2009.11.13

伝統を残しながら進化し続ける大人の街

編集者たちの見た“GINZA”の魅力

  • 「編集者たちの見たGINZA」では、熱い議論が

 本屋の店頭に並ぶ新刊雑誌を手に取ると、毎月のようにどこかで「銀座特集」が組まれている。老舗ののれんを守る人々、新しい顔になりそうな店、ちょっと頑張っておしゃれして出掛けたいレストラン……。

 時代のトレンドを常に一歩先んじてウォッチしている雑誌の作り手は、東京・銀座の「いま」をどうとらえているのだろうか。何に興味を感じているのだろうか。先日、「銀座街づくり会議」などの主催で開かれたパネルディスカッション「編集者たちの見たGINZA」に参加して、私なりに銀座の魅力を再認識した。

 登壇したのは、「家庭画報」(世界文化社)副編集長・小松庸子さん、「Grazia(グラツィア)」(講談社)編集長・温井明子さん、「STORY(ストーリー)」(光文社)編集長・山本由樹さん、「Hanako(ハナコ)」(マガジンハウス)編集長・北脇朝子さん、「BRUTUS(ブルータス)」(マガジンハウス)編集長・西田善太さんの5人。「東京画廊」代表の山本豊津さんが、銀座育ちかつ銀座で商いをする代表として司会進行を務めた。

伝統と革新のバランスを保つ

  • 伝統と革新のバランスを保つ、銀座並木通りのサンモトヤマ

 ディスカッションを聞いて、銀座を分析する4つのポイントが印象に残った。

 1つ目は、伝統と革新のバランスだ。

 2000年から11月号別冊で、毎年銀座を特集している「家庭画報」の小松さんは、「銀座は、際限なく思う存分におしゃれができる街。街自体が雰囲気をもっていて洋服も着映えする」と街のたたずまいを語る。

  • 2000年から11月号別冊で銀座を特集する「家庭画報」

 一方で、こんな問いかけもした。昔から銀座は、目新しい舶来ものを紹介するショーウインドウ的な役割を果たしてきた。時代を築いてきた自負に寄りかかり、その栄光の歴史にしがみついて守りの姿勢に入っていないか。今までの成功例の焼き直しにばかり逃げていないだろうか。

 「伝統を大切にする職人ほど最先端を意識して仕事をしないと、リーダーではいられない。革新的であることを恐れずに、挑戦・改革の気概を常に持ち合わせていることが大切。50年の歴史をもつ『家庭画報』の姿と重ね合わせて考えました」

 新しいものを取り入れながらも、銀座という街のフィルターを通して、伝統と革新のバランスを保つ――。その好例として、小松さんは、サンモトヤマや資生堂、老舗テーラーの壱番館などの名前を挙げた。

新世代がつくる新しい銀座

  • 「新30代」御用達のフレンチレストラン「ロオジェ」

 2つ目のポイントは、「新日本人」がクルージングする街という視点である。

 「カッコいい大人の女性(になりたい人)たち」がターゲットの「Grazia」。温井さんは、「この10年間で、特に都市部の30代の女性の変貌はすさまじい。35歳は女の定年ではなく、そこからが本物という感じ。新しい日本人が誕生したと思った方がいいくらいの激変」と強調した。

 いまや一度は就職して社会人の経験をもつ女性がほとんどだから、「子育てで一時家庭に引きこもっていると、自分だけ遅れてしまうというあせりもあるようだ。だから、情報を収集するのに骨を惜しまないし、行動も早いんです」とみる。

 バブル時代を知らない「新30代」は、年を重ねたからラグジュアリーブランドに向かうのではなく、「私らしさ」「カジュアル」「軽やかさ」に魅かれる。おめかしして高級フランス料理店に行くけれど、安い韓国ランチも知っている。そうした女性たちの行動に合わせて銀座特集も進化しているという。

 一方で、伝統の老舗の技については、外国人が日本文化に興味を抱くのと同様な見方をしており、「職人芸」「手仕事」「本物」に強く魅かれる。

パートナーを今より3割素敵に見せる街

  • 銀座の「いま」は変化も激しい

 3つ目のポイントは、男の見方、女の視点で見た街のとらえ方の違いだろう。

 「第二の成人式」がテーマで、「Grazia」よりも少し上の年齢を対象にした「STORY」。山本さんは、「銀座で夜7時に待ち合わせをする」という場面を設定し、読者カップルを使って特集したファッション企画の反響をこう語る。

 妻たちからは「外で見る夫は、スーツをぱりっと着こなして見違えてしまった」、夫たちからは「待っている妻の姿に惚れ直した」との声が多くあがった。「銀座は人を今より3割くらい素敵に見せる街。夫婦仲を見つめ直すいいきっかけを作ってくれる街かもしれませんね」

 だが、「銀座は、男性の社用という根強いイメージを崩して、女性がもっと遊び尽くせる街になればいい」(温井さん)との意見には、「これ以上女性を強くしてどうするの?って言いたい。読者カップルを見ると、親子と間違えるほど女性は若く輝き、男性は苦しみを一心に背負っているかのように老け込んでいる」と会場の笑いを誘った。

 「女性は放っておいても大丈夫。男性はお客になれば、その店を裏切らない習性がある。男をもっとつかまえて、男が輝ける街にしてほしいなあ」とも。

変わらない街のよさを残す

  • 路地の緑の植え込みに、ほっと一息つくことが少なくない

 4つ目は、原点に戻るようだが、変わらない銀座のよさを残すこと。私自身、銀座の古い露地裏を歩くだけで、どこかほっとすることが少なくない。

 「Hanako」の北脇さんは、関西で仕事をしていたこともあり、銀座初心者の目線で雑誌をリニューアルした。「先入観を捨てて、街を皮膚感覚で素直に感じることから始めた。この店いいなと思ったら扉を一枚だけ開けて情報を切り取る、直球勝負の雑誌作りです」

  • 街を皮膚感覚でとらえるという「Hanako」

 そうした中から気づいたのが、「変わらない銀座の香り」だった。歴史や伝統があるところほど入るには難易度が高い。でも、本質は崩さず、格式あるところは残しながらも、「今を生きる普通の人たちが手の届く質感」を大切にできるのが銀座の街ではないかと指摘する。

 「BRUTUS」の西田さんには、幼いころ、「アンガス牧場」(旧スエヒロビル地下)の巨大ステーキに小躍りし、「風月堂」でお茶する大人の背中にあこがれたといった、銀座の記憶がある。「両親に連れられて行った子どものころの原体験が、自分にとって行きつけの街になるきっかけにもなった」と話す。

 銀座にはいろいろな引き出しがある。私自身、大人の作法にそれとなく接して背筋がびんと伸びた淡い思い出があるのがこの街だ。10~20代のころの遊び場に尖った流行の街を選んでも、なぜか戻って来たくなるのが不思議だ。

 50代になったいま、私は心底もっと銀座を楽しみたいと思い出した。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)