2010.07.23

名店の味と季節の器使いを学ぶ

自宅サロンで料理教室

  • 「和食器のコーディネートは自由な発想で」と、「東哉」の松村晴代さん

 昨年11月27日付の小欄に書いた、銀座8丁目、金春通りにある「東哉(とうさい)」の松村晴代さんから、なんだか楽しそうな自宅での料理教室のお誘いをいただいた。「東哉」は、小津安二郎が愛した京焼の老舗として知られる店である。

 単に料理の作り方を学ぶだけでなく、季節に合わせた和食器の取り揃え方が学べると聞いて、お邪魔することにした。

  • ベランダからブドウ棚越しに東京タワーが望める

 靖国神社にほど近い、11階建てのマンションの最上階には、住民共有のパーティースペースがあって、ソファやダイニングテーブルなどがそろっている。それとは別に、本格的な調理実習ができる部屋まである。

 ベランダに出れば、ブドウ棚の緑がまぶしく、夏の日差しの向こうには東京タワーが望める。夕涼みをしながらの生ビールがさぞおいしいだろうな、などとあれこれ空想させる場所であった。

和食器の色合わせは自由に、軽やかに

  • 和食器を使った夏の涼やかな食卓コーディネート

 パーティースペースには、すでに松村さんが選んだ和食器による、夏の涼やかな食卓コーディネートが披露されていた。

 一茶の句が書かれた掛け軸には、ボタンとオトギリソウを生けた竹かごが寄り添う。お香立てはシルバーの金魚型で、それに合わせて香皿も大きな目玉のキュートな金魚柄。

  • (左上)青のイメージでまとめた様々な酒器、(左中央上)朝顔型の小器がアクセントに、(左中央下)簾のテーブルマットが涼しげだ、(左下)箸置きにも波型を配して、(右上)お香立ても香皿も金魚をデザイン、(右下)徳利の首に波のデザイン

 (すだれ)のテーブルマットをはじめ、4種類の酒器は、ブドウの葉の文様、「渦潮」といわれる渦巻き柄、青のグラデーション……。目を凝らすと、一つひとつに工夫がいっぱいだ。徳利の首の部分や笹舟型の箸置きには、「青海波(せいかいは)」と呼ばれる波のデザインが施されている。深く美しく輝きのある青の器は、朝顔を連想させる。

 そのどれもこれもが、すっきり涼やかな演出のアクセントになっている。

 「色合わせは自由な発想で、軽やかに。素材も陶器、磁器やガラスを取り混ぜて選ぶのがいい。洋食器のようにセットでずらり並べてしまうと、野暮ったくなります」と、松村さんはアドバイスしてくれた。

ミシュランの味を実習!

  • (上)料理の指導をしてくれた銀座「うち山」の内山英仁さん、(左下)プロの包丁さばきにうっとり、(右下)魚素麺が湯の中を美しく泳ぐ

 別室に移動して、いよいよ調理実習である。料理の指導は、銀座2丁目にあるミシュラン星付きの日本料理店「うち山」店主の内山英仁さん。

 本日のメニューは、加茂ナス田楽、スズキのかまの酒蒸し、イチジクと稚アユの煮おろしあんかけ、フルーツトマトゼリーかけ・魚素麺(そうめん)添えの4品。

 小欄は料理コラムではないけれど、実習で印象に残ったことだけでもぜひお伝えしたいと思う。

 密度が高くてずっしり果肉が詰まった賀茂ナスは、みずみずしくいかにも美味しそうだった。皮をむくときには、包丁を固定してナスをゆっくり回していくと、包丁の目が美しく入ると教わった。プロの包丁の技に、しばしほれぼれと見入ってしまった。

  • (左上)加茂ナス田楽、(右上)スズキのかまの酒蒸し、(左下)イチジクと稚アユの煮おろしあんかけ、(右下)フルーツトマトゼリーかけ・魚素麺添え

 田楽用みそは、白みそ1キロに対して、卵黄1個、砂糖100グラム、酒1合を合わせて、密封して30分蒸す。卵を使うので「玉みそ」という。保存できるので多めに作り、ゴマを足して田楽みそに、木の芽を入れて木の芽みそにと、応用がきく。

 魚素麺を自分で作ったのは、初めてだった。トコロテンの突き棒をさらに武骨にしたような専用道具に魚のすりみを入れて、煮立ったなべの中に絞り出してゆで上げる。ぎゅっと絞り出すのに意外に力が必要だった。乳白色の毛糸がなべの底に渦を巻きながら溜まっていく様は美しかった。

 4つのメニューの中で、自宅で試してもとても美味しくいただけたのが、イチジクと稚アユの煮おろしあんかけである。

 稚アユはもちろんだが、イチジクも小麦粉をまぶして丸ごと揚げるところが面白い。170度でイチジクを半生状態にからりと揚げてから、少々温度を上げて、今度は稚アユをしっかり揚げることがポイントだ。

 だし汁360ccに、みりん30cc、薄口しょうゆ40ccを温め、ダイコンおろしを加えて、煮立ったら水溶き片栗粉でとろみをつける。刻んだ九条ネギはたっぷりと。

 本格的な料亭の味(?)に、ちょっとだけでも近づいた気がして、私としてはかなり満足のいく仕上がりだった。

個性とセンスで季節を演出

  • ガラスのモダンなテーブルに和のお敷を合わせる

 さて、パーティースペースに戻り、料理を供する。ガラスのモダンなテーブルに、塗りのお敷が違和感なく溶け込んでいた。

  • (上)愛らしい「波千鳥」のデザイン、(下)湯のみもご飯茶碗も夏の季節が盛り込まれて

 ここにも、涼感を誘うアイデアがあちこちにあった。扇型の箸置きは、浜辺を飛び交う愛らしい千鳥柄。湯のみにアジサイの花が咲き、平たいご飯茶碗には、すがすがしい空を思わせるスカイブルーのブドウ柄が映える。

 「和食器のテーブルコーディネートは、どうにでもなるから楽しいのよ。その人の個性とセンスで決まるのですから」と、松村さん。

 センス……、かあ。

 箸置き一つでも、お香立て一つでも、季節感を演出できる和食器の醍醐味を堪能したひとときだった。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

 ◆巧芸陶舗 東哉

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)