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「忠臣蔵コーナー」には、和装雑貨からお酒、和菓子まで、様々なグッズがそろっていた。
切腹最中
「歌舞伎ファンだけでなく、銀座・新橋のサラリーマンにも人気ですよ」と、店のスタッフが教えてくれたのが、「切腹最中」である。「切腹の覚悟で参りました」と、おわびのしるしに買っていくのだそうだ。
覚悟を決めたように白いはちまきを締めて、ぱっくり割れた皮の間からあんがはみ出した不思議な形だ。1個190円。
もち米で作った厚めの皮は、せんべいのようにぱりぱりと歯ごたえがある。あんは意外にあっさりしていて、中には柔らかな求肥が潜んでいた。
それにしても、インパクトのあるネーミングの最中である。考案したのは、銀座のお隣り、新橋で、大正元年に創業した和菓子店「
「老舗の和菓子屋がそんな縁起の悪い名前をつけるなんて、やめて」と、家族皆が反対したのを押し切って、1990年に売り出した。
というのも、現在は道路整備の余波で移転したが、もともとの店舗は「忠臣蔵」で知られる浅野内匠頭が切腹した
「幼い頃から聞かされていた史実なので、忠臣蔵にちなんだ名物菓子を作れないかなとずっと考えていました。ネーミングについては、119人にアンケートで聞いたら、118人がノーと言った。でも、なんかスイッチが入っちゃったんですよ。反対意見があればあるほど、あきらめられなくなってしまってね」と、渡辺さん。
ある時、なじみの証券会社の支店長が、部下のミスをおわびに取引先に行くというので、冗談半分で、この最中を手みやげに薦めてみた。果たして「切腹」の覚悟が通じたらしく、先方は苦笑して許してくれたそうだ。
そんな逸話がきっかけになり、ビジネスマンの間に口コミで広まって、「新橋発のおわびのお菓子」というイメージが定着したのだという。今年はそれに半沢直樹ブームも重なった。
今では、店は、忠臣蔵ゆかりの地を巡るツアーの観光バスが立ち寄る名所にもなった。討ち入りのあった12月は、1日4000個売れる。今年初出店した歌舞伎座の売店効果もあって、社長自ら、配達に飛び回っている。
また、生菓子が売れないといわれてきた8月でも、お盆の頃には、帰省用の東京土産として買い求める人も多いそうだ。
「結婚式の引き出物に使いたいと訪ねてきた若い2人がいたので、さすがに非常識だからやめた方がいいとアドバイスした。でも、新婦がどうしてもあきらめられなかったらしく、招待客に添える手紙まで持ってきた。『私たち、結婚します。切腹覚悟の2人をどうぞ未来永劫見守ってくださいませ』だって。なんだか泣かせるねえ」と、渡辺さんは目を細める。
ファン心をくすぐるパッケージデザイン
「忠臣蔵」にまつわる新商品も、次々に開発している。
パッケージに四十七士を描いた武者絵が描かれているようかんや吉良邸への討ち入りの際に使われた山鹿流陣太鼓をデザインしたどら焼きなど。忠臣蔵ファンならば、どれもこれも買い占めたくなってしまうのではないだろうか。
デザイン学校卒の当主のセンスもさることながら、忠臣蔵フリークのイラストレーター、もりい・くすおさんが、時に精密に、時にユーモアたっぷり愛らしく、歴史上の人物を描いている。
もりいさんいわく、「命がけで亡君の恨みを晴らすという忠義にも感動するし、実は武士道と見せかけた確信的な策略、政道への反逆と考えても面白い。何もかもを真っ白に包んだ雪の世界で真っ黒な装束の集団が決起する。こうしたビジュアルのコントラストも堪えられない。忠臣蔵はおもしろのデパート」と評している。
切腹最中をいただきながら、爽快な
(読売新聞編集委員・永峰好美)