皆さま、正月はいかがお過ごしになられましたでしょうか。今年もどうぞよろしくお付き合いください。
さて、百貨店で働く私は、正月休みは1月1日だけ。元旦の夜は、東京・日比谷の帝国ホテルで、第13代総料理長・田中健一郎さんが企画した「新春フランス料理懐石」に参加して来た。
田中さんの総料理長就任以来、年に数回開いている「フランス料理とセレナード」の中から、特に心に残るメニューをデギュスタション(テイスティング)スタイルでいただくという力の入った催し。デザートも入れると、品数は全部で10品にも上る。
早速、1品ずつご紹介してみたい。
1品目、三色のアミューズ:ヴィシソワーズ オマール海老のクレムーズ クリュスタッセのジュレ。甲殻類の透明なコンソメゼリーが一番下に敷かれ、オマール海老の淡いオレンジ、そして、ジャガイモのポタージュの乳白色が三層に重なる、美しい一品。さわやかな味わいで、ロゼ・シャンパーニュとの相性が抜群。
2品目、ラングスティーヌのキャヴィア飾りをミカンのジュレにあしらって 柔らかくボイルしたラングスティーヌには、オマール海老の卵が彩りよく散らしてある。やさしい味の日本のミカン、そしてユズの香りもほんのりと。
3品目、比内鶏のバロティーヌ フォアグラとトリュフの入ったバスマチ米のピラフを添えて。フォワグラを中に包み込むようにして巻いた鶏肉に、フランス産の米のピラフを組み合わせ。鶏のクリームソースがコクがあって美味しい。
4品目、塩鱈のブランダードとノルウェー産スモークサーモンの取り合わせ 北海道産の塩鱈をガーリックとオリーブオイルで柔らかくアレンジ。スモークサーモンは通常よりもかなり減塩されていて、さりげないけれどもヘルシーな味わいに感動。
5品目、甘鯛の天火焼きと先取り野菜 江戸前アサリのコンソメスープ 魚介の旨みと香りがぎゅぎゅっと凝縮されたコンソメソースを、皿に盛られた魚と野菜の上から注いでいただく。菜の花やキントキニンジンが春を連れてきてくれたようだ。
6品目、帆立貝とたらば蟹のスフレ仕立て スフレの下部は、サフランでちょっと変化を付けているのだそう。ソースは、ソーテルヌの貴腐ワインを使って。甘く濃厚なソースは、魚介のやさしい風味をより引き立ててくれる。
7品目、帝国ホテル伝統のビーフシチュー 和牛バラ肉をとろとろに煮込み、ベーコンと彩り野菜とともに、小さな銀鍋で熱々のところをサービスするのが、帝国ホテル流。
8品目、根室産蝦夷鹿背肉のポワレ 姫りんごのコンポートと金柑のチャツネ 田中さんのお気に入りの食材、蝦夷鹿は、チルドルームで約2週間寝かせて、ほどよくエイジングした自信作。トリュフのソースをかけて、ジューシーな肉の食感が楽しめた。
デザート1品目は、イチゴのコンフィチュールとわさびの一口アイスクリーム
2品目は、キャラメル風味ミルクチョコレートの滑らかなクリームに載った、小さな和栗モンブラン メレンゲの「寿」と松葉の飴細工、フランボワーズとイチゴを合わせた寒天の赤をアクセントに。
そして、カフェと一緒に3種類のマカロンで、締めに。
田中さんのフランス料理は、繊細でやさしくて、また、「日本的なるもの」の懐かしさと温かさを思い起こさせてくれる、と私は思っている。
昨年の震災で、「料理ボランティアの会」の幹事を務める田中さんは、5月、同ホテルで「カレーで元気になろう!」というチャリティ食事会を真っ先に催し、また、被災地にも4回訪問した。
「料理ボランティアの会」は、2004年10月の新潟・中越地震の際、料理評論家の山本益博さんの呼びかけで、料理人やパティシエが集まり、ボラ ンティアで料理をサービスしたことから組織された団体。人気ラーメン店の店主から、有名ホテルの料理長まで、ジャンルを超えて20人余が発起人に名を連ね、現地も含め総勢1万人を超える"職人"が何らかの形で参加しているそうだ。
「『美味しいものを食べて元気を出してください』が会の合言葉。震災発生直後に命をつないだ炊き出しではなく、少々気持ちが落ち着かれた秋ごろを見計らって被災地を訪れました。被災者の方々に、温かくて美味しいものを、前菜・主菜・デザートの形式でしっかり食べていただこうとの企画です。皆さんに、とても喜んでいただけました」と、田中さん。
今回の正月イベントでも、「美味しいもので日本中が元気に!」との願いを込めて、一品一品作ったという。その温かい心持ちが伝わってくるような、素敵な晩餐だった。
なお、当日のワインに関しては、私のワインブログで、近日中にご紹介したいと思います。
永峰好美のワインのある生活
http://www.printemps-ginza.co.jp/wine/
(プランタン銀座常務・永峰好美)