2010.05.07

東京の真ん中にひっそり佇む、日本橋七福神

コースマップを手に七福神めぐり

  • 稲荷大神のお使い、キツネの大軍団が鎮座する(笠間稲荷神社東京別社にて)

 4月16日付の小欄で、庶民に愛される笑顔の神様、ゑびす・大黒の話題をご紹介したが、その取材以来気になっていたのが「七福神めぐり」である。

 街歩きに繰り出したくなるような晴天が続いた5月初め、銀座のお隣、日本橋の七福神めぐりに挑戦することにした。

 まずは、東京中央ビジネスナビの「日本橋七福神」のWEBサイトをチェック。お社マップをプリントアウトして、いざ、出発だ。また、途中立ち寄った神社でもらった日本橋七福会作成のマップは、裏側に神社の由緒が書かれていて大いに役立った。

 七福神めぐりというと、正月の風物詩。新年のみ七福神の鎮座所を公開しているところも少なくないと聞いたので、今回は、本殿・本堂の巡拝を基本に歩くことにした。

 日本橋七福神はすべて神社で占められているのが特徴だ。「七福神」といいながら、巡る神社はなぜか8社あり、いくつかの神様はダブっているという。まあ、神様にたくさんお会いできるのだから、これはありがたいことではありませんか!

 お参りする順番は特に決め事があるわけではないようだ。私は、今回のきっかけになったゑびす様に敬意を表し、地下鉄の三越前を起点に、寶田恵比寿神社から巡ることにした。

ビルの狭間の恵比寿さま

  • 寶田恵比寿神社は駐車場に挟まれた狭い空間

 首都高速1号線の高架下を抜けて、広い道をしばらくテクテク。曲がり角を間違えて行ったり来たりしてしまい、最初の神社を探すのにちょっと手間取ってしまった。近くに、縁起のいい名前の「富久ビル」があるので、この建物が目安になる。

 寶田恵比寿神社は江戸城外宝田村の鎮守で、もとは皇居前にあった。祭壇中央に安置された恵比寿神像は、運慶作とも左甚五郎作とも。1月20日の初恵比寿のほか、10月19日と20日には商売繁盛を祈る“恵比寿講”が開かれる。

 そんな由緒ある神社なのに、両側から駐車場に挟まれ、敷地は思いのほか狭く、狛犬もいない。なんだか居心地が悪そうで、恵比寿様が気の毒だった。

 問屋街を抜けて、椙森(すぎのもり)神社へ。ここも恵比寿神が(あが)められているのだが、鳥居も大きく、境内はきれいに整備されていた。創建は1000年余前にさかのぼり、「江戸名所図会」にも掲載されているという。戦国時代初めには、太田道灌が雨乞いを祈願した。

 境内の片隅に、富塚を見つけた。ここは江戸商人発祥の地としても栄えた場所で、数多くの富くじが興行されたとの記録が残る。それを記念して富塚が造られたが、関東大震災で崩壊、氏子有志で戦後の昭和28年(1953年)に再建された。いまは、宝くじ当選祈願で訪れる人々でにぎわっている。

 人形町通りを歩き、甘味喫茶の店頭のお品書きをチェックしつつ、あんみつを食べた気になって、次の神社へと急ぐ。

  • 1000年の歴史がある椙森神社
  • 境内にはユニークな富塚も
  • 寿老神がいらっしゃる笠間稲荷神社東京別社

 お次は、日本三大稲荷の一つ、笠間稲荷神社の東京別社。江戸末期、笠間藩主牧野貞直公が常陸の国(茨城県)にある本社の御分霊を奉斎したことに始まる。長寿の神様、寿老神がいらっしゃる。

 本殿に向かって左手に、稲荷大神のお使い、キツネの大軍団が鎮座しており、なかなか迫力があった。

 ランチタイムで、どこからか焼き鳥のいいにおいが漂ってくる。老舗の鳥専門店の手作り弁当は、近くのOLさんに大人気で、飛ぶように売れていた。先を急ごう。

近くのビジネスマンも気軽に参拝

  • 日本橋人形町にある末廣神社

 末廣神社の守り神は、勝運を授ける毘沙門天。両側からビルに迫られた狭い敷地ではあったが、勢いのある大木に守られ、すがすがしい風を感じた。17世紀に社殿を修復した際、縁起のいい中啓(末廣扇)が見つかったことから、「末廣神社」の名が付いた。

 甘酒横丁を通り過ぎ、赤い鳥居が目立つ松島神社(大鳥神社)へ。ビルの1階にあり、付近のビジネスマンがふらりと立ち寄る姿に出会った。

 鎌倉時代、このあたりは入り海で小島があり、毎夜掲げる灯火で舟人たちの安全が守られた。江戸になり、武家屋敷造営のために埋め立てが始まり、日本各地から技をもつ人々が集められ、それぞれの故郷の神々が合祀された。歓楽街としてにぎわい、人形細工の職人や呉服商人、歌舞伎役者、葭原(吉原)の芸妓(げいぎ)傾城(けいせい)など、商売や芸能に携わる人々の参拝が盛んだったという。ここには、大黒天がいらっしゃる。

 さて、新大橋通りの交番を曲がれば、水天宮だ。安産祈願で有名だが、守り神は、芸事や学業貨殖の神様として信仰されている弁財天。久留米藩主、有馬頼徳公が加賀藩主、前田斉広公と宝生流能学の技を競われることになり、弁財天に願をかけ、満願の日にめでたく勝つことができたとの逸話があり、宝生弁財天とも呼ばれている。そういえば、情け深いことに敬意を表した江戸のはやり言葉に「なさけ有馬の水天宮」というのがあった。

  • ビルの1階にある松島神社
  • 安産祈願で有名な水天宮

約2時間の下町散策

 細い路地を入って、昭和レトロな雰囲気の水天宮駄菓子バーを横目に、茶の木神社へ。

 「お茶の木さま」と庶民に親しまれている神社で、丸く刈り込まれた茶の木の緑が見事だったことからこの名前が付けられたそうだ。守り神は、袋の中にいっぱいの宝物を入れて福運大願を成就させるといわれる布袋尊。ビルの谷間ながら、いまも緑に囲まれた静かな環境は守られている。

  • 緑に囲まれた静かな環境の茶の木神社

 御影石の列柱が荘厳さをかもし出す東京穀物商品取引所を通り過ぎ、いよいよ最後の小網神社へ。こちらもいっぱいの緑に囲まれ、心地よい空間であった。福徳金運長寿の神、福禄寿とともに、弁財天もいらっしゃる。11月に行われるどぶろく祭りは奇祭として知られる。ぜひ一度行かなければ……。

 ここまで8社を巡って、約2時間。最初の神社を見つけるのに少々迷ったものの、その後は狭いエリアに神社が点在しているので、非常に歩きやすかった。

ゴール後のお楽しみは人形町で

 一休みしようと立ち寄ったのは、甘酒横丁の交差点近くにある喫茶の「快生軒」。看板に、「創業大正八年」とあった。東野圭吾氏のベストセラーで、テレビの日曜劇場で放映中のドラマ「新参者」にも登場する店である。ステンドグラスの窓、クラシックなランプ飾り、赤い革張りの椅子……。マーマレードがのったバタートーストをつまみながら、じっくり煎ったブレンドコーヒーをいただく。

  • 東京銭洗い弁天でも知られる小網神社
  • 「新参者」にも登場する老舗喫茶店「快生軒」
  • マーマレードをのせたバタートーストがおいしい

 神社の巡り方はいろいろあるのだろうが、私は、最後は人形町で足を休めることを考えて、小網神社で締めくくるコースをおすすめしたい。

 江戸下町情緒が残る街の中に、ひっそり(たたず)む神社群。銀座とはまたひと味違う楽しみがあった。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)