2012.02.24

銀座の夜にやさしく広がる歌声&トーク…岡本真夜さん

  • 私にとって聴きたかった唄は何だろう? そんなことを考えさせてくれる企画です

 2011年11月18日付の小欄で小室等さんの「フォーク長屋」シリーズのことをご紹介したが、そのライブが行われた銀座7丁目のヤマハ銀座スタジオは、興味深い催しが目白押しである。客席数90余の小ぢんまりした空間なので、ステージとの距離がものすごく近く、音響効果も抜群なのだ。

 今回のぞいたのは、日本を代表するギタリストでシンガーソングライター、プロデューサーでもある古川昌義さんが企画する「ウタノコトバ~聴きたかった唄声~」。

 CHAGE&ASKA、元ちとせ、中島みゆきら様々なアーティストのツアーやレコーディングに参加する古川さん。ふつうは、ボーカリストに招かれてステージで演奏するのだが、今回は逆。古川さん自身が聴きたいと思うボーカリストに声をかけて、歌ってもらう。

 「仕事なんだけれども、趣味でもほれ込んでしまう歌声に出会うと、愛しきこの声を心ゆくまで聴いてみたいと思う。ただただいい歌声が聴きたいという、実にシンプルな気持ちから始まった企画」なのだという。

 ボーカリスト本人のツアーでは、やりたくてもやれないカヴァー楽曲があったり、挑戦するのが難しいパフォーマンスがあったりする。それを何の制約もしがらみも持たず、自由な発想で実現してもらおうというのだから、これほどぜいたくな企画はない。

少女の心に寄り添い、支えたい

  • なごやかな雰囲気で時間が流れる

 このシリーズ、今までに辛島みどりさん、中西圭三さん、夏川りみさんが登場。4回目になる今回のゲストは、岡本真夜さん。

 ギターの古川さんをはじめ、キーボードの森俊之さん、ドラムの江口信夫さん、ベースの萩原メッケン基文さんとは、デビュー当時に一緒にレコーディングを経験した仲なので、最初からなごやかな雰囲気だった。最初の曲目にオリジナルナンバーから「同窓会」をセレクトしたのも、懐かしい仲間たちとの再会を記念してのことだろうか。

 「Will」「Alone」と続き、3月発売のニューアルバムに入れた新曲「約束」は、歌詞の朗読から始まった。

  • 被災地のことを思い浮かべながら歌う岡本真夜さん

 「約束」は、昨年夏、大震災の被災家族を特集したテレビのドキュメンタリー番組の中で、父を亡くした十代の少女が発した言葉「強くなる」に触発されて作った楽曲。3.11からまもなく1年が経つ。

真夜さんは、ニューアルバムの解説でこう語っている。

 「大震災のあと、日本中が復興に向けて動き始めたとき、一人の人間として、一人のアーティストとして、自分は何をすべきか考え抜いて出した答え は、この大きな爪痕を残した震災が起きたという悲しい事実と、その直後に起こった日本中が団結するという素晴らしい出来事を風化させないように、人々の胸 に音楽を通じて刻んでいこうというものでした」

 「頑張っている少女も、夜、眠りにつくときには、きっといろんなことを思い出して涙することもあるのだろうなと思って……」。真夜さんの目に涙が光った。少女の心にずっと寄り添い、支えられるような曲を作りたいと考えて、「ずっと君を忘れないよ。人は変われると信じて強くなる」という歌詞を紡ぎ出した。

 オリジナルナンバーの最後は、デビュー曲「TOMORROW」。被災地の避難所で、多くの人が口ずさんで元気を取り戻したといわれた曲だ。「涙の数だけ強くなれるよ 明日は来るよ 君のために」。やさしい歌声が心にしみる。名曲だ。ニューアルバムにも新録音で収録されている。

がらりと変わって洋楽のオンパレード

  • 80年代の洋楽を熱唱する岡本真夜さん
  • トークが楽しい古川昌義さん

 なんとなく前向きな気持ちになったところで、がらりと変わって、ここから洋楽のオンパレード。

 キャロル・キングの「So Far Away」、マイケル・ジャクソン「Human Nature」、シンディ・ローパー「Time After Time」、ホール&オーツ「Private Eyes」。

 80年代のヒット曲が次から次へと流れて、当時社会人になったばかりの私には、仕事の失敗のほろ苦い思い出やデートの甘い記憶などが重なって、懐かしいやら、楽しいやら。

 真夜さんいわく、「こういう曲を自分でも作りたいのに作れない、憧れの楽曲をそろえた」そうだが、ボサノヴァ風のマイケル・ジャクソンや、しっとりしんみりするシンディ・ローパーなど、真夜さんの声にのると、とても新鮮だった。「キャロル・キングははずさないですね。シンプルなコードにこだわりがある」と、こちらは古川さんの解説。

 さらに、日本のアーティストの曲に移り、スターダストレビューの「木蘭の涙」、久保田利伸の「Missing」、山下達郎の「Ride on Time」と続いた。

歌い手と観客の交感

 「せつない曲が大好き。でも、私、暗い人ではないんです」と、真夜さん。

 久保田利伸の曲を歌い終わると、「いい曲ですね。私もこういう曲、作りたいなあ」と、しみじみ話す。真夜さん自身、久保田さんのライブに足を運んでいるが、「先日は、自分のライブの前日だったので、さすがにマネージャーから待ったが出たので残念でした。自宅で思いっきり歌ったんですよ」というから、面白い。

  • 古川さんと真夜さんのおしゃべりがまた楽しい

 「メロディーがしっかりした曲が好き」という真夜さんに、「筒美京平さんとかの昭和歌謡のアレンジを聴くと、本当に見事ですよね。昔から日本のメロディーって、すごかったんだって改めて思います」と、古川さんが返す。リビングルームにいるようなリラックスした雰囲気の中で、2人のたわいないおしゃべりが耳にやさしく広がった。

 2度とこんなぜいたくなライブは聴けないかもしれない、と思った。だれよりも、歌い手が一番楽しそうだったし、歌い手を囲むミュージシャンたちが「音楽って、いいよね」という気分オーラを放ち、それに観客が酔っていき、そのハッピーな反応に歌い手がさらにエネルギッシュに応えていくといった循環が心地よかった。

 ヤマハ銀座ビル推進室の大久保康子さんは、「サポートミュージシャンだけでなく、脚本、制作、音響、照明などに携わるステージクリエーターにとっても、わくわくどきどきする空間。シリーズとしてずっと続けていきたい」と話す。

 (プランタン銀座常務・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)