2010.05.21

築地本願寺に“ちょっと前の日本の朝市”が出現

「安穏朝市」は毎月16日に

  • 毎月16日、築地本願寺で開かれる「安穏朝市」
  • 竹の支柱を組み立ててつくるエコなテントが使われている
  • 築地本願寺の宗祖・親鸞聖人像

 東京・銀座にある、日本の自然素材に徹底的にこだわったオーガニック旅館「お宿・吉水」のことは、2009年3月27日付の小欄で紹介したことがある。

 その女将の中川誼美さんから、耳寄りな情報が寄せられた。

 「かねてから実現を願っておりました“ちょっと前の日本の朝市”の開催を、築地本願寺様のご協力を得まして『安穏(あんのん)朝市』と名付け、始めさせていただきます。宗祖・親鸞聖人の御命日にちなみ毎月16日の開催となります」

 中川さんによれば、宿の名前「吉水」は、親鸞聖人の師である法然聖人の開山の場所にちなんでいるそうだ。「来年2011年は、法然聖人800年忌、親鸞聖人750年忌にあたり、このような時期に朝市の開催が実現できたことを大変意義深く感じています」

 「安穏」とは、「親鸞聖人御消息」の中に記され、「御念仏こころにいれて申して、世のなか安穏なれ」と、平安の世を願った言葉である。

 「安穏」とは、なんてやさしい響きなのだろう。殺伐とした事件に心痛むことの多い昨今、この言葉の重みはさらに増しているのではなかろうか

 中川さんが「安穏朝市」と名付けたのは、都市の生活者と農村の生産者とが顔の見える交流を繰り返し、安全な食材や生活用品を安心して買えるような、信頼できる関係性を築いていきたい――そんな願いが込められているのだな、と私は思った。

 第1回目は4月16日だったがこの日は立ち寄ることができなかったので、2回目の5月16日は絶対に行こうと、スケジュール帳に太字で書き込んでおいた。

東北で採れる珍しい野菜も

 澄んだ青空が広がる日曜の朝。午前9時前に、築地に到着。本堂前には支柱部分はすべて竹を使ったエコなテントが並んでいた。

 まずは、正門を入って左手にある親鸞聖人の像にお参り。境内にはほかに、九条武子の歌碑や赤穂浪士・間新六の供養塔などがある。

 一通りお店をまわって、いくつか気になる食材を買うことにした。

  • 「ボウナ」を勧めてくれた岩手県軽米町の人たち
  • とっても甘い新タマネギは千葉県産

 一つは、青森県境に近い岩手県軽米町のブースで見つけた山菜いろいろ。東北は、5、6月が山菜シーズンだ。ウルイと山ウド、それに、珍しい「ボウナ」という青菜に注目。

 「茎がまっすぐに伸びるから、ボウナ。東京では手に入らないだろうけど、ほんと、うまいよ」

 その日の夕食では、お店の人に勧められたように、葉は天ぷらに。中が空洞な茎はお浸しにしたら、しゃきしゃきと歯ごたえが残って美味しかった。

  • 沖縄野菜は移動販売車で
  • フェアトレードの雑貨類も充実

 千葉県産の新タマネギは、1個33円。「水にさらさなくても、スライスしてそのままサラダでどうぞ」と説明を受け、試食してみると、確かに甘い。3個買ってみた。

 八ヶ岳山麓産の日本ミツバチのハチミツはコクがあって、濃厚な黒糖のような味わいが印象的だった。その隣に沖縄の野菜を売る移動販売車があったので、大好きな島ラッキョウを迷わず2束ゲット。

 ほかにも、フェアトレードの雑貨類などが充実しているブースもあって、ちょっとした縁日気分だ。

 午前9時半から、親鸞聖人の御命日法要があると聞いたので、本堂に向かった。

二度の再建を経て

 ここでちょっと築地本願寺の歴史に触れておこう。

 同寺の発祥は、1617年(元和3年)、京都の西本願寺別院として建立された。当初浅草・横山町にあったことから「浅草御坊」と呼ばれていたが、1657年、明暦の大火で焼失。その替え地として、江戸幕府から八丁堀の海上が指定され、そこで佃島の門徒が中心になって海を埋め立てた場所を築き、再建した。大火から約20年後のことだった。

  • 築地本願寺の本堂は美しい古代インド様式
  • 本堂に続く階段脇を守る獅子は翼をもっている
  • 本堂正面入り口にあるステンドグラス

 その後も、暴風や高潮など幾度もの災害に見舞われ、1923年の関東大震災で本堂が焼失。1934年(昭和9年)、東京帝国大学の伊藤忠太博士の設計で、古代インド様式の美しい石造建築物が完成した。本堂へと続く階段の脇を守る獅子像は前脚を立て、翼を翻し、勇ましい。

 本堂に入ると、まず目につくのが、ステンドグラス、そして繊細な装飾が施されたシャンデリア。デザインがおしゃれで、インテリアの細部を見ているととても楽しめる。

荘厳な御命日法要に参列

  • 心静かに法要が始まるのを待つ

 親鸞聖人御命日法要は、(しょう)篳篥(ひちりき)、太鼓など、雅楽の演奏で始まった。雅楽というと、神前結婚式などで触れる神社の音楽というイメージがあるが、実は、仏教伝来とともに日本に伝わり、平安朝の宮廷で育まれた「お浄土の音楽」なのだそうだ。

 これは、「築地本願寺新報」で知った。本堂に響き渡る声明は、大地の底からわきあがって来るかのような迫力があり、親鸞聖人がおられた時代へとタイムスリップさせてくれる。

 本堂には、ドイツ製のパイプオルガンもあり、毎月ランチタイムコンサートが開かれているという。そういえば、5月初め、X JAPANのギタリスト、hideさんの13回忌法要が行われたのも、この場所だった。

 法要を終えて本堂を出ると、午前10時半。朝市もにぎわいを増していた。

  • 築地場外市場はすぐお隣り。帰りに寿司をつまむのがおすすめ

 築地本願寺をあとに、お隣りの築地場外市場に足を延ばして、握り寿司をつまんだ。日曜なので開いている店はごくわずかだったが、それでも、私が手に提げていた山ウドを見つけて、「あれえ、山菜、どこで買ったの」などと、市場の人たちは気さくに声をかけてくる。

 私は「安穏朝市」を大いに宣伝してしまった。

 「へえ、面白いね。絶対行くよ。山菜、まだ残っているかなあ」と、皆が口々に言う。

 中川さんが目指す、「ちょっと前の日本にあった、素朴でにぎやかな生活のにおいが感じられる朝市」は、温かな思い出をたくさん残してくれた。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)