「国を持たない世界最大の少数民族」
本来のビジネスカードとともに、私はもう1枚、名刺を持ち歩いている。レモンイエローの下地に朱色で「人」の一文字がデザインされていて、お会いした方からは「おしゃれですね」となかなか好評だ。
私のもう一つの肩書、NPO法人難民支援協会理事の名刺である。
「難民」とは、遠い国の難民キャンプにいる人たちだけではない。毎年300人以上、これまでに実に1万人近い人々が、政治的・宗教的な理由などによって保護を求めて日本にたどり着いている事実をご存知だろうか?
そんな在日難民を支援しているNPOだ。新聞記者時代からのお付き合いで、数年前から理事を引き受けている。
在日難民(申請中も含む)のうちでも多くの割合を占めるのがクルド民族。トルコ、イラン、イラク、シリアなどの国境地帯に暮らす人々で、「国を持たない世界最大の少数民族」と呼ばれることもある。
だが、彼らが日本で正式に難民としてのステイタスを認められることは難しく、難民申請をしてから結果が出るまでに、平均して2年ほどの時間が費やされているのが現状だ。
その間、彼らの多くは仕事に就くことも認められず、国民健康保険も適用されず、経済的にも肉体・精神的にも非常に厳しい生活を強いられている。
母から娘へ、伝統のレース編み
協会では、2年ほど前から、クルド難民女性の自立支援プロジェクトを立ち上げ、彼女たちのもつ伝統的なレース編み「オヤ(Oya)」の技術に注目。「Azadi(アザディ=クルド語で平和・自由の意味)」というオリジナルブランドをつくった。
ネックレスやピアス、ストラップ、ヘアピンなどアクセサリーや雑貨約50種類ができ上がり、3月22日から1週間、プランタン銀座本館1階の服飾雑貨売場で、初めて商品展開することになった。
レース編み「オヤ」は、道具や技法によって様々な呼び方があるそうで、レース針を使用する「トゥーオヤ」、ビーズを編み込む「ボンジュクオヤ」など。今回の商品は、主に「トゥーオヤ」の技法で作られている。繊細で緻密なレースの風合いや多様な彩りに、私は一目で魅了されてしまった。
フェミニンな今年のファッショントレンドにも似合いそう!
こうした高度なハンドメイドの技法をはじめ、花や果実などの大自然からインスピレーションを得てつくられる絵柄、色糸の組み合わせなどすべて、母から娘へと受け継がれたものという。
クルド女性が髪を覆い隠すのに使うスカーフの縁に飾られるオヤには、家族に対する感謝や女性の恋心などが表されているそうで、オヤは、クルド女性にとって自分の気持ちを素直に表現する大切な手段でもあるのだ。
日本との交わり、自信に
日本での厳しく孤立した生活を余儀なくされている彼女たちだが、協会が音頭を取って、仲間と一緒にオヤを製作する機会を設けることで、積極性が増し、互いに助け合えることを知り、コミュニケーション力もどんどん高まっているという。
以前、昨年8月20付の小欄で、フィリピンのスラム街のお母さんたちが、リサイクルした菓子の包装紙を使ってポーチや財布などを製作、プランタン銀座で販売した話題を紹介したことがある。
その活動を現地で支援しているNPO法人アクションの横田宗さんが帰国して、こんな話を聞かせてくれた。
東京・銀座の百貨店の売場に商品が置かれている場面を実際に映像で見せたところ、「今まで自分が生活する小さな地域のことしか知らなかった。でも、私の作ったものが役立っている、外の世界の人たちとつながっているのだと初めて実感できた」と、涙を流して喜ぶお母さんたちがいたそうだ。
オヤを作るお母さんたちも、同じように、自信をつけ、日本社会との交わりを深めるきっかけを見つけてくれるに違いない。
そして、私たちも、身近にある難民問題に少しでも関心をもち、日本にいる私たちだからこそできる支援は何だろう? と、考える機会にできれば素敵だ。
ストラップは840円から、ピアスは1260円から、ネックレスは2835円から。オヤ商品の収益は、在日クルド難民の生活向上のために使われる。
(プランタン銀座取締役・永峰好美)
◆NPO法人難民支援協会