篠山紀信さんが撮る“銀座人”
写真家の篠山紀信さんが、東京・銀座で商いをする人たちを撮りおろした写真展「GINZA しあわせ」が、銀座8丁目の東京画廊で開かれている(11月26日まで)。
同画廊は、日本で初めて現代美術を扱う画廊として1950年にオープン。2002年には、世界の美術の目利きが集まる場に打って出ようと、北京にも画廊を開いた。
代表の山本
今回は、篠山さんと親交のある友人から「銀座で展覧会をやらない?」と勧められ、それならば、銀座の商店主を主役にしようと、企画を2年半ほど温めてきた。
銀ブラ気分で鑑賞
登場しているのは、「私の独断と偏見で選んだ」(山本さん)、31店舗の店主や店員たち。
「萬年堂」「ギンザのサヱグサ」「金田中」「銀座千疋屋」「二葉鮨」「銀座・伊東屋」…。名前を聞けば、多くの人が「ああ」とうなづくであろう銀座の名店が並ぶ。室町後期創業の和菓子「とらや」を筆頭に老舗が多いが、1970年代に開業した呉服店や10年前に銀座に進出した日本茶カフェなどの新顔も。
会場の入り口を入ると、右手が銀座1丁目。白壁に、銀座中央通りを表す黄色のラインが1本ひかれていて、それをたどってぐるりと回遊すると、銀座8丁目へ。黄色のラインを境に、写真の位置が上下に微妙にずれているのは、中央通りの東西どちら側にあるのか、各店の大まかな位置を示すためだそうだ。
木版画あり、宝石あり、文房具あり、果物あり。会場を一巡すると、銀ブラしながらウィンドーショッピングをしているようで、うきうきした気分になってくる。
多彩な役者が魅せる名場面
老舗社長の風格のあるたたずまいも素敵だが、小さな未来の若旦那を抱っこした家族写真は、ほほ笑ましいし、現場の女性従業員がずらりと並んで出迎える場面も壮観である。
作家の北方謙三氏がバー「ディー・ハートマン」のお客としてさりげなく登場していたりして、銀座という街を愛する人々の層の厚さを感じさせる。
「ちょっと変わっているのは、これでしょう」と、山本さんが教えてくれたのは、電通4代目社長の吉田秀雄氏のデスマスクを主役にした写真だった。「篠山さんと電通銀座ビルを訪問して、見つけました。これが主役だって、2人ともほぼ同時にひらめいた」という。
山本さんは、ほとんどの撮影に立ち会っている。篠山さんの撮影時間は1人につきわずか20分ほど。「早いですねって聞いたら、被写体が素人さんの時は緊張感が続かないからって言われて、ああ、そうだなあと納得しました」
「GINZA」の笑顔、世界へ発信
それにしても、登場する人々皆、自然にこぼれる笑顔がすがすがしい。
写真展に合わせて出版された写真集「GINZA しあわせ」(講談社)の中で、篠山さんはこう記している。
「撮影は楽しかった。人も店も粋でおしゃれで品があって、でも威張ってなくてカッコいい。やはりこれは長い歴史が作り上げた“味”なんだなぁと思った」「出来上がった写真を見ると、僕が注文したわけでもないのにみんな笑っている。幸せいっぱい、ハッピーな写真ばかりだ。今年は3月11日に大変な震災が起こった。そんな年にもかかわらず、いや、そんな年だからこそ、みんな笑っているのだろう」――。
山本さんは、「銀座を考えることは、日本人が日本をどう理解しているかと深いかかわりがあると思う」と語る。
江戸から現代へと、脈々と続く歴史の中で、銀座には多様な商いが育ってきた。
「たとえば、(グランメゾンといわれる)高級ブランド店は世界中どこへ行ってもあるけれど、『壹番館洋服店』は銀座にしかないでしょう。オリジナルの英国服地を、日本人のもつ繊細かつ正確な技術で仕立てていくのです。『とらや銀座店』のように、店頭に取締役の女性が常に立っておもてなしをするというのも、銀座ならではのサービスではありませんか。銀座人は、この独特の“質感”の素晴らしさをもっと自覚して、世界に発信していかないと、もったいないですよ」
特に中国や韓国をはじめアジア諸国では、「GINZA」は憧れだ。
来春は北京の画廊に場所を移し、写真展「GINZA しあわせ」を展開、「GINZAブランド」を大いにアピールする予定という。
(プランタン銀座常務・永峰好美)
◆東京画廊