2013年6月アーカイブ

2013.06.28

松坂屋銀座店…88年の歴史の幕を閉じる

流行の最先端を求めて銀座へ

 1920年代末、関東大震災から復興する新しい東京の都市景観をテーマに、おびただしい数の東京論が発表された。中でも、浅草に代わって盛り場の象徴となった銀座についての著作が多い。安藤更生の「銀座細見」と松崎天民の「銀座」が代表作だろう。

 高層ビルの並ぶ銀座通りを自動車が走る。明るく照らし出されたデパートのショーウィンドーが通りを飾り、ネオンサインが頭上にきらめく。モダンガールやモダンボーイが華やかに闊歩する――。

 人々は流行の先端を求めて、銀座に繰り出した。それができない人は、銀座の話をむさぼるように読んだのである。

 19298年(昭和43年)に大ヒットした「東京行進曲」は、西條八十(やそ)が日活映画から「流行るものを書いて欲しい」と依頼されて作った歌詞だ。「昔恋しい銀座の柳♪」と、銀座のモダン風俗の描写で始まっている。

 銀座の景観で中心になったのは、銀座通りの3つのデパートである。1924年(大正13年)に銀座に進出した松坂屋、翌25年に続いてた松屋、そして、30年にの三越。それまでの入り口での下足預かりの制度が廃止され、商品の陳列ケースを導入。また、食堂もカフェテリア形式が採用されるなど、一気にデパートの近代化が進んだ。

松坂屋銀座店88年を振り返る外壁

  • 6月30日、88年の歴史を閉じる松坂屋銀座店

 銀座で最も古い百貨店の松坂屋銀座店が6月30日、閉店する。今後建物は取り壊され、2016年に銀座エリアでは最大級となる大規模複合施設が建設される計画だ。

 さよならセールで連日にぎわう館の外壁を飾るのは、88年の歴史を振り返る写真である。いちはやく店内への土足を解禁したり、東京駅や有楽町駅からの顧客送迎バスを仕立てたり、エレベーターガールを採用したり。同店が導入し、他の百貨店が追随したという事柄は少なくない。

 外壁の写真で、元祖3人娘を見つけた。1956年(昭和31年)、美空ひばり、江利チエミ、雪村いづみの3人が登場する映画「ロマンス娘」の舞台になったのも、同店だった。

  • 外壁を飾る「銀座の変遷」
  • 88年間、銀座もいろいろ変化がありました
  • 屋上の遊園地も、とうとう消えてしまう

懐かしのメニュー復刻

  • 6月30日までの復刻メニュー企画に注目
  • 昔ながらのナポリタンは、サラダとスープ付き

 現在店内で開かれている催しで、食いしん坊の私が注目したのは、7階のレストランフロアの懐かしのメニュー復刻企画だ。ファミリー食堂のお子様ランチをはじめ、ヒレカツサンドやしらす・サーモン丼、マーブルケーキなど。広報担当者によれば、どれも人気があるそうだが、特に、一寸かつ定食(1470円)と昔ながらのナポリタン(980円)の注文が多いのだとか。

 ここはやはり、ナポリタンを食べるしかありません! 

 からめたトマトケチャップは甘すぎず、代表的な具材のタマネギ、ピーマン、赤いウインナー、缶詰のマッシュルーム、それに生のトマトが細かく刻んで加えられ、意外におとなの味だった。スパゲッティのゆで方もやや柔らかめといった仕上がり。「25年前にファミリー食堂がなくなるまで提供していました。いつからメニューに載ったかは不明です。レシピは昔と変わりませんが、ただ、味はちょっと今風なアレンジが入っているようです」(広報)とのこと。恐らく昔は、もっとうどんのように柔らかかったはずである。

日本オリジナル“スパゲッティ・ナポリタン”

 ところで、最近、このスパゲッティ・ナポリタン、軽食を出す喫茶店でサラリーマンに人気が出ているそうだ。トマトケチャップは、おとなの郷愁を誘うのだろうか。

 ナポリタンは、日本オリジナルのパスタ料理。横浜のホテルニューグランドの入江茂忠総料理長が、戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の接収解除後に、倉庫にあった乾燥パスタと瓶詰めケチャップを見つけて考案したとの説が有力だ。

 よく知られていることかもしれないが、イタリアのナポリには、スパゲッティ・ナポリタンは存在しない。先日テレビを見ていたら、お笑い芸人が、ナポリのピッツェリアを借りて、日本のナポリタンをイタリア人に勧めて反応をみるというバラエティ番組があった。「ゆで方が柔らかすぎる」「タマネギなんか入れるのは信じられない」「ピリリと辛味があればおいしくなるのに」と、ケチャップ味のパスタは大不評。

  • イタリア・ナポリで食べたトマト風味娼婦風のペンネ

 そりゃそうだ。ナポリのトマト風味のパスタといえば、スパゲッティ・アラ・プッタネスカ。日本語では娼婦風と呼ばれるもので、トマトソースに、黒オリーブ、アンチョビ、ケッパー、赤トウガラシなどで辛味をきかせたパスタである。

 とはいえ、私も、サラリーマン諸氏ではないが、時々ナポリタンが無性に食べたくなることがある。日本人の味覚DNAに埋め込まれているのだろうか。ちなみに、松坂屋銀座店の復刻メニュー企画は6月30日まで。もう一度食べに行こうかなあ。

この記事のURL | Trackback(0) | Comment(0)

2013.06.14

「オーガニックコスメ・ストリート」誕生

  • 銀座3丁目に誕生した「オーガニックコスメ・ストリート」

 銀座3丁目の松屋銀座の裏手に、ちょっとユニークな通りが誕生している。誰が名付けたかは知らないが、「オーガニックコスメ・ストリート」と呼ばれている。

 イギリスの「ニールズヤードレメディーズ」、イスラエルの「サボン」、アメリカの「キールズ」、日本の「ラ・カスタ」――世界4か国のオーガニック化粧品ブランドがずらり並んで店舗を構える。

オーガニックコスメ

 オーガニックコスメは、有機栽培で育てられた植物本来の自然なパワーを生かして作られた化粧品。日本ではまだ化粧品に対するオーガニック認証の制度がないので、定義は明確ではない。

 この分野の先駆者で、1990年代から日本に進出している「ニールズヤードレメディーズ」は、合成香料や合成着色料は一切使用しない、石油から作られる鉱物油は配合しない、遺伝子組み換え作物を用いない、生育数が減少していてサステイナブル(持続可能な)でない食物は使わない、動物実験は行わないなど、「ナチュラル&オーガニック」を企業哲学として掲げている。日本でも、健康や癒し、安全、環境への配慮などへの関心の強まりから人気が広がり、この5年間で市場は約30%増に伸張したとのデータもある。

 私は、結構なオーガニックコスメ好き。それぞれの店に、お気に入りがある。

日本生まれ、アロマコスメのパイオニア…「ラ・カスタ」

  • 5月にオープンした「ラ・カスタ」は日本生まれ。ヘアケア製品が充実している

 「オーガニックコスメ・ストリート」に5月にオープンした「ラ・カスタ」は、カタカナの名前からはわからないが、日本生まれの化粧品。1996年、日本でいち早く植物の精油(エッセンシャルオイル)を取り入れたことで知られる。お香やゆず湯など、日本に古くから伝わる香りの文化を基本に、日本女性のパサつきがちな太い髪質やきめが細かく敏感な肌質などに合わせた製品を独自に開発している。

 行きつけの美容室で洗い流さないヘアトリートメント剤「ヘアエマルジョン」を勧められてから、さらりとした感触とカモミールのすがすがしい香りが好きで、愛用している。

ロンドンでの出会い…「ニールズヤードレメディーズ」

 「ニールズヤードレメディーズ」との出合いは、1980年代半ば。ロンドンの大学にいた私は、コベントガーデンに1号店が誕生した時の印象が忘れられない。店舗の外観は薬屋さん風。野の花のディスプレイに誘われるまま店内にはいると、今まで経験したことのない香りのパラダイスだった。店の周囲には、当時、タロットの館とか、ヒッピー風のファッションを売る店とか、ホールフードのレストランとかが集まっていて、ちょっと不思議で、先端をいく空間だった。

 このブランドで注目したい香りは、フランキンセンス(乳香)だろう。「真のお香」という意味で、大人っぽい独特の香りだ。新約聖書では、キリスト誕生の際、東方の三賢人が、このフランキンセンスとミルラ(没薬(もつやく))、そして黄金を捧げたとの話が伝わっている。

美容大国イスラエル発…「サボン」

  • イスラエルのマーケットには、香料を売る店が多く、歩いているとあちこちからいい香りが…

 「サボン」は、「美容大国」といわれるイスラエル発の化粧品ブランド。同国出身のコンピューター技師がオーストラリアの伝統的な製法で作られる石けんに魅せられて創業した。特産のオリーブオイルやヘチマなどを原料にした手作り石けんをはじめ、死海の塩を使ったボディスクラブなど、特徴的な商品が多い。ボディスクラブで人気なのはバニラ・ココナッツの甘い香りらしいが、私は、爽やかなジャスミンを勧めたい。

 死海は、ヨーロッパで、昔からリウマチの療養地として知られている。海面下417メートル、世界で最も低い場所にある塩水湖は、ヨルダン川から流れる水が出口のないままにたまり、地中海の強い日差しの下に蒸発したため、塩分含有量は通常の海水の10倍、約33%。塩化マグネシウムやナトリウム、カリウムなど、肌の新陳代謝には欠かせないミネラル分が多量に含まれ、化粧品の配合成分として注目されている。

 2年ほど前、現地を訪ねた。ビーチでは、海に入る前に皆がからだに泥を塗りたくっていた。死海の泥は2万年近くかけて海底に堆積した沈殿物。クレオパトラも魅せられて、化粧品を造らせたとの記録が残っているそうだ。極小サイズの泥粒子は、肌の汚れやアカなどに吸着して、デトックス効果抜群だと聞いた。死海関連化粧品では、塩だけでなく、泥にも注目を。

ニューヨークの調剤薬局から生まれた…「キールズ」

  • 死海に入る前には、皆からだに泥を塗りたくっていた。デトックス効果が抜群とか

 1851年にニューヨークで調剤薬局としてスタートした「キールズ」にも、数々の名品がある。名前につられて買った「ミッドナイト・ボタニカル・コンセントレート」が私のお気に入りだ。深酒をして帰宅し、化粧をささっと落としてベッドにもぐり込む時、これを一塗りすると、翌朝、意外に肌がもっちり、滑らかなのだ。本当は顔をしっかりマッサージしながら使用するのがおすすめのようだが、面倒くさがり屋の私は、一塗りだけでも効果ありと信じている。

                    

 もちろん、オーガニックコスメは、男性用もそろっている。ラベンダーやローズの香りに誘われて、「オーガニックコスメ・ストリート」をぶらつきながら、自分だけのお気に入りを探すのは楽しい。

 (読売新聞編集委員・永峰好美)

この記事のURL | Trackback(0) | Comment(0)

2013.06.14

「オーガニックコスメ・ストリート」誕生

  • 銀座3丁目に誕生した「オーガニックコスメ・ストリート」

 銀座3丁目の松屋銀座の裏手に、ちょっとユニークな通りが誕生している。誰が名付けたかは知らないが、「オーガニックコスメ・ストリート」と呼ばれている。

 イギリスの「ニールズヤードレメディーズ」、イスラエルの「サボン」、アメリカの「キールズ」、日本の「ラ・カスタ」――世界4か国のオーガニック化粧品ブランドがずらり並んで店舗を構える。

オーガニックコスメ

 オーガニックコスメは、有機栽培で育てられた植物本来の自然なパワーを生かして作られた化粧品。日本ではまだ化粧品に対するオーガニック認証の制度がないので、定義は明確ではない。

 この分野の先駆者で、1990年代から日本に進出している「ニールズヤードレメディーズ」は、合成香料や合成着色料は一切使用しない、石油から作られる鉱物油は配合しない、遺伝子組み換え作物を用いない、生育数が減少していてサステイナブル(持続可能な)でない食物は使わない、動物実験は行わないなど、「ナチュラル&オーガニック」を企業哲学として掲げている。日本でも、健康や癒し、安全、環境への配慮などへの関心の強まりから人気が広がり、この5年間で市場は約30%増に伸張したとのデータもある。

 私は、結構なオーガニックコスメ好き。それぞれの店に、お気に入りがある。

日本生まれ、アロマコスメのパイオニア…「ラ・カスタ」

  • 5月にオープンした「ラ・カスタ」は日本生まれ。ヘアケア製品が充実している

 「オーガニックコスメ・ストリート」に5月にオープンした「ラ・カスタ」は、カタカナの名前からはわからないが、日本生まれの化粧品。1996年、日本でいち早く植物の精油(エッセンシャルオイル)を取り入れたことで知られる。お香やゆず湯など、日本に古くから伝わる香りの文化を基本に、日本女性のパサつきがちな太い髪質やきめが細かく敏感な肌質などに合わせた製品を独自に開発している。

 行きつけの美容室で洗い流さないヘアトリートメント剤「ヘアエマルジョン」を勧められてから、さらりとした感触とカモミールのすがすがしい香りが好きで、愛用している。

ロンドンでの出会い…「ニールズヤードレメディーズ」

 「ニールズヤードレメディーズ」との出合いは、1980年代半ば。ロンドンの大学にいた私は、コベントガーデンに1号店が誕生した時の印象が忘れられない。店舗の外観は薬屋さん風。野の花のディスプレイに誘われるまま店内にはいると、今まで経験したことのない香りのパラダイスだった。店の周囲には、当時、タロットの館とか、ヒッピー風のファッションを売る店とか、ホールフードのレストランとかが集まっていて、ちょっと不思議で、先端をいく空間だった。

 このブランドで注目したい香りは、フランキンセンス(乳香)だろう。「真のお香」という意味で、大人っぽい独特の香りだ。新約聖書では、キリスト誕生の際、東方の三賢人が、このフランキンセンスとミルラ(没薬(もつやく))、そして黄金を捧げたとの話が伝わっている。

美容大国イスラエル発…「サボン」

  • イスラエルのマーケットには、香料を売る店が多く、歩いているとあちこちからいい香りが…

 「サボン」は、「美容大国」といわれるイスラエル発の化粧品ブランド。同国出身のコンピューター技師がオーストラリアの伝統的な製法で作られる石けんに魅せられて創業した。特産のオリーブオイルやヘチマなどを原料にした手作り石けんをはじめ、死海の塩を使ったボディスクラブなど、特徴的な商品が多い。ボディスクラブで人気なのはバニラ・ココナッツの甘い香りらしいが、私は、爽やかなジャスミンを勧めたい。

 死海は、ヨーロッパで、昔からリウマチの療養地として知られている。海面下417メートル、世界で最も低い場所にある塩水湖は、ヨルダン川から流れる水が出口のないままにたまり、地中海の強い日差しの下に蒸発したため、塩分含有量は通常の海水の10倍、約33%。塩化マグネシウムやナトリウム、カリウムなど、肌の新陳代謝には欠かせないミネラル分が多量に含まれ、化粧品の配合成分として注目されている。

 2年ほど前、現地を訪ねた。ビーチでは、海に入る前に皆がからだに泥を塗りたくっていた。死海の泥は2万年近くかけて海底に堆積した沈殿物。クレオパトラも魅せられて、化粧品を造らせたとの記録が残っているそうだ。極小サイズの泥粒子は、肌の汚れやアカなどに吸着して、デトックス効果抜群だと聞いた。死海関連化粧品では、塩だけでなく、泥にも注目を。

ニューヨークの調剤薬局から生まれた…「キールズ」

  • 死海に入る前には、皆からだに泥を塗りたくっていた。デトックス効果が抜群とか

 1851年にニューヨークで調剤薬局としてスタートした「キールズ」にも、数々の名品がある。名前につられて買った「ミッドナイト・ボタニカル・コンセントレート」が私のお気に入りだ。深酒をして帰宅し、化粧をささっと落としてベッドにもぐり込む時、これを一塗りすると、翌朝、意外に肌がもっちり、滑らかなのだ。本当は顔をしっかりマッサージしながら使用するのがおすすめのようだが、面倒くさがり屋の私は、一塗りだけでも効果ありと信じている。

                    

 もちろん、オーガニックコスメは、男性用もそろっている。ラベンダーやローズの香りに誘われて、「オーガニックコスメ・ストリート」をぶらつきながら、自分だけのお気に入りを探すのは楽しい。

 (読売新聞編集委員・永峰好美)

この記事のURL | Trackback(0) | Comment(0)

永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)