2011.08.19

名門バー14店のカクテル・コレクション

 バーテンダーの技が凝縮

 最近では、うち飲み需要が高まって、スーパーなどにも、ジンやウォッカ、テキーラなど、カクテルの材料が並ぶようになった。

 とはいえ、やはり、カクテルは特別なもの、との思いが私にはある。

  • (上)入り口の看板にひかれて中へ(下)銀座の名門バー14店が一堂に会するユニークなイベント

 マンハッタンのバーで、初めて一人でマティーニを注文した時には震えた。酒の面では一つハードルを越えて大人の世界の仲間入りをしたような、あの不思議な高揚感は忘れられない。

 クラシックなバーのカウンターに腰かけて、目の前に並ぶ酒瓶を眺めながら何を飲もうかと思案しつつ、バーテンダーの磨き抜かれた技と美しい所作に触れるのが楽しい……そんな感想を口にしてみたいが、まだまだゆとりのあるバーでの振る舞いというのが私にはわからない。

 先日、銀座の名門バー14店が集まってカクテルづくりを実演する、「銀座の名門バーフェスティバル~ギンザ・カクテル・コレクション」が、東京・銀座6丁目のコートヤード・マリオット銀座東武ホテルで開かれた。数多くの老舗バーが並ぶ銀座でも名門とされる、「MORI BAR」や「BAR保志」「LITTLE SMITH」などのバーテンダーが一堂に会するユニークなイベントだ。

ヘミングウェイが愛飲したモヒート

  • (左)フローズンモヒートは見た目も涼しげ(中)ゴーヤを使ったカクテルは、真夏の味わい(右)ゴーヤと相性のいい沖縄の泡盛

 最初に目がくぎ付けになったのは、「BAR ORCHARD GINZA」の大きなボウルに山盛りのフローズンモヒート。これを各自カクテルグラスに盛ってもらって、スプーンでいただく。ラムと砂糖、氷、そしてたっぷりのミントの味わいが口に広がり、しゃりしゃりというかき氷感覚の食感も楽しい。

  • 最後の苦味がおとなの味、ゴーヤカクテル

 キューバで暮らしたヘミングウェイは、その魅力にとりつかれ、このモヒートとダイキリばかり飲んでいたと、何かの本で読んだ。 ゴロンと丸いメロンと並んで、巨大なキュウリがテーブルの上に載っているのが気になって近づいてみると……ゴーヤだった。

 「洋酒博物館」のゴーヤカクテルは、ゴーヤジュースを泡盛の古酒で割ったもので、ほんのり後味に残る苦味がおとなの味。

 実は、プランタン銀座でも、8月1日に、今夏緑のカーテンで大人気のゴーヤづくし料理を提供する「ゴーヤ・ナイト」というイベントを行ったのだが、ゴーヤカクテルはドリンクメニューの中でも大人気だった。その時提供したのは、ゴーヤジュースをカルピスと泡盛で割ってアレンジしたちょっと女性向きのドリンクだったのだが。

 沖縄育ちの野菜は、やはり沖縄の強い酒と相性がよいのだろう。カクテルでこうした季節感が味わえるのは、実に楽しい。

「マティーニの神様」が生む味

  • 「ハバナマティーニ」を作ってくれた毛利さん

 「わあ、毛利師匠だ!」。一緒に参加したソムリエールの友人が思わず声を上げたのは、「MORI BAR」のオーナーバーテンダー、毛利隆雄さんを見つけたからだった。友人にいわせると、毛利さんは、「マティーニの神様」なのだそうだ。

  • 会場は大賑わいでした

 「マティーニ・イズム」の著作もある毛利さんが作る「毛利マティーニ」は、「マイナス20度で保存しているブードルスのジンの温度を徐々に上げつつ、少量のベルモットを加えて100回ステアする」のが特徴なのだとか。会場でいただいたのは、ハバナクラブ7年を使った「ハバナマティーニ」で、アルコール度数が高いわりには、マイルドな印象だった。

 マティーニといえば、大好きな007シリーズで、ボンドが恋人の名前を冠した「ヴェスパー・マティーニ」というのがあった。ジンとウォッカを3対1でブレンドしたベースに、フランス産のキナ・リレというベルモットを加える。あるとき、キナ・リレを入手したので、ヴェスパー・マティーニづくりに挑戦してみたのだが、どうもすっきりした味わいにならない。ベルモットの量が多かったのだろうか。

カクテルにも個性

  • (左)「アミュレット」を披露してくれた宮越さん(右)シェーカーを振る姿がりりしい保志さん(右)

 さて、その隣では、チェックのベストに身を包んだ、チャーミングな女性バーテンダーさんがシェーカーを振っていた。「MONDE BAR」の宮城波瑠奈さん。7月末に開催されたプロフェッショナル・バーテンダーズ機構主催のカクテルコンペでMVO(最優秀バーテンダー)に選ばれた。

  • (左上)銀座育ちのハチミツで作ったはちみつカイピリーニャ(右上)美しい!テキーラサンライズ(左下)テーブルの上にスイカがごろん(右下)左はスイカマティーニ、右はクールな印象のシシリアンブリーズ

 その時の受賞作アミュレット(お守りの意味)を実演。テキーラベースに、隠し味として、穂ジソ、ハチミツ、金平糖、ミントチェリー、レモンピールなどを使っているそうだ。「ヨーロッパのハーブのリースをイメージした」そうで、着眼点が女性らしい。

 銀座で採れたハチミツを使った「BAR 東京」のはちみつカイピリーニャ、王道をいく「GASLIGHT」のテキーラ・サンライズ、旬のフルーツを取り入れて女性の人気が高かった「STAR BAR」のフレッシュマンゴーカクテルなど、各店の特徴が生かされていたのは興味深い。

 最後にいただいたのは、「BAR 保志」のスイカマティーニ。国際バーテンダーズコンペでも優勝経験のある保志雄一さんが、ぴんと背筋を伸ばしてシェーカーを振る姿、これがまた素敵なのである。

 スイカマティーニの甘くせつない味わいに、結局2杯目をおかわりしてしまった。

 (プランタン銀座常務・永峰好美)

Trackback(0) | Comment(0)

トラックバック(0)

このページのトラックバックURL
http://www.nagamine-yoshimi.com/mt/mt-tb.cgi/710

コメント(0)

新規にコメントを投稿する
※当ブログに投稿いただいたコメントは、表示前に管理者の承認が必要になります。投稿後、承認されるまではコメントは表示されませんのでご了承下さい。
<コメント投稿用フォーム>
(スタイル用のHTMLタグを使えます)
ニックネーム
メールアドレス
URL
  上記の内容を保存しますか?
コメント内容
 

永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)