2009.10.09

「サイドウェイズ」~折り返し点からの夢の実現

ちょっと立ち止まって、“人生の寄り道”

  • 映画「サイドウェイズ」は、カリフォルニア・ナパが舞台((c)2009 Twentieth Century Fox and Fuji Televesion)

 夢中で突っ走った青春の日々、懐かしい友達、実らなかった恋、キャリア、異国で体験したカルチャーショック、結婚そして別れ、再出発、ずっと持ち続けていたいヤンチャなハート、まだあきらめきれない夢のいくつか……。

 人生の半ばを過ぎた「おとな世代」ならば、どこか心に引っかかるキーワードではないだろうか。

 人生、思うようにはいかないものさ、とつぶやきつつも、まだあきらめていない自分がいる。とはいえ、残された人生の短さを知ってあせりもする。さて、次の一歩を踏み出すには、どうするか。ちょっと立ち止まって、“人生の寄り道”でもして、冷静に自分を見つめ直してみるか――。

  • 完成披露試写会でワインで乾杯するキャスト。左端はチェリン・グラック監督、右端は音楽担当のジェイク・シマブクロさん

 そんな気持ちにさせてくれる映画である。

 10月31日から全国ロードショーが始まる「サイドウェイズ」(20世紀フォックス映画配給)。2004年にアカデミー賞脚色賞を受賞した米映画「サイドウェイ」を、日本人キャストで新たにリメークした日本版だ。

 公開に先駆けて、銀座のお隣、有楽町の東京国際フォーラムで完成披露試写会が開催され、小日向文世、生瀬勝久、菊地凛子、鈴木京香の4人のキャストがオープニングで登場、ワインで乾杯した。

  • 映画にも登場する「ダリオッシュ」のダニエル・デ・ポロ代表

 というのも、この映画のもう一人の“主役”はワインなのである。

 主な舞台は、米カリフォルニア州ナパ・ヴァレー。カリフォルニアワインの聖地だ。劇中には、フロッグス・リープ、ニュートン、ベリンジャーなど、バラエティーに富む11のワイナリーが登場。色、味、香りなど千差万別なキャラクターをもつワインに、主人公たちは自らを重ね合わせつつ、人生を振り返るといった設定である。

 ワインと人生、そして人生折り返し点を過ぎてからの夢の実現……。

 映画に登場するワイナリーの一つ、「ダリオッシュ」のオーナー、ダリオッシュ・ハレディ氏は、そんな物語を体現している人物として知られる。完成披露試写会に合わせて、氏の右腕として活躍する同ワイナリーのダニエル・デ・ポロ代表が初来日したので、食卓を囲みながらじっくり話を伺った。

 では、ダリオッシュ・ストーリーのはじまり、はじまり――。

ワインへの尽きない情熱

  • 幼い時からの夢を実現、ワイナリーのオーナーになったダリオッシュ・ハレディ氏

 ダリオッシュ・ハレディ氏は、イラン西部、ロレスターン州のホッラマーバードの生まれ。家族は軍属で、イラン国内の主要都市を点々とする幼少時代を送っていた。

 父親は趣味でワイン造りを(たしな)み、特に、古くからのワイン産地シラーズに住んでいた時は、自宅地下のセラーには、ワイン樽が山ほど積まれていた。当時、氏は6歳。セラーに行って、樽から浸み出るワインをこっそり“テイスティング”するのが、どんな遊びよりも楽しかったという。

  • ペルシャ様式の宮殿を模したナパの「ダリオッシュ」ゲストセンター

 テヘランの大学で土木工学を学び、1968年に卒業。しばらく国内で仕事をしていたが、76年、自由な新天地を求めて南カリフォルニアに移住。英語をまったく話せなかった氏だが、義理の兄弟とともに、ロサンゼルスを拠点にスーパーマーケットの経営に乗り出し、ヒスパニックなど非白人向けの品揃えで人気店に。カリフォルニア全体に事業を拡大し、成功を遂げたアメリカン・ドリーマーの一人として、ビジネス誌がこぞって取材する存在になった。

 世界中のワインを飲み歩き、様々なシャトーのオーナーや醸造家たちとのネットワークを広げ、著名なワインコレクターとしても注目された。

 だが、彼の夢はここで終わらない。幼い時から最も切望していたのは、ワイナリーのオーナーになること。渡米から約20年後の1997年、あるナパのワイナリーが閉鎖されると聞き、買い取りを決断、95エーカーのブドウ畑を手に入れ、念願だったワインビジネスに進出したのである。それからプランニングに3年、畑や醸造設備などの整備に3年、そして2004年、ペルシャ様式の宮殿を模した訪問客用の拠点、ゲストセンターを完成させた。

宇宙のすべてがあなたに味方する

  • 野外劇場は、ペルシャ文化伝統を伝える場に

 まさに、人生の折り返し点を過ぎてからの夢の実現である。

 センターの入り口で一際目立つ円柱群は、古代ペルシャの遺跡、ペルセポリスで用いられたのと同じ石材を現地で調達・細工したものだそうだ。円形の野外劇場などもあり、氏は「洗練されたペルシャの文化伝統を伝える場にしたい」としている。

 ちなみに、「ダリオッシュ」で造られるワインはといえば、「ラフィット」や「オー・ブリヨン」などボルドースタイルを好む氏ゆえ、特に果実味濃厚なカベルネソーヴィニヨンがお得意のようだ。

  • 「ダリオッシュ」を代表するワイン、「シグネチャー カベルネソーヴィニヨン」

 普段あまりお目にかからないワインかもしれないが、プランタン銀座のワイン売り場では、映画公開を記念して10月20日まで開催中の「カリフォルニアワインフェア」の中で取り扱っているので、興味のある方は試してみてはいかがだろうか。

 氏は、在米イラン人向けのコミュニティー誌「ペルシアン・ミラー」のインタビューで、こんな風にも語っている。

 「夢を実現できたのは、打算でなく、情熱があったからだ。人生に迷いを感じている人に、私は、パウロ・コエーリョ作『アルケミスト(錬金術師)』にある言葉を贈りたい。 いわく、何かを強く望めば、宇宙のすべてがあなたに味方して実現に向けて助けてくれるのだ、と」

 夢を語ることは容易い。だが、その夢の実現に対して、どのくらい強く情熱を抱いているのか。それが重要なのだろう。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)