2010.04.23

今だから新鮮な銀座レトロ・スポット

三原橋地下街を探訪

  • 長屋風に軒を連ねる昭和レトロな商店群
  • 晴海通りをはさんで対を成す建物は、その昔三原橋の欄干だった

 前々回、4月9日付の小欄で、銀座4丁目の交差点と歌舞伎座の中間あたりにある三原橋のそば、昭和レトロな雰囲気が残る銀座の路地裏をご紹介したが、近くに、もう一つ、レトロなスポットがある。建物の老朽化を理由に再開発が進む銀座の中で、貴重な空間ではないかと私は思っている。

 それは、三原橋地下街である。造られたのは昭和27年(1952年)という。

 地上部分の建物は2階建てで、晴海通りに面した銀座4丁目側に、薬局、カメラ屋、レコード屋、衣料品店などが、長屋風に軒を連ねる。2階はいまは飲食店だが、戦後しばらくは、闇市の露店を整理した三原橋観光館があった。

 晴海通りをはさんだ反対側には、この建物と対を成すように、同じ形状の2階建ての建物がある。カジュアルな寿司屋の店舗で、大型バスで乗り付ける観光客でいっぱいだ。それぞれの建物の裏側の階段から地下をくぐり抜けて、晴海通りを行き来することができるようになっているところが面白い。そう、こここそが三原橋地下街である。

 銀座はもともと水の都。かつては、ここに江戸時代に開削された三十間堀川が流れていて、商船や屋形船でにぎわっていた。しかし戦災で銀座の街が壊滅すると、その瓦礫を処分するために堀を埋め立てた。埋立地の一部を利用したのがこの地下商店街なのである。

名画専門館でジュリーの笑顔にうっとり

  • (左)急勾配の階段を降りると、三原橋地下街、(右)地下街の天井に、アーチ形の橋の面影が残る

 さて、地下街に降りてみよう。かなり急勾配な階段を降りると、両側に小さな映画館がある。気を付けて地下街の天井を見ると、緩やかな勾配を描いている鉄骨があったりして、アーチ形の橋の面影を残している。地上部分の対を成す建物は欄干部分で、地下街通路は川筋というわけだ。

 映画館「日比谷シネパトス」は、いまや少なくなった邦画の名画専門館。昭和27年の開業時にはニュース映画を流していたらしいが、私が学生時代の70年代は、成人映画館だったように記憶している。今のような名画専門館になったのは80年代後半で、いや、なかなか泣かせる特集が組まれることが少なくなく、目が離せない。

 今回注目したのは、21時からの特集レイトショー「奇想天外シネマテーク8 SF・ファンタジー編」。

 ジュリー(沢田研二)ファンの私は、「タイガースの世界はボクらを待っている」(1968年、東宝)が映画館で見られる、しかもSF作品の一つとして紹介されることに、とっても興奮した。この映画、アンドロメダ星のシルビー王女が乗った宇宙船が、タイガース(グループサウンズです。念のため)の演奏でコンピューター制御ができなくなり、地球に不時着したとの設定。描かれているのは王女との純愛ロマンス・ストーリーだが、私は、アイドル時代のジュリーの美しい笑顔にひたすら見とれてしまった。

30年前の和製スペースオペラを堪能

  • 映画の情報が所狭しと張り出された「シネパトス」の掲示板

 深作欣二監督の「宇宙からのメッセージ」も、何とも懐かしい作品だった。1978年、「スター・ウォーズ」のブームに乗って、東映が10億円を投じて製作した和製スペースオペラ。ロードショー以来約30年ぶりに観たら、なかなか新鮮だった。ポンコツ寸前の旧式ロボット、ベバ君は、ご主人にどこまでも忠実で愛らしい。宇宙の侵略者ガバナンス皇帝を演じる顔面銀塗りの成田三樹夫も、その生母で電動椅子にうずくまったまま睨みをきかせる太公母役の天本英世も、迫力があって、やっぱり怖かった。

 地下街の直下には地下鉄日比谷線が通っているので、電車が通るたびにがたんごとんと電車の音が響き、シートが若干揺れる。しかし、こういうSFものを観ていると、雑音も効果音のような気がしてくるから不思議なものだ。

  • 30年前の東映作品「宇宙からのメッセージ」のパンフレットをゲット!

 たまたま同映画のプロデューサー、平山亨氏のトークショーがあって、「ロケットを器用にピアノ線で吊るなんてこと、今できる人がいなくなっちゃった。ロケットが炎と煙をたなびかせ、地面をかすめて砂ぼこりを舞い上げるといった特撮の手法に、ハリウッドから随分と視察に来た」などと、当時を振り返った。

 それにしても、81歳を迎えた平山氏はますます意気軒昂。「いつまで生きるの?と女房に言われるが、次は何をやりたいかを書いたアイデアのメモ帳がどんどん埋まっていく。魔女の話もやりたいね。いまの映画を観ていると、俺だったらこう作るのにって思うことがいっぱいある」と語った。

  • 季節料理の「三原」は、地下街の中での一番の老舗

 この特集は4月23日で終わるが、24日からは「DVDでは観られない! 秋吉久美子映画祭」が始まる。昼の部で注目しているのは、生誕100年を記念した「シナリオ作家・水木洋子と巨匠たち」(5月3日から)。ミヤコ蝶々が主演した「喜劇 にっぽんのお婆ぁちゃん」をぜひ観たいと思っている。

 地下街には、映画館のほかに理容室や飲食店が並ぶ。60年代に創業した「季節料理・食事処 三原」がいまも健在だ。

 引き戸を開けて暖簾をくぐる。カウンターとちゃぶ台2つの小ぢんまりとした店だ。ランチに、アジのたたき定食をいただいた。注文してから、女将さんが丁寧に魚をさばき、たっぷりのショウガとネギを添えてくれた。ご飯もおいしい。

 店内には、マリリン・モンローや昭和の映画スターのミニポスターが貼られ、ブラウン管テレビやピンクの公衆電話が置かれている。そこには、静かな昭和の時間が流れていた。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)