2013年4月アーカイブ

2013.04.26

世界へ発信!新たな文化スポット「歌舞伎座ギャラリー」

  • 歌舞伎座タワーには、地下鉄・東銀座駅から地下の木挽町広場を経由して行ける
  • 桜色のタペストリーに描かれた「花丸」文様

 新歌舞伎座の開場以来、連日にぎわいが続いている銀座の街。そこにもう一つ、新たな注目スポットが加わった。高層の歌舞伎座タワー5階に、4月24日オープンした「歌舞伎座ギャラリー」だ。

四季折々の企画展…オープニングは「歌舞伎の美 春」

 目的は、歌舞伎を中心とした日本の伝統文化の魅力を世界に発信すること。季節に応じてテーマを変える企画展が目玉の一つだ。オープニングの企画展のタイトルは、「歌舞伎の美 春」(6月30日まで)。早速出かけてみた。

 入り口を入ると、まず、桜色のタピペストリーに丸く大きく描かれた花の文様に目を奪われた。舞台の壁や欄間に描かれ、背景の一部として溶け込んでいる「花丸」だが、単独で見ると、こんなにも華やかだったのかと改めて驚かされた。

普段目にすることはできない「道具帳」コレクション

 続いて、「道具帳」のコレクション。これは、舞台の設計図に当たる。細やかな筆づかいの一つひとつに、大道具方のこだわりが透けてみえる。役者たちは、この道具帳を見ながら完成した舞台を思い浮かべ、「ここの屋台はもう少し大きく派手に飾ってほしい」など大道具方に注文したりするのだそうだ。

 桜にちなんだ6つの歌舞伎作品の道具帳が飾られていた。歌舞伎は初心者レベルの私でもわかる、「京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)」や「祇園祭礼信仰記 金閣寺」など。次のコーナーでは、その名場面を実際の舞台映像ダイジェストで見られるのがうれしい。歌舞伎の中で、桜がこんなにも愛され、印象的に表現されていることを再認識させられた。

 さらに進むと、「吉原中之町」の道具帳をもとにした大きなパネルが迎えてくれる。「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」の主人公である助六の恋人、揚巻(あげまき)の豪華な衣装や箱提灯、傘などの展示が見もの。もちろん、すべて歌舞伎の舞台で実際に使われている本物である。それをこんなに間近で見られるのだから感激だ。

 ところで、天井から吊られている「桜の吊り枝」は、歌舞伎には欠かせない大道具の一つだが、歌舞伎座と新橋演舞場とでは、色が異なるのだそうだ。淡い方が歌舞伎座で、濃い方が演舞場だと聞いた。

  • 舞台の設計図、「道具帳」コレクション
  • 助六の恋人、揚巻のけんらん豪華な衣装
  • 「桜の吊り枝」の向こうに扇子が舞う

オープン記念トークショーは中村梅玉さん

  • オープン記念のトークショーに登場した中村梅玉さん(右)。左は、松竹取締役の岡崎哲也さん

 ギャラリーの奥に併設されている木挽町ホールでは、今後様々なイベントが行われる予定。そのステージには、これまで歌舞伎座で使われていたひのきが利用されているという。オープン記念のトークショーには、歌舞伎俳優の中村梅玉さんが登場、「歌舞伎は、衣装や道具類、楽器に至るまですべて含めて、世界に誇れる総合舞台芸術。展示を見て、こんなに美しい衣装を着けるのならば、歌舞伎の舞台を見てみたいと興味を持ってもらえればうれしい」と語っていた。

 まだまだ見どころはあるけれど、あまり種明かしをしてしまうと、楽しみが半減するので、このあたりで…。

パリでも人気急上昇、創業160年老舗の日本茶カフェ「寿月堂」

  • 日本茶カフェ「寿月堂銀座歌舞伎座店」は竹に囲まれた靜かな空間
  • コクのある煎茶をいただいて一休み (松竹提供)

 さて、私が注目したもう一つのスポットが、ギャラリーに隣接している日本茶カフェ「寿月堂銀座歌舞伎座店」。築地で創業して160年になるお茶と海苔の老舗、丸山海苔店が運営するカフェだ。数年前からパリで緑茶人気が上がっているとのうわさを耳にしていたが、その中心的な店が寿月堂パリ店だった。パリ店を設計した隈研吾さんが、約2000本の竹を使って茶禅の世界を再現している。

 店のスタッフの説明を聞いて、日本茶についてあまりに無知な自分に恥じ入った。早摘み新芽から出るふくよかな香りとまったりとした味わいが特徴の緑茶は75度前後の湯で60秒間くらいかけて抽出。渋みも苦みもしっかりしたコクのある深蒸し茶は、80-85度で30秒くらいでいただくとおいしい。緑茶の基本は、日本人として学んでおかないといけないなと、反省しきり。週末には、急須でゆっくり煎茶を入れてみよう。

歌舞伎なりきり写真にチャレンジ

 さらに、お楽しみスポットを挙げるとしたら、白塗り、衣装、かつらで歌舞伎の役に扮装できる「スタジオアリス歌舞伎写真館」。一度変身にチャレンジしてみるのも面白そうだ。「京鹿子娘道成寺」の主人公、白拍子花子(しらびょうしはなこ)なんて、素敵ではありませんか! 支度代と撮影料金で18000円、別に写真代セットで35000円から。ちと高いか。扮装メニューは、季節に合わせて変わるようだ。

 春らんまん。今年の桜の季節はあっという間に過ぎてしまったけれど、その余韻を思い返し、和の気分に浸ることができる貴重な空間でもあった。

  • 歌舞伎の役に扮装できる写真館もある
  • 白拍子花子に変身すると、こんな感じに(松竹提供)

◆歌舞伎座ギャラリー情報はこちら

(読売新聞編集委員・永峰好美)

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2013.04.05

新歌舞伎座を楽しもう

  • 雨天にもかかわらず、こけら落とし公演には朝から大勢が詰めかけた(4月2日)

 新しい歌舞伎座が開場し、4月2日からこけら落とし公演が始まった。東銀座の歌舞伎座周辺は、物見遊山の人々も含め、連日大にぎわいだ。

 明治半ばの1889年に初代が開場し、新歌舞伎座は5代目になる。「伝統と革新の両立」がうたわれているように、背後に高層ビルが建ち、バリアフリー化や座席背面の字幕モニター設置など快適性を向上させた以外は、見た目ではそれほどの変化は感じられない。しかし、見えないところに新しい技術が駆使されている点も忘れられないだろう。

 内覧会を含め、私の視線で追った新歌舞伎座の注目ポイントをいくつかご紹介しよう。

名画と写真は要チェック

 まず、正面玄関を入って最初にお目見えする大間(おおま)と呼ばれるロビー。2階までの吹き抜けの床面じゅうたんに、昭和26年(1951年)の第4期歌舞伎座開場時に用いられた絵柄を再現。平等院鳳凰堂中堂母屋の方位に描かれた菱形文様で、咋鳥(さくちょう)という4羽の鳥が幸せを結ぶといわれている。2階の吹き抜けのロビーから見下ろすと、よく見える。ロビーには伊藤深水や東山魁夷など、名画が並んでいるので、要チェックだ。

 もう1つ階段を上って3階に行くと、売店横を通って食事処「花篭(はなかご)」に向かう通路壁面に、活躍した歴代歌舞伎役者の写真が飾られている。中村勘三郎さんや市川団十郎さんの写真があるのが、寂しい。

  • 2階の吹き抜けのロビーから正面玄関を見下ろす
  • 活躍した歴代の歌舞伎役者たちがずらりと並ぶ

こだわりの幕の内弁当と特製スイーツ

 「花篭」では、芝居小屋から生まれたこだわりの幕の内弁当を食べたい。江戸文化研究家の松下幸子・千葉大名誉教授の監修で、江戸時代の芝居茶屋で食べられていた弁当をできる限り再現したのだそうだ。特に、焼き豆腐とかんぴょうの煮物の2つは欠かせないもの。逆に、現代の幕の内弁当で定番のおかずになっている揚げ物は入れていない。

 「かぶき幕の内」(2100円)は予約制で食事処でのサービスになるが、折り詰めの「江戸風幕の内」(1000円)は、東銀座駅に直結した木挽町広場の売店でも買える。また、木挽町通りをはさんだビルにある「日本料理ほうおう」では、幕間に「ほうおう膳」(予約制、3500円)が楽しめる。

 1階の喫茶室「(ひのき)」では、特製スイーツがいただけるのもうれしい。あえておすすめを挙げると、銀座の人気フレンチ「レストラン・トトキ」が作った「くっちゃみセット」(600円)。歌舞伎座の象徴カラー「黒茶緑」を意識した小菓子セットで、カスタード風味のカヌレ・ド・ボルドー、果物の風味がおいしいメロンチョコ、エンドウ豆で作ったファミューゼの3種類。もう1つ挙げるとしたら、花魁(おいらん)八ッ橋の13段重ねの草履をイメージして作ったという「KABUKU~へん」をおすすめしたい。

  • 江戸時代の芝居茶屋で食べられていた弁当を再現
  • 白い食器でサービスされる「ほうおう膳」
  • 「kabuku~へん」はちょっぴり酸味のきいた本格バームクーヘン

舞台裏をのぞいてみよう

 歌舞伎座タワー5階には、約450平方メートルの屋上庭園がある。歌舞伎作者河竹黙阿弥が愛した石灯籠とつくばいが据えられている。4月23日には新設のギャラリーがオープンする。歌舞伎の衣装や小道具などを展示する企画展や衣装をまとって撮影できる体験型写真館もあって、ここは誰でも自由に入場できる。

 ちょっと舞台裏をのぞいてみよう。

 庭園から赤く塗られた五右衛門階段を下ると、4階の幕見席のロビーに出る。この階には、2室の板張りの稽古場がある。また、3階には楽屋や洗濯室、風呂場などに加えて、立ち回りなどで見られる宙返りの練習をする砂場、通称「トンボ道場」も設置された。これまでも砂場はあったそうだが、専用の空間として独立させたところが新しいそうだ。

  • 屋上庭園にある黙阿弥にちなんだ石灯籠など
  • トンボ道場は若手役者にとって修行の場

奈落が画期的に

  • 大奈落から舞台を見上げる

 舞台下の空間である奈落(ならく)を地下2階の大奈落から見上げた。回り舞台の直径約18メートルは従来と同じだが、深さは4倍になり、約16メートルに。大道具を動かすセリは従来より1か所増えて4か所になり、大がかりな大道具を動かせるようになった。大奈落の横に大道具を置ける場所が確保され、転換がより迅速にできるようになるという。これこそ、技術革新の成果の一つといえるのだろう。

 それにしても、奈落とは、本当に真っ暗であった。サンスクリット語で「naraka」が転じて「奈落」となったが、本来は仏教用語だ。地獄や地獄に落ちることを意味する。舞台の上の華麗さとは対照的に、舞台下には不気味なほどの暗がりが広がっていた。

幸せになる「逆さ鳳凰」

 さて最後に、歌舞伎ファンの間で今ひそかにささやかれている「ウワサ」を一つ。

 歌舞伎座の屋根には、シンボルである鳳凰の紋をかたどった瓦が並んでいるが、一つだけ逆さになっているものがあるそうな。「逆さ鳳凰」といわれて、これを見つけると幸せになるという。

 何かと話題の多い歌舞伎座から、当分の間目が離せそうもない。

  • 内覧会の時、新しい楽屋を拝見
  • 楽屋口には、神棚。興業の無事と成功を祈るのだろうか

(読売新聞編集委員・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)