通りから1本南側に入ったのがみゆき通りで、1960年代、アイビールックのファッションに身を包んだ若者たちであふれ返っていた。ボタンダウンシャツにニットタイ、肩の線を落とした三つボタンのジャケット、細身のコットンパンツ…。通りの名前から、「みゆき族」と呼ばれた。
女性の場合、「みゆき族」ならではのファッションアイテムといえば、リボンやワンピースの共布で作ったヘアアクセサリー、大きめのクラッチバックなど。スタジャンの小脇に抱えているのは、「VAN」の3文字ロゴがプリントされた伝説の紙袋…ではなくて、驚くなかれ、当時の形を活かしてヌメ皮クラッチバックとして再現されていた。
「VAN」を創業したのは、日本の男性ファッションをリードした粋人、石津謙介さんだ。アメリカの雑誌で知ったアイビールックを日本流にアレンジし、若者たちの間に大ブームを起こした。
10年ほど前になるが、生前の石津さんに当時の話を聞く機会があった。
「問屋に商品を持っていくと、『おっ、カネが来たぞ』と言われたほど、売れに売れた。大卒初任給が2万3千円程度の頃、VANのスーツは1万6千円。決して安くないはずなのに、店にはお客が待ち構えていて、VANの文字が記された段ボールが届くと、ふたも開けずに『そのまま欲しい』と取り合ったらしいんです」
ロゴ入り紙袋を抱えた「みゆき族」の登場は、まさに社会現象だったのだ。
銀座三越には、31日までの期間限定でVANショップが設けられているほか、日本にブレザー文化を根付かせた「ニューヨーカー」のパターンオーダー品なども登場。東京五輪に沸いた1960年代の世界にタイムスリップしてしまいそうだ。
3店3様で、新しい銀座の楽しみ方がまた一つ、発見できそうな気がする。
(読売新聞編集委員・永峰好美)