女性同士で交換する“ガールズチョコ”
毎年この季節になると、美味しいチョコレートとの出合いが楽しみな「バレンタイン・フェア」なのだが、新しいチョコレートを仕掛ける元気な女性たちとの出会いも、私にとってはもう一つの楽しみといえる。
2年ほど前、東京・銀座1丁目に会社を設立した「マザーレンカ」の池田貴子社長もその1人である。
今年プランタン銀座に初登場のブランド「銀座ショコラハーツ」の仕掛け人。ベルギーから直輸入した材料で作ったカラフルなタブレット型チョコレートに、小物が入るスパンコール地のミニトートを組み合わせた黒のオリジナルポーチも付いて、なかなかおしゃれだ。
「最近、バレンタインデーに女性同士でチョコレートを交換しているシーンを幾度か目撃していまして、女子向けを意識したガールズチョコを作ってみたのです」と、池田さん。確かに、プランタン銀座が行った「バレンタインデーに関する女性の意識調査」でも、女性同士でチョコレートを贈り合うことに65%が積極的だった。
華道家からベンチャーへ転身
花が大好きだった池田さんは、中学時代から華道にのめり込み、都内の女子高を卒業後、いけばな講師を目指して、迷わず専門学校の池坊中央研修学院に進学。21歳で講師の免状を取り、百貨店のカルチャースクールなどで教え始め、たくさんの生徒に囲まれていた。
ところが、運送会社を経営していた父親ががんで亡くなり、「今まで社会のことを何も知らないまま好きな世界で生きてきたけれど、これからは自分で何かしなければいけないという気持ちに初めて駆られました」。サラリーウーマンとして再スタートする決意をしたのは、まもなく30歳になるころだった。
まずは、転職情報誌で見つけた不動産投資のベンチャー企業の秘書募集に応募した。「代表も私と1歳違いだったし、ベンチャーの秘書なら会社経営のイロハが学べると思ったから」という。会社の株式上場にも立ち合い、また、同社がM&Aで取得した沖縄のホテルの経営では、全室の覆面調査を実行し、大胆なコストカットを実践した。その仕事ぶりに目を付けた大手のホテルから声がかかり、1000室以上もあるホテルの総支配人を任されたこともある。
2007年に経営コンサルタントとして独立。「基本的に仕事が好きで、与えられたことは何でも楽しんでやってしまうタイプなんです。でも、目指すのは会社経営。きれい事では済まされない生々しい現場での処理に忙殺される毎日から解放されて、『起業したい病』がむくむくと頭をもたげてきました」
母から学んだ幸せ上手
そんな時、10年近く働いたベンチャー企業の代表の言葉が胸をついた。
「自分にこれしかないと思えるものが見つからないうちは起業しても成功しないぞ」
それからだ。自分を再度見つめ直した。「食いしん坊で、人との出会いや重要なシーンは食べ物の記憶とともにあり、絶対に忘れない。これって、特技ですよね」。ならば、食にかかわる仕事、それも一歩先というより半歩先を行くくらいのトレンドを意識したビジネスを手がけようと決めた。
たどり着いたのが、多くの有名ショコラティエが使用する高級チョコレートの原材料ブランドとのライセンスビジネス。そして、日本のマーケット向きに、「世界に誇れる銀座メイドを」と考えて誕生したのが、オリジナルブランドの「銀座ショコラハーツ」だった。
「1粒のチョコで幸せになる!」と、池田さんは提唱している。
その発想は、75歳になる母親の小さな幸せ探しがヒントになっている。「美味しいものを食べても、面白い人に出会っても、母はどんな小さなことにでも感動して伝えてくれます。ほんと、『幸せ上手』なんですよね」
ストレスを感じた時、たった1粒のチョコレートを口にすることで、脳内で幸福を感じさせる成分が分泌されて、小さな喜びを感じることができたら素敵だという。
「機嫌のいい女性が増えれば男性も元気になって、経済も上向きになるんじゃないかなあ」。アラフォー女性社長の挑戦はまだまだ続く。
(プランタン銀座取締役・永峰好美)