2011.07.22

廃食油でエコ燃料を作る「TOKYO油田」

 街角に美しい沖縄の海

  • 銀座ソニービルのイベントスペースに登場した巨大水槽。色鮮やかな熱帯魚が泳ぎ回る
  • 「TOKYO油田 銀座ステーション」の看板はグリーン

 東京・銀座の数寄屋橋交差点。その一角にある銀座ソニービルの屋外イベントスペースに、沖縄の海を再現した巨大水槽が登場している(8月31日まで)。

 沖縄の「(ちゅ)(うみ)水族館」とのコラボレーション企画で、今年で44回目を数えるのだそうだ。

 水量14トンの水槽内を悠々と泳ぎ回るのは、沖縄からはるばるやって来た1メートルを超えるウツボのほか、ナポレオンフィッシュ、ハナミノカサゴ、アケボノチョウチョウウオ、キイロハギ、ユカタハタなど、色鮮やかな熱帯魚約40種類。

 都会の雑踏の中にありながら、サンゴ礁が広がるエメラルドグリーンの海や陽光のきらめきを容易に思い浮かべることができる“街角水族館”は、銀座の夏の風物詩としても定着、記念撮影をする外国人観光客の姿も少なくない。

 そして、節電の今夏、水槽に使用される電力にも一工夫がなされている。

 午前9時から午後8時までの間、水槽の循環ポンプやクーラーなどに使う電気は、使用済みのてんぷら油を再利用した燃料で発電機を動かす自家発電でまかなっているという。

 水槽の脇には、「TOKYO油田 銀座ステーション」の看板がかかっていた。

使用済み天ぷら油で発電

  • 天ぷら油発電の仕掛け人、染谷ゆみさん
  • 水槽の裏にある発電機で、日中は水槽の循環ポンプなどに使う電気をまかなう

 許可を得て裏に回ってみると、ありました! 意外に小ぶりの発電機である。その隣のブースには、ペットボトルなどに入れられた使用済みの天ぷら油がバケツの中に蓄えられていた。

 この天ぷら油発電の仕掛け人は、ユーズ(東京・墨田区)の染谷ゆみ社長だ。

 8月末までのイベント期間中、来場者から使用済みの天ぷら油を回収し、それを自社工場で資源循環型新燃料、バイオディーゼルVDF(Vegetable diesel fuel=植物油の軽油代替燃料)に精製したうえで、供給している。大気汚染の原因となる硫黄酸化物はゼロ、呼吸器官障害の一因といわれる黒煙は軽油の半分以下で、地球にやさしいクリーンエネルギーなのだ。

 1か月半の間に必要な油の量は約1000リットル。家庭からの持ち込みだけでは間に合いそうもないので、銀座地域の飲食店に呼びかけ、提供をお願いしている。「へえ、この油で水槽のポンプが動くなんて、面白いねえ」と、評判も上々で、協力店が続々と増えている。

 染谷さんは、父親が2代目を継いでいる、東京下町の産業廃棄物処理工場の娘。アラフォーのバブル世代は、大学に進学して有名企業に就職して……というあらかじめ敷かれたレールに乗って走る生き方に納得できず、高校を卒業すると、アジアに向けてバックパッカーの旅に出た。

旅先で環境問題への目覚め

  • ペットボトルに入れて持ち込まれる使用済みの天ぷら油

 チベットとネパールの国境近くでのこと。土砂災害の現場にいて、九死に一生を得た。「山を無理やり切り開いて新しい道路を造ったことが原因ではないか」という村人たちの声を聞き、多感な18歳は環境問題に目覚める。さらに、ネパール、インドなどを巡り、人間は大自然の中で生かされていることをからだで知っていく。

 帰国して、自立のためにと一時ベンチャーの旅行代理店に勤めて海外勤務も経験。ふと足元を見直せば、実家の工場は廃食油のリサイクルも手がけているではないか。父親に頭を下げて、新入社員にしてもらい、修行生活が始まった。当時20代の娘が町工場で働いていることが珍しく、油の回収に行くたびに随分とモテたようだ。

  • 大事なエコ資源はいったんバケツに入れて保管

 1993年、米国から興味深いニュースが届いた。ミズーリ州で、大豆油からディーゼル燃料をつくって使っているという。植物油の再利用だから、当然環境に負荷がかからない。それならば、廃油からだってできるはず……。父親との共同研究で、なんと半年後、ディーゼル燃料VDFを誕生させることに成功、大学の先生のお墨付きももらった。

 「開発は思いのほかスムーズにいったのですが、そのあと、いろいろなことが起こりました。ベンチャー企業と称する人たちが視察にと入れ替わり立ち代わり現れて、いつの間にかノウハウを勝手に使っている、とか」(染谷さん)

東京中の廃食油を集めたい

 VDFの普及に本腰で取り組もうと、独立して会社を起こしたのは、28歳のとき。父親も応援してくれた。「改めて振り返ると、私の環境問題へのこだわりの強さは、父の背中を見て育ってきたからかもしれません」

  • 銀座の飲食店街を、この油回収トラックが走り回って集めます

 いま、首都圏を中心に、使用済み天ぷら油を回収するステーションは130以上にも広がった。家庭では、それまで高価な凝固材を使って廃棄していたり、排水溝にそのまま流して水質汚濁の一因になってしまったりと、やっかいものだった廃食油だが、VDFに、肥料に、せっけんにと再生することで、各地域でのエネルギーの地産地消が実現しつつある。

 そして、今回は、銀座での新たな取り組みである。

 「一つの家庭で使う量は少なくても、東京のような大都市では、1千万人分の天ぷら油、つまりエコ資源が集まる。東京は、間違いなく、世界有数の規模をもったエコな油田なのです」と、染谷さんは強調する。

 創業20周年にあたる2017年には、東京中の廃食油を集めて東京をエコ油田に変えたい――染谷さんの決意は固い。

 ちなみに、「TOKYO油田 銀座ステーション」での使用済み天ぷら油の回収は、8月31日までの毎日午前11時~午後6時。詳細は「ソニーアクアリウム」のホームページで。

(プランタン銀座常務・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)