2013.01.11

宝塚、夢の世界見せ続け100周年

  • 第1回企画展「タカラヅカを彩った芸術家たち」
  • 展示室の入り口には、阪急東宝グループ創業者の小林一三の写真(※)

 友人に誘われてタカラヅカを初めて見たのは、社会人になってからだった。現実のすべてを忘れさせてくれるような、あのキラキラした世界。ときどき無性に恋しくなるのは、私だけではないのではないだろうか。

 昨年末、東京・銀座のお隣、日比谷にある千代田区立日比谷図書文化館で、宝塚歌劇団に関する展示が開かれた(2012年12月27日で終了)。1934年(昭和9年)に開場した東京宝塚劇場は、来年2014年、開場80周年。宝塚歌劇の100周年という節目の年でもある。

 東京宝塚劇場は、日比谷の映画・劇場街の発展の中で、核になってきた存在である。1回目の企画展「タカラヅカを彩った芸術家たち」では、黎明期から今日にいたるまでの華やかな舞台の陰で同歌劇を支えてきた脚本家や写真家、イラストレーター、デザイナーたちにスポットライトを当てており、興味深い展示だった。

新舞踊の旗手

 入り口で、宝塚歌劇の創始者、小林一三の写真に迎えられ、奥に進むと、宝塚創生期の先進的舞踊家、楳茂都(うめもと)陸平(りくへい)のコーナーがあった。

 上方舞楳茂都流家元の家の生まれで、20歳の時、宝塚音楽歌劇養成会の教師兼振り付け師に就任、翌1918年に宝塚音楽歌劇学校教授に。21年(大正10年)、オーケストラによる西洋音楽に日本舞踊、西洋舞踊、舞楽の要素を取り入れた群舞「春から秋へ」を発表して、「新舞踊の旗手」として注目された。会場には、新舞踊で使用された蝶をイメージした衣装が飾られていたが、イッセイミヤケ風の斬新なデザインに驚かされる。

 昭和の初めには、ドイツに留学し、舞踊理論などを学ぶと同時に、ヨーロッパ各地で日本舞踊のレクチャー・デモンストレーションを実践。この時の写真や記録ノート、緻密なスケッチが数多く残されているそうで、今回はその一部が公開された。

  • 楳茂都陸平のコーナーは資料も多く、特に充実していた(※)
  • 楳茂都のドイツでの指導風景 演目は「熱情ソナタ」(※)
  • 研究者によって再現上演された楳茂都の新舞踊の一場面(※)

少女たちの世界を描いた美術家たち

 瞳の大きな独特の女性画で当時の少女たちを魅惑した挿画画家、中原淳一は、雑誌「宝塚をとめ」の表紙を手がけ、それが縁で戦前の歌劇団のスターだった葦原邦子と結婚した。当時の画風は、妻の容貌に似た挿画が多く、一ファンの熱い思いが透けて見える。

 横尾忠則も、タカラヅカに触発された美術家の一人。1990年代から歌劇の公演チラシやポスターを手がけ、その独特のデザインが評判だった。

 東京宝塚劇場誕生の年に生まれた少女画の巨匠、高橋真琴は、中原淳一の絵に憧れて画家を志した。「青い珊瑚礁」など、宝塚歌劇を漫画化した作品もある。千葉県佐倉市に真琴画廊を開設し、現在も意欲的に新作を発表し続けている。

  • 高橋真琴が描く雑誌「ブルータス」の表紙(※)
  • 中原淳一の挿画(※)

手塚治虫を魅了した「見果てぬ夢」

  • 手塚治虫も宝塚に影響を受けた(※)

 タカラヅカに影響を受けたアーティストの中で、忘れてはならないのは、手塚治虫だ。5歳から23歳までを宝塚市で過ごし、宝塚ファンだった母に連れられて、子ども時代から劇場に足繁く通ったという。漫画家として駆け出しの頃には、雑誌「歌劇」や「宝塚グラフ」に挿絵の漫画を提供していた。「リボンの騎士」をはじめとする少女漫画作品には、物語の展開や西洋文化の薫り、人間愛のテーマなど、タカラヅカからの影響が随所にみられる作品も少なくないようだ。

 展示の中にあった手塚語録から一つ引いてみたい。

 「宝塚というところは全てが『まがいもの』なんだけれども、インターナショナルなものを見せてくれる。…とにかくなにかロマンがそこにあふれているのです。青春があるのです。青春とは何かと、僕はいろいろ考えるけれど、『見果てぬ夢』なんです。そういうものが宝塚にはあった。ひじょうにアマチュア的で、しかも適当にきらびやかだという、そこらへんに雲の上にいるような夢の世界みたいなものがある。それが、僕の初期の作品のすべてを支配しているわけです」

 私がタカラヅカを見て、あのキラキラした世界に魅了されたのも、やはり心地よい青春の風を感じたからのような気がする。

春からイベント続々

 さて、今回の企画展は残念ながら終了してしまったが、同館では4月以降、宝塚関係者のトークショーや講演会を適宜企画していく。また、2014年春には、第1回の企画展よりもさらに規模を広げたイベントを計画中だという。

 なお、4月6日には、1974年初演の「ベルサイユのばら」でマリー・アントワネット役を務め、第1期ベルばらブームの火付け役になった、元タカラジェンヌの初風諄さんのトークショーが予定されている。問い合わせは、同館(電話03-3502-3340)へ。

 (※印のついた写真は東京・千代田区立日比谷図書文化館提供)

 (読売新聞編集委員・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)