仕事で大分県・別府を訪ねた週末、以前から気になっていた山荘・
温泉天国・別府の中でも非常に珍しいブルーの温泉で、1万4千坪の敷地内に湧く自家源泉という。
全国に硫黄系の青白い温泉は数多いけれど、ここの「青の湯」は、メタケイ酸成分の変化によって、時々刻々と色が変化していくところが興味深い。湧出時には無色透明なのに、日を追うごとにコバルトブルーに変化していき、約1週間ほどで白濁色になるのだそうだ。
確かに、部屋に付いた露天風呂は、毎日入れ替えるとのことで、まだ透明度が高かった。大浴場の露天風呂の湯は、湯を張りかえて3日目なので、透明感はあるものの、かなり青みが増していた。そして翌朝もう一度大浴場に出かけてみると、心なしか鮮やかなコバルトブルーの濃さが進化しているような気がした。
これから段々と乳白色を帯びていき、1週間後はミルクのような白色に変化を遂げるというのだから、大地の神秘は素晴らしい。
湯はややしょっぱめで、泉質は肌にやさしい弱酸性。やわらかく、肌を滑って行くような感覚が心地よかった。
地獄めぐりでパワーチャージ
夕食には、この時期ならでは、臼杵産のふぐをいただく。ふぐ皮の和え物にふぐ寿司、薄造り、唐揚げ、ふぐちりに雑炊、そしてもちろん、ふぐ酒も……。担当の仲居さんは、「臼杵産のふぐは、下関のものよりも味が繊細」と自慢していたが、まあ、比べるまでもないだろう。
青い湯にちなんで、ブルーが基調のオリジナルカクテルもあった。グレープフルーツの酸味がきいて、すっきりした味わいである。
神和苑のすぐお隣りは、別府地獄めぐりで名高い、国指定名勝の海地獄。1200年前、鶴見岳の爆発によりできた広大な池は、海のように真っ青。ただ、神和苑のブルーのような透明感はない。こちらは、温泉中の成分である硫酸鉄が溶解して青色をつくり出していると聞いた。
それにしても、大地のパワーを全身で感じることができる温泉は、元気をチャージしてくれる。
さて、温泉ではないけれど、東京・銀座にも、銭湯があることをご存じだろうか?
ビルの中に銭湯
1丁目の高速道路の高架下に近い区営の「銀座湯」と、8丁目の飲食街が並ぶ通りの「金春湯」。どちらもビルの中にこぢんまりと収まっている。寒空の下、夕方5時ごろ、写真を撮るためにしばらく建物の外で観察していると、近所のお年寄りやら飲食店関係と思われる職人さんやらが、次々と入口に吸い込まれていく。銀座の街の人々に愛されている場所であることがわかった。
金春湯の歴史は古く、1863年(文久3年)にさかのぼる。1957年(昭和32年)に改築するまでは、木造だったという。吹き抜けの天井には、レトロな扇風機があって、今も夏場は活躍している。
1960年代には、ほかにも、4丁目の和光の裏に「大黒湯」、2丁目の中央通りと昭和通りに挟まれたあたりに「松の湯」などがあった。
映画「東京の暴れん坊」は「松の湯」が舞台
先日借りたDVDで、小林旭と浅岡ルリ子が主演している青春映画「東京の暴れん坊」では、この「松の湯」が舞台になっていて、実際にロケを行っている。
2人は幼ななじみで、浅岡ルリ子は「松の湯」の看板娘、小林旭もやはり家業が洋食屋の銀座育ちで、パリ留学から帰ってきたコックで、とにかくバーのマダムたちにもてるといった設定である。「松の湯」を買収して再開発、実は一大ソープランドを作って一もうけしようとたくらむ政治家一家との間にひと悶着あって、マイトガイ小林旭が江戸っ子のきっぷの良さを発揮して大活躍する。
時は1960年。松の湯の大きな煙突から煙がもくもく出るシーンと、4丁目の交差点にあった森永の地球儀型広告塔と不二家のネオンサインが重なり合って、成長期の銀座の変化を映し出す。
今度はゆっくり大きな湯舟につかって、下町のよさを残していたころの銀座に思いをはせてみることにしたい。
(プランタン銀座常務・永峰好美)