捨てられない手紙
中身の大半は、新聞記者時代の取材メモと資料。ネットで検索して即プリントアウトできる時代ではなかったので、いつか必要になることがあるかもしれないと、複写した書類をどっさり蓄えてきたのである。
文書管理のプロの間では、仕事で使う文書のうち捨てられるものが5割で、いつも手元に置いておいた方がいいものは2割に過ぎないとの経験則があるそうだ。
先日、心を鬼にして、「書類ダイエット」に挑んだ。それでも、最後に絶対に捨てられないものが残った。
記事を読んで感想を送ってくださった読者からの手紙だ。
「感動した。こういう話をどんどん紹介して」という励ましの手紙もあれば、「あなたの考え方に異議申す」との厳しいご指摘の封書もある。
「記事に勇気づけられました」とつづっていたDV(ドメスティックバイオレンス)被害者のA子さんは、シェルターから自立して元気で暮らしているだろうか?
雑貨ハンティング
私にとっては、まさに「お宝」の手紙。何にしまっておこうかと迷ったあげく、プランタン銀座にあるこだわりの輸入文房具をそろえた「スコス」で手ごろなものを見つけた。
7月30日付の小欄で、ボールペンと鉛筆の専門店「五十音」の話題を書いたが、その際、銀座には一般的に文房具探しのための散策ルートがあって、その一つが「スコス」であるとご紹介した。
コーヒー色に白の水玉柄の愛らしいトランク型収納ボックスはチェコ製で、1680円。丈夫な紙でしっかり作られている実用性も気に入った。
前回プラハの旅についてつづったが、実は、プラハは、愛らしい雑貨ハンティングにはうってつけの街だった。
路地裏の小ぢんまりしたショップをひやかしてまわるのは楽しい。扉を開ければ、タイムマシンに乗って子ども時代にひとっ飛び。木製の動物のミニチュアやら、色とりどりの筆記具やら、ちょっと古ぼけた絵本やポスターやら……。ほっと懐かしい気分に浸らせてくれる。ブリキで作った女の子ミツバチの置物があまりにキュートで、即購入した。
権力に屈しないチェコ人の誇り
ハプスブルク家の統治下でチェコ語が禁止されていた時代でも使用が許可されたマリオネットには、チェコ人の魂が宿っている。不気味なもの、ユーモラスなもの、いろいろあるが、フェルトを使った素朴なつくりの魔女人形は、ほのぼのとした空気を運んでくれた。
15世紀、カトリック教会の堕落を批判して火あぶりの刑に処せられた当時のカレル大学総長、ヤン・フスはチェコ人の誇りだという。フス像が静かにたたずむ旧市街広場から新市街のヴァーツラフ広場へ。ここは、「プラハの春」と呼ばれた市民運動の舞台である。権力に屈しないチェコの人たちの気概は、1989年のビロード革命へとつながる。
100年間変わらず愛されるカフェ
旧市街との境をなすナ・プシーコピェ通りから一歩入ると、マトリョーシカ人形の看板が目に付いた。よく見ると、歯をむき出し、目をつり上げている。
標識に促されていくと、そこは、共産主義博物館。社会主義時代のチェコの小学校の教室が再現されていたり、社会主義リアリズムの絵画や彫刻が展示されていたり。
「どんな歴史もすべてありのままに残す」といった思いが伝わってくる。それにしても、博物館の入口が、資本主義の象徴ともいえるマクドナルドのテラス席から続いているのは、計算された皮肉なのだろうか。
博物館のスタッフに、「近くに100年変わらないカフェがあるから行ってみたら」と勧められた。
ハヴェル元大統領の祖父が設計した「カヴァールナ・ルツェルナ」。その優雅な佇まいは100年前の当時とまったく変わらないと聞いた。
ゆったり流れる時間の中で、私は、この街の懐の深さに感じ入った。
(プランタン銀座取締役・永峰好美)