2009年10月アーカイブ

2009.10.30

健全な社会は健全な食品から~オーガニック生活のススメ

自然栽培野菜とこだわりの食材

  • 食の安全に敏感な都会人に人気の、木挽町通り「ナチュラルアンドハーモニックGINZA」

 東京・銀座の一角に、健康や食の安全に気を配る人たちに、圧倒的に支持されている店がある。「ナチュラル アンド ハーモニック GINZA」。

 1階の「結市場(ゆいちば)」には、肥料も農薬も使わない自然栽培の野菜を中心に、昔ながらの製法にこだわった味噌や醤油、それに天然素材の雑貨などが並ぶ。私は、無農薬畑から採取されるコットンで作られたTシャツのファン。肌触りがなんとも優しいからだ。

  • 自然農法で栽培された、「レストラン日水土」の野菜の盛り合わせ

 2階には、野菜が主役の「レストラン日水土」があり、ランチタイムは近隣のOLさんでにぎわっている。ある日の野菜盛り合わせは、長イモ、レンコン、トマトにジャガイモ……。ナスの上には雑穀のピューレが載って、ブドウジュースにコショウで風味付けしたソースがアクセントに。いかにも、体によさそうではありませんか。

オーガニック専門店が並ぶ北カリフォルニアのマーケット

 「フレッシュな地元産のものを買おう」「サステイナブル(持続可能)な環境保全型のオーガニック(有機栽培)農家を支えよう」――先日訪問した北カリフォルニアの市場でも、店頭でそんなキャッチフレーズが目に付いた。

 例えば、サンフランシスコ東側のウォーターフロント、フェリービルディングのマーケットプレイス。2003年の改装で、1階には、「近隣で収穫されたオーガニック・フードや雑貨」をテーマにした約40店舗が並ぶ。野菜にハーブ、チーズ、オリーブオイル、パン、コーヒーなど、小規模だがこだわりの一品を作る専門店ばかりである。

  • 米サンフランシスコのフェリービルディングからベイブリッジを望む
  • オーガニック・フードが並ぶ「フェリービルディング マーケットプレイス」
  • ナパの「オックスボウ パブリックマーケット」もオーガニックな地産地消がテーマ

 サンフランシスコ周辺は、ベトナム反戦の学生運動発祥の地。1970年代には、自然回帰を志向したカウンターカルチャー(対抗文化)の流れの中で、禅や有機農法などへの関心が育まれていった伝統がある。

 ファストフード偏重やカロリー過剰摂取への反省、それに加えて、今後25年間でカリフォルニア州全体で2000万人の人口増が見込まれる状況では、環境保全型農業をはじめとするエコロジーへの積極的なかかわり方は危急の課題でもあるのだ。

 この「マーケットプレイス」の仕掛け人、スティーヴ・カーリン氏がワインカントリーのナパに、2007年オープンしたのが、「オックスボウパブリックマーケット」。コンセプトはサンフランシスコと同じだが、さすがワインやチーズのコーナーがより充実している。

ワインは地球のナチュラルプロダクト

 ブドウ畑でも、環境保全型の栽培方法が多くのワイナリーで採り入れられている。

 1980年代から多様な生物や大地のもつ自然の力に注目して土壌改良を続け、ナパ・ヴァレーでオーガニックワイナリー第一号に認定されたのは、「フロッグス・リープ」。ワイナリーが創設された場所がカエルの養殖場だったことにちなんで、ジャンプするカエルがワインラベルにデザインされている。ソーラーシステムの導入、地熱を利用しての土地管理など、環境に配慮したワイナリーの先導的な役割を果たしている。

  • ナパのオーガニックワイナリー第一号、「フロッグス・リープ」
  • (左)「フロッグス・リープ」のテイスティングテーブルの向こうに畑が広がる、(右)ゲストハウスは有機栽培の花々に囲まれて
  • (上)「ルビコン・エステート」のブドウ畑。奥に、コッポラ邸がある、(下)世界のベストソムリエに選ばれた「ルビコン」のラリー・ストーン氏

 オーナーのジョン・ウィリアム氏は東部の酪農家に生まれ、コーネル大学で酪農を学んだが、ワイナリー実習ですっかりワインに魅せられ、卒業後、醸造学を修めるためにカリフォルニア大学デイヴィス校へ。ヒッピー生活を送った時期もあり、「ワインは地球のナチュラルプロダクト」が口癖だ。ブドウ畑が見渡せるゲストハウスの周りには花が咲き乱れ、すくすくと育った野菜やハーブなど、大地の恵みであふれていた。

 映画監督のフランシス・フォード・コッポラ氏が1975年に設立したナパの「ルビコン・エステート」も、早くから環境保全型の栽培を実践してきたワイナリーとして知られている。

 同ワイナリーの総支配人で世界のベストソムリエに選ばれたことのあるラリー・ストーン氏が説明してくれた。

  • 「ルビコン」の畑には、節水の工夫がある

 「フランシスの妻のエレノアが、バークレーの有名なオーガニック・レストラン『シェ・パニーズ』のアリス・ウォーターズから薫陶を受けたのがきっかけです。80年代当時はまだ、一般的に、オーガニックに関心を持つのは変わり者のヒッピーぐらいと言われていた。それでもエレノアは、『健全な社会には健全な食品が必要で、健全な食品には健全な地球、大地が不可欠』というアリスの哲学を説いて、畑すべてに有機農法を採り入れた。時代を読んでいたんですね」

 畑の畝の間には、クローバーやソラマメ、エンドウなど窒素を豊富に含む植物を植えているので、雑草も少なく、肥料をまかなくても土はふかふか。てんとう虫やクモが繁殖し、害虫を駆除してくれる。小川や湿地帯、草原が保全され、フクロウなどの野鳥も共存しているので、モグラなど畑を荒らす小動物が現れなくなった。様々な生物のサイクルが、ブドウ畑を中心に機能しているのだ。

 灌漑はホースに付いた小さなノズルから水を適量散布するシステムで、水量を大幅に削減。また、醸造現場で使用した水はろ過して灌水として再利用しているという。

オーガニックホテルのエコ・メッセージ

  • サンフランシスコのエコなホテル「パロマー」は、繁華街のビルの上層階に

 オーガニックな風は、宿泊施設にも吹いていた。

 サンフランシスコの中心部、ユニオン・スクエアにほど近い「ホテル パロマー サンフランシスコ」。お買い物スポットの喧騒の中に佇むブティックホテルだが、至るところにエコな工夫がみられる。

 ロビーで振る舞われているのは、フェアトレードのオーガニックコーヒーだった。部屋のバスタオルもシーツも、客のリクエストがない限り毎日決まり事だからといって取り替えない。おしゃれなバスローブも素材はオーガニックコットン。

  • (左)バスローブもオーガニックコットン製、(右)客のエコなアクションを促すファクトシートに注目!

 シャワーやトイレは節水タイプ、清掃には環境に配慮した洗剤を使用、パンフレットをはじめとする印刷物には再生紙と大豆由来のインクを使い、客が使用しなかったアメニティは慈善団体に寄付する。「我々のホテルグループが印刷物に100パーセント再生紙を利用することで、年間1万リットルを超える水や4000キロワットを超える電力……などの削減につながっている」といったファクトシートが、部屋の各所にさりげなく置かれている。「エコな行動はあなたの意識次第」――そんなメッセージが伝わってきた。

 銀座のオーガニック旅館「お宿吉水」を、以前小欄でご紹介したことがある(3月27日付)。日本とアメリカ、比べてみるのも面白いかもしれない。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

 ◆ホテルパロマー サンフランシスコ(英語)

 http://www.hotelpalomar-sf.com/index.html

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2009.10.25

美味しいカリフォルニア その1~「フレンチ・ランドリー」

9月にカリフォルニア・ナパを久しぶりに旅して、ワインとともに楽しむ「美味しいカリフォルニア」を再発見しました。
そこで、現地報告を何回かに分けてお届けすることにしました。

 

1回目は、「全米一予約の取れないレストラン」といわれている、「フレンチ・ランドリー」

 

09102401.jpgカリフォルニア・ナパの隣り街、ヨントヴィルの閑静な住宅街にある石造りの2階建て、なんとも素朴な佇まいの店。 

 

6年前、サンフランシスコの対岸、バークレーに住んでいたころ、日本から家族や友人が訪ねてくるたびに予約を取ろうとトライしたのですが、いつも振られてばかり。

 

というのも、2か月前の10時きっかりに電話をかけるというユニークな予約システムがあるからなんです。今回はちょっと奥の手を使って、予約に成功! 

 

訪問したのは9月4日。午後7時45分からの1階のテーブルでした。

毎日メニューは変わります。

オーナーシェフのトーマス・ケラー氏から歓迎のレターが届いていました!

 

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レストランの建物は1880年代に造られ、最初は酒場として使われていましたが、1920年から始まる禁酒法の時代には一時売春宿に。

さらに、20年代後半、フランス人がスチームを使った洗濯屋を営むようになり、それが現在の店名の由来といいます。

 

74年にヨントヴィルの町長夫妻が買い取りレストランにリニューアル、そして、94年、現在のシェフでオーナーのトーマス・ケラー氏がフレンチ風のアメリカ料理を提供するレストランをオープンします。

ただし、7月のオープニングの日は散々の結果だったそう。しかし、スタッフの団結は逆に強まり、その後、地元の「サンフランシスコ・クロニクル」紙をはじめ、97年に「ニューヨーク・タイムズ」紙で絶賛されたのをきっかけに大ブレイク!
 

メニューは、240ドルのプリフィックスのみ。

「シェフのテイスティングメニュー」と「ベリタリアン向けのテイスティングマニュー」で、どちらも9品が並びます。

 

ベジタリアンメニューもとても美味しそうだったのですが、
ジェネラル・マネジャーのニコラス・ファヌチさんの「初めて召し上がるのであれば、そして食事の制限がないのであれば、シェフのメニューを選ばないと、後悔なさるのでは」との強力なるサジェスチョンがあって・・・もちろん、そちらを選びました。

 

洗濯バサミを模したナプキンホルダーがしゃれています。

   

 

 

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テーブルを飾る花もランプも大げさでなく、可憐なところが素敵です。


09102404.jpgまず、チーズ風味の小さなシューをつまみながら、アペリティフは泡ですね。

 

2002ロデレール・エステート キュヴェ・レルミタージュ

 

ナパの北、メンドシーノ郡・アンダーソンヴァレーにあるこのワイナリーは、シャンパーニュの名門、ルイ・ロデレールがスパークリングワイン専門に設立。100%自社畑のブドウを使用。

太平洋から吹く冷たい風と深い霧によって冷涼な気候が保たれ、気候条件がシャンパーニュ地方とよく似ているのです。


 

 「キュヴェ・レルミタージュ」は、ホワイトハウスの晩餐会でも使われる同社の最高級品。黄金色の輝き、酸の切れもよく、ヘーゼルナッツや洋ナシの豊かな味わいが広がります。


 

 

定番のサーモンのタルタル・クレープ包み。ケラー氏がアイスクリームショップでひらめいた仕立てだそうです。

 

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では、コースの始まり!


 

oysters and pears


 

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アイランドクリークのカキと真珠に見立てたタピオカ入りサバイヨンソース。

セブルーガのキャビアがたっぷり載って。お店の代表的なメニューです。

 

 

salad of lobster mushrooms 

 

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歯ごたえのあるロブスターマッシュルーム。キノコというより、魚介類系の味? 

イエローコーン、ベビーリーキ、卵黄仕立てのベルナーズ・シロップを添えて。

 

 

白ワインをいただきました。

 

09102407.jpg2006レミィ シャルドネ(ハイド・ヴィンヤード)

 

ナパの玄関口、カーネロスの栽培家、ラリー・ハイド氏のワイナリー。

「キスラー」や「ポール・ホブス」、「フロッグス・リープ」などの生産者にブドウを提供していることで知られています。

 

「レミィ・ワイン・セラーズ」もその一つで、オーナーで醸造責任者のレミィ氏は、「ドミナス」や「シミ」で素晴らしいワインを生み出した実績を持つ人。フィルターをかけず、ブドウ本来のいきいきとした酸味やフルーティーさが伝わってきました。
 

 

パンも自家製。

 

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grilled pave of japanese toro

 

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軽く炙った日本産のトロに組み合わせたのは、秋田小町のお米、ネーブルオレンジ、アボカド、スプリングオニオン、コリアンダー。マツタケ風味のブイヨンで。

かなり日本の素材を意識しています。

 

 

cesar salad

 

 

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メーン州のロブスターテールにロメーン・レタスをほどよく焦がして。ニンニクとオリーブ風味のガーリックメルバとカラスミが添えられています。

へえ、これを米国名物「シーザース・サラダ」というの? 洗練されてます。

 

 

赤ワインをいただきます。


 

09102411.jpg2007ポーター・バス ピノノワール(ロシアン・ヴァレー)

写真ぼけぼけになってしまったので、ワイナリーのロゴを紹介します。

虫さんマークに象徴されるように、こちら、1980年に古いジンファンデルやパロミノが植えられていたブドウ畑を買い取り、土壌を改良、徹底した有機栽培でピノノワールを育てています。


干したプラムやブラックチェリーの香り、森の土のニュアンスも感じられ、エレガントなタンニンを楽しめ、余韻も十分。

 

ちなみに、この店のワインリストは、100ページ近くあります。

カルトな「スクリーミングイーグル」の1997年ヴィンテージは、なんと1万ドルを超えていました!!


 

marcho farms   cœur de veau

 

09102410.jpg仔牛の心臓です。内臓好きなので、うれしいメニュー。

ハックルベリーの実、シポリーニオニオン、ターニップ、コーンサラダのソービーズソース。タマネギの甘い味わいに酔えます。

 

elysian fields farm lamb saddle

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メインのラム肉です。サマースクワッシュ、オリーブ、そしてデミ・セックのトマト、タイムがアクセントに。

「常にゲストにサプライズを与える料理」が同店の哲学らしいのですが、メインはごく平凡な印象。

それにしても、アメリカ人には量が少ないのではないか、と心配でした。

 

 

andante dairy cavatina

 

09102413.jpg二重唱、「カヴァティーナ」にたとえたチーズのプレート。

ピーチ、ベルギー産アンディーブ、パンプキンシード、ウォータークレソン、バスク地方のピメント・・・。インターナショナルな味わいです。


 
honeydew melon sorbet


09102414.jpgホームメードのハニーデューメロンのソルベ。バジルでさっぱりと。

 

 

最後のデザート、二者択一なのですが、選びあぐねて、両方いただいちゃいました。


 
gateau saint nizier au manjari

濃厚なチョコレートケーキにマンゴの味わい、ライムとココナッツミルックのソルベが優しい味に。

lemon verbena vacherin

パンナコッタとレモンとバーベナを合わせたソルベ、地元シルヴァラード・トレイルの冷たいストロベリーコンソメと一緒に。 これ、絶品でした! 

 

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バーベナのハーブティーをいただきました。


 

 

プティフールやショコラも、全部食べてしまいたいくらい、美味しかった!

 

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最後に、キッチンに案内していただきました。

トーマス・ケラー氏の右腕としてキッチンを守るティモシー・ホリングスワース氏と。

2002年からケラー氏のもとで腕を磨き、ケラー氏がニューヨークにつくったレストランのオープンを任された方です。


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野菜は、店のすぐ近くにある自家農園で育てているそうです。

うーん、機会があれば、今度は野菜づくしのメニューに挑戦したいなあ。

 

 

 

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2009.10.23

ヴィノテラピーで極上リラクゼーション

天然ポリフェノールできれいになる

  • ナパにある「ザ・メリタージュ・リゾート・アンド・スパ」

 突然1日休みが取れることになったら、あなたなら何をしますか? 私は迷わず、「スパ(温浴施設)へGO!」でしょうか。

 あわただしい日常から離れて、心身の疲れを癒してくれる極上リラクゼーションで、しばしプチぜいたくを味わいたい……。最近のお気に入りは、銀座にほど近い外資系ホテルのスパ。当日の体調や気分に合わせて、セラピストが2時間ほどの施術を組み立ててくれる、わがままなプログラムが好きだ。38階のガラス張りの角部屋から見下ろす大都会の景色もなかなか圧巻である。

  • プールの向こう側、ブドウの丘の下に「スパ・テッラ」がある

 とはいえ、やはり緑に包まれた環境でのスパ体験はリラックス度が格段に違う――そう実感したのは、先日、北カリフォルニア・ワインカントリーを旅したときだった。しかも、ワインの香り漂う中でとなると、なおさらだ。

 赤ワインに多く含まれる天然ポリフェノールの抗酸化作用や抗炎症作用、アンチエージングの効果などが注目されるようになって久しい。高濃度のポリフェノールは、特に、ブドウの種子や果皮に多く含まれているといわれる。

 欧米諸国では、このブドウの自然のパワーを利用したヴィノテラピー(ワインセラピー)の研究が進んでおり、「ワインできれいになる」といったキャッチフレーズで、スパ・トリートメントに取り入れるリゾートホテルも続々と登場、人気になっている。

ブドウの丘のリゾートスパ

  • (上)洞窟のような通路を抜けて、トリートメントルームヘ、(下)ひんやりと心地よい岩室でトリートメントを受ける

 最初に訪ねたのは、ナパにある「ザ・メリタージュ・リゾート・アンド・スパ」。「メリタージュ」とは、カリフォルニアでフランス・ボルドー品種をブレンドしたワインの呼称で、merit(利点)とheritage(遺産)を組み合わせた造語だ。ミーティングルームには、「カベルネ」「メルロ」などの名前が付けられており、もちろん室内にはワインセラーも完備。ワインカントリーらしい演出である。

 中庭にあるプールの向こう側には、なだらかなブドウの丘が一望できる。丘の下にはワインカーブが掘られていて、そこに、2年前、スパ施設「スパ・テッラ」とワインバーがオープンした。

 鈍い灯りに導かれて洞窟のような通路を抜けた先に、トリートメントルームがある。モザイクタイルや錬鉄製のインテリアで飾られた空間は、どこか幻想的だ。岩室なので、適度な湿気があり、ひんやりして心地よい。

 50分のボディトリートメントを選んだ。まずは、細かく砕いたグレープシード(ブドウの種)でスクラブ。古くなった角質を取り除き、ジェットシャワーリンスでしっかり洗い流す。ワインのエキスとローズヒップをブレンドした泥ラップにくるまり、最後はグレープシードローションでたっぷり保湿する。

 日焼け跡の手入れを怠っていた私の肌はしなびた野菜のようにシワシワで、かなり危険な状態だったが、少しばかり潤いを取り戻せた気がした。

 いや、これだけでは満足いかない。が、さらなる修復は可能なのだろうか……。

ワインの香りに包まれ、セレブ気分

 翌日は休息日にしていたので、思い切って半日をスパで過ごすことに決めた。

 ナパを北上し、目指すは、ハリウッド・セレブもお忍びで来るというソノマの「ケンウッド・イン・アンド・スパ」。トスカーナ風建物の正面入り口は、ブドウやツタのつるが絡まる白亜の壁。緑のじゅうたんで覆われていて、隠れ家的な佇まいである。一歩中に入ると、手入れの行き届いた植栽や軽やかに響く噴水の水音に癒され、中世イタリア貴族の館に招かれたようなリッチな気分にさせられる。

  • 緑のじゅうたんで覆われた館、「ケンウッド・イン・アンド・スパ」
  • (上)スパの待合室は落ち着いた空間、(下)リラックス効果を高めるハーブエキス
  • (上)クレオパトラを気取って、ワイン風呂へ、(下)アメニティも自然の産物から

 ここはちょっとぜいたくして、「ヴァレー(谷間)の真髄」というたっぷり5時間のコースに挑むことにした。

 待合室には、各種ハーブティーやシェリー酒などが用意されていた。私は、「記憶力が高められる」「ブッダのような穏やかな気持ちになる」といった文言が記されたハーブエキスに魅かれ、スパークリングウォーターで割ってみた。効果のほどはさだかではないが、「キレイになるぞ!」というやる気は高められたと思う。

 セラピストに案内され、まずはワイン風呂へ。ワインエキス配合の淡いピンク色のジャグジーで、クレオパトラを気取ってリラックス。窓越しに、葉が色付き始めたワイン畑が見渡せた。芳醇なワインの香りに包まれ、アメニティも、「ワインボディウォッシュ」とか「ホワイトティークレンジング」とか、なんだか体によさそうだ。

「自分へのご褒美」で心も体も潤う

  • 5時間のスパ体験で主に使用したスキンケア製品

 50分間のスクラブでは、サトウキビ、グレープシード、シャルドネ・オイル、リースリング・オイル、そして赤ワインのエキスが配合されたものを使った。ペットの犬のように首から下をブラッシングされると、実に“痛(イタ)きもちいい”のだ。続いて、インエキスとローズマリー、それに精油がブレンドされた泥ラップに80分間包まれて、全身ぽかぽかしてきた。代謝がよくなって、体内の老廃物を排出、デトックス効果があるという。仕上げは、普段まったくノーチェックの首周りや背中、頭皮をグレープシードローションで軽くマッサージ。

  • (上)小休憩では、部屋に戻って軽くランチ、(下)サラミやオリーブ、チーズなどワインのお供がずらり

 さらに、50分間のボディー全体のアロマ・マッサージが続き、私はとうとう途中で寝てしまった。「グレープフルーツのマッサージクリームは鎮静効果抜群なんですよ」と、担当のセラピストが教えてくれた。それだけリラックスできたということなのだろう。

 小休憩。部屋に戻り、ぱちぱち燃える暖炉の前で、サラミやチーズをつまみ、ワインを片手にゆったりくつろぐ。そして最後は、これまたワインエキス入りのマスクで顔をしっかりパック。

 「もう完璧!」と、私はつぶやいた。

 カサカサに乾燥していた肌が、それなりにプルプル、しっとりした質感に戻った感じ。まあ、危機は脱したのだろう。そして何よりも、からだが軽く、清清しい気持ちになっている自分がうれしかった。

 円高のお陰もあって、カリフォルニアでのスパ半日コースは、日本のホテル・スパ2時間の料金とほぼ同じ。おとな世代の「自分へのご褒美」に、こんなお籠もりの楽しみを加えてみてはいかがだろうか。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

 ◆ザ・メリタージュ・リゾート・アンド・スパ(英語)

 http://www.themeritageresort.com/

 ◆ザ・ケンウッド・イン・アンド・スパ(英語)

 http://www.kenwoodinn.com/

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2009.10.18

ダリオッシュのテイスティングルームで

10月9日付けのブログに、「無類のダリオッシュ好き」というカタヤマ様から、素敵な情報がコメント欄に寄せられました。

 

初来日されたダン代表を迎えての他のイベントが報告されていますので、気になる方はぜひ10月9日付けのコメント欄もチェックしてくださいね。

 

というわけで、「ダリオッシュ」の話題をもう一つご紹介しておきましょう。

 

9月の初め、北カリフォルニア・ナパのシルヴァラードにあるダリオッシュのゲストセンターを訪ねたときのことです。

 

センターのオペレーション・マネジャーのライアンさんとグローバルセールス担当のドーンさんがまず案内してくれたのは、映画「サイドウェイズ」で、ワインアドバイザーとして活躍する鈴木京香が、顧客から結婚パーティーのワインセレクションを任され、やって来たセラーのある場所。


 

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とっても落ち着いた雰囲気。

美しく並べられた様々なワインに、ただただ感動、です。


樽を寝かせているセラーも、とってもゴージャス。

隅々まで手入れが行き届いていて、その場に立つだけで、清清しい気持ちにさせてくれます。


 

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「ダリオッシュ」のテイスティングルームには、いくつかのタイプがありました。(すべて有料。詳細はダリオッシュのWEBサイトの「unique experiences」で)

まず、ゲストセンター1階正面に広がるカウンター。

 


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それから、少人数のグループでプライベートルームを予約するタイプ。

 


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そして、私が体験したのは・・・
「The Quintessential Wine Experience」という、まさにダリオッシュの真髄を楽しむものでした。


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ダリオッシュの素敵なコレクションに囲まれた部屋で、

 

 

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ボルドースタイルの料理を得意とするシェフ、ケン・フランクさんのメニューでマリアージュ を味わいました。


オーナーのダリオッシュ氏については先のブログでもご紹介しましたが、ボルドー好きで、素晴らしいコレクターとしても知られています。
そこで、テーマは、「ボルドーとダリウスⅡ」です。

 

 

今回テイスティングしたのは、右から、
 2006 ダリウスⅡ
 2006 シグネチャー カベルネソーヴィニヨン
 1988 シャトー・オー・ブリヨン

 

 

 

 

09101812.jpgダリオッシュの珠玉の1品、「ダリウスⅡ」2006年は、

カベルネソーヴィニヨン95%、メルロ5%のブレンド。タランソー製フレンチオークの新樽100%で20か月熟成しています。

ダリオッシュの所有畑の中でも、古樹が残る2エーカー足らずの区画から手摘み、2度の選果で厳しくセレクトしたブドウのみを使用して造られます。わずか18樽しかリリースされていません。エチケットは伝統的なペルシャの文様で、どこかエキゾチック。

 


ブラックベリー、リコリス、濃厚なエスプレッソ、エキゾチックなハーブや土のニュアンス・・・。新樽率100%なので、甘いヴァニラの香りも心地よくて。そして、滑らかなタンニンが舌の上を転がります。

 

「シグネチャー カベルネソーヴィニヨン」2006年は、前にもご紹介しましたが、最初はよく熟れたブルーベリーなど果実味の印象が前面に出てくるのですが、味わいはまろやかでエレガント、シナモンやナツメグのスパイシーさがアクセントに。

 

さて、ダリオッシュ氏のプライベートセレクションから今回サービスされたのは、ボルドーのグラン・ヴァン、1988年の「オー・ブリヨン」。ジョン・ロックやトーマス・ジェファーソンも愛した伝統のグラン・ヴァンです。

 

それにしても、テイスティングに「オー・ブリヨン」とは、あまりにも太っ腹??

 

「ワイン・コレクターには2つのタイプがある。利殖のためという人と、分かち合うためという人と。私は後者のタイプ。素晴らしい友人と美しいボトルを開けて楽しい時間を過ごすことほどの喜びはない」というのが、ダリオッシュ氏の持論のようです。


とってもパワフルで、ミントやベリーの複雑な香り、そして洗練されたタンニンの味わいも。言うことありません・・・。
 

さて、こうして比べると、「ダリウスⅡ」を寝かせて、10年後、20年後がほんと楽しみになってきます。

 

 

そうそう、合わせた一口サイズのお料理は

 

09101813.jpg上から順に、


ブリオッッシュに載せた鴨とフォアグラのリエット


カルダモン風味のかりかりバナナ・チップスに載せた鴨胸肉、イチジクの赤ワイン・コンポート添え


ライ麦パンに載せたオーストラリア牛のたたき アイオリソースで味付けたトランペット茸とケネベック・ポテトの賽の目切りを飾って

 

 

私にとって、忘れられないテイスティングルーム体験になりそうです。

ちなみに、私は記念にと思い、奮発して2005年の「ダリウスⅡ」をプランタン銀座で購入しました。税抜き価格で35000円。ホームセラーで大事に寝かせてみます。
 

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2009.10.16

北カリフォルニア、ワインカントリーを訪ねて

ワイナリー500軒が点在する「ワイン街道」

  • ワインがおいしくなる季節。プランタン銀座で開催中の「カリフォルニアワインフェア」
  • 世界で15人しかいない女性マスター・ソムリエ、アンドレア・ロビンソンさん
  • 色づき始めたカリフォルニアのワイン畑を、ハーツのレンタカーで走り抜ける

 青く澄んだ空と降り注ぐ陽光、収穫が終わってあたり一面オレンジ色に輝くブドウ畑の葉を爽やかな風が吹き抜ける――。そんな北カリフォルニアの秋の気配が、プランタン銀座のワイン売場には漂っている。

 20日まで開催中の「カリフォルニアワインフェア」では、前回の小欄でご紹介した、映画「サイドウェイズ」に登場するワインをずらりと集積している。フロッグス・リープ、ベリンジャー、ニュートン、ダリオッシュ、ロバート・モンダヴィ……。

 1か月ほど前、私は米カリフォルニアにいた。「サイドウェイズ」の舞台になった北カリフォルニア・ワインカントリーを駆け足で訪ねる旅である。

 旅のスタートは、サンフランシスコに向かうデルタ航空の機内から始まった。スパークリングワインはカリフォルニア、2種類の赤はカリフォルニアとフランス・ローヌ、白も2種類でアルゼンチンとフランス・ブルゴーニュ、デザートワインはポルトガルとオーストラリアと、種類が豊富だ。

 機内のワインを統括するアンドレア・ロビンソンさんは、ソムリエ教育の国際機関が認定する、世界で15人しかいない女性マスター・ソムリエの1人。季節に合わせて変化する料理に合わせて、約900種類ものワインから選び出すという。そういえば、彼女が2002年から編集している「すべての人のためのワイン購入ガイド」には、コストパフォーマンスのいいワインを探している時に随分と助けられたものである。

 サンフランシスコから約100キロ北に位置するのが、カリフォルニア・ワインカントリーの玄関口、ナパの街。ナパ・ヴァレーを南北に貫くハイウェイ29とそれに並行して走るシルヴァラード・トレイルは、別名「ワイン街道」とも呼ばれている。ワインカントリーにはざっと500軒近くのワイナリーがあるが、その多くが谷間を走る2本の道路沿いに点在している。

 空港でレンタカーを借りて、自由に動き回るというのが米国流のワイナリーツアーだ。といっても、1日に3、4軒は回ってワインの試飲をするのだから、私はもっぱら酒を飲まない友人にハンドルを握ってもらった。

目指すワインは“黒いドレスのオードリー・ヘップバーン”

 ナパとソノマに分岐するあたり、なだらかな丘陵にブドウ畑が広がる一帯がカーネロス地区。主にシャルドネとスパークリングワインの産地として知られる。

 フランス・シャンパーニュ地方の名門、テタンジェ社が1987年に設立した「ドメーヌ・カーネロス」の醸造責任者は、アイリーン・クレインさん。女性である。

 先に挙げたアンドレアさんのように、米国のソムリエの世界では女性の進出が著しいが、醸造責任者となるとまだ少数派のようだ。

 アラ還(アラウンド還暦)世代のアイリーンさんは、栄養学の修士号を取って東海岸で教壇に立っていた。「戦争中、ノルマンディー作戦でオマハビーチに上陸した父はフランスでワインの味を覚えて、帰国後は自宅にセラーを造りました。1950年代の米国ではまだ珍しいこと。ワインにはそれぞれ物語があると言って、歴史や風土の話で幼い私を楽しませてくれたんです」と振り返る。

  • 石組みのシャトーの中庭で、ワインテイスティングを楽しむ(ドメーヌ・カーネロスで)
  • 女性醸造責任者の先駆者、ドメーヌ・カーネロスのアイリーン・クレインさん
  • アイリーンさんが働いていたドメーヌ・シャンドンも、フランスの名門シャンパンメーカーの所有

 ワインへの思いは募るばかりで、醸造学で有名なカリフォルニア大学デイヴィス校の門をたたくが、最初は「教養課程からやり直せ、卒業しても女性は樽を運べないから無理だろう、などと言われました」。

 その後、手を差し伸べてくれる教授に出会い、数か月で学位を取得。フランスの「モエ・エ・シャンドン」がナパで展開するスパークリングワインの「ドメーヌ・シャンドン」で、ワイナリーを案内するツアーガイドやパン職人をしたり、ソノマでは、ワイナリーの建物の設計をしたり、ワインに関係のある仕事があれば「何でも挑戦した」という。まもなく40歳という時、その働きぶりを見ていたテタンジェ社の社長から、新しく立ち上げるワイナリーの醸造責任者を任せたいと言われたのだ。

 「あなたの目指すワインのスタイルは?」と尋ねると、「黒のドレスを完璧に着こなしたオードリー・ヘップバーンのイメージ」との答えが返ってきた。控えめで、上品で、着飾っている雰囲気はないのに、人一倍注目される存在でありたい、という意味らしい。料理研究家のジュリア・チャイルドやアーティストのエラ・フィッツジェラルドなど、米国の偉大な女性たちに捧げるワインも考案し、ビジネス誌で「米国で影響力のある75人の女性」に選ばれた。

老舗ワイナリーを支える女性パワー

  • ベリンジャーの醸造責任者、ローリー・フックさん

 130年以上の歴史のあるナパの老舗ワイナリー、「ベリンジャー」の醸造責任者も女性だった。ローリー・フックさんは、アイリーンさんより10歳以上若い。

 「母方の祖先をたどると、フランスで、革命以前にシャトー・オリヴィエというワイナリーを所有していたんです。化学実験や自然観察、それに歴史が好きな女の子でしたから、醸造学を目指すのは自然な選択でした」と語る。ローリーさんも、デイヴィス校の卒業生だ。

  • ステンドグラスがはめ込まれ、伝統を感じさせるベリンジャーの入口

 「小柄だからブドウの収穫は無理だろうと言われたこともありましたが、女性だからといって露骨に差別を受けたことはありませんね。前の世代の女性の先輩が頑張ってくれたからでしょう。理解ある上司にも恵まれ、ワイン造りのすべてにかかわらせてもらいました」

 ブドウ畑のすぐ近くに住んでいるので、毎朝4時か5時には出掛ける。「朝霧が立ち込め、空が紫がかったブルーに輝き出すころ、畑を歩きながらあれこれ考えるのが至福の時です」とも。

 米国では最近、醸造学を専攻する学生の半分が女性で、首席で卒業するのも女性が多いという。女性醸造家に特化した様々な競技会も開催されるようになった。また、あるアンケートで、ワインを購入する時「妻が決定権をもつ」と答えた家庭は6割を超えており、「ワインの世界での女性パワーは着実に強まっている」との分析もある。

 さて、日本でも、女性のワイン醸造責任者が活躍する時代は近いだろうか。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

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2009.10.14

江戸料理の「なべ家」で初秋の味覚

ヨミウリオンラインで連載している「GINZA通信」の取材を兼ねて、先日、東京・大塚の「なべ家」さんに、初秋の味覚を味わいに出掛けました。

 

10月2日付けの「GINZA通信」では、銀座8丁目にある江戸スローフードのセレクトショップ「銀座・三河屋」の話題をご紹介しましたが、

ここで扱う江戸食の料理監修をなさっているのが、「なべ家」のご主人、福田浩さんなんです。

 

福田さんは、古い料理書の研究や江戸料理の再現者としても有名な方。

銀座三河屋本店の神谷修社長が、江戸食の店に挑戦するきっかけになったのも、福田さんがまとめた「江戸料理百選」がきっかけだったそうです。

 

さて、初秋の味覚は、松茸・落ち鮎・秋鯖のデラックスなコース。


09100201.jpgまずは、名物の玉子焼き。

酒だしで甘辛~く焼き込んだ江戸の味です。


 

   

 

 

旬の素材で白和え、

そして、今日は日本酒をいただきましょう。

宇都宮酒造の「四季桜 秋」を冷酒で。まろやかな芳香が秋の気配を運んでくれます。

 

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09100204.jpg大根をからっと素揚げして大根おろしでいただきます。

なかなか見かけない一品。

 

 

 

 

 

 

09100205.jpg江戸っ子が昔から大好きだった豆腐とナメコのお吸い物。

「豆腐百珍」は、江戸・天明期にベストセラーになりました。

 

 

 

 


09100206.jpg旬まっさかりの松輪の鯖を和がらしで。

三浦半島の南端、剱崎灯台の袂にあるのが松輪地区。

江戸料理には欠かせません。

大根おろしにアサツキ、ミョウガ。

薬味が脂ののった秋鯖の味をさらにおいしく演出してくれます。

 

 

 

09100207.jpg 焼き松茸(岩手産)が登場。

 

 

 

 

 

 

09100208.jpgそばは、池波正太郎も愛した神田「まつや」から。

辛味大根がアクセントに。


 

 

 

 

 

09100209.jpg落ち鮎の煮びたしは、頭からかぶりつきます。

あふれんばかりの卵を味わいます。


 

 

 

 

 

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またまた、松茸がご飯と一緒に登場。

 

 

 

 

 

 

 

 
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レディスフィンガーというブドウとおろしたナシの組み合わせ。


最後は、これも人気の江戸のデザート、玲瓏(こうり)とうふ。

黒蜜でいただきましたが、練り辛子と酢醤油でも。

このデザートの説明は「GINZA通信」をご参照ください。

 

からだにやさしく、季節の旬にこだわった江戸のスローフード。

ちょっと江戸にタイムスリップして、初秋を楽しむのも粋なものではないでしょうか。

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2009.10.09

「サイドウェイズ」~折り返し点からの夢の実現

ちょっと立ち止まって、“人生の寄り道”

  • 映画「サイドウェイズ」は、カリフォルニア・ナパが舞台((c)2009 Twentieth Century Fox and Fuji Televesion)

 夢中で突っ走った青春の日々、懐かしい友達、実らなかった恋、キャリア、異国で体験したカルチャーショック、結婚そして別れ、再出発、ずっと持ち続けていたいヤンチャなハート、まだあきらめきれない夢のいくつか……。

 人生の半ばを過ぎた「おとな世代」ならば、どこか心に引っかかるキーワードではないだろうか。

 人生、思うようにはいかないものさ、とつぶやきつつも、まだあきらめていない自分がいる。とはいえ、残された人生の短さを知ってあせりもする。さて、次の一歩を踏み出すには、どうするか。ちょっと立ち止まって、“人生の寄り道”でもして、冷静に自分を見つめ直してみるか――。

  • 完成披露試写会でワインで乾杯するキャスト。左端はチェリン・グラック監督、右端は音楽担当のジェイク・シマブクロさん

 そんな気持ちにさせてくれる映画である。

 10月31日から全国ロードショーが始まる「サイドウェイズ」(20世紀フォックス映画配給)。2004年にアカデミー賞脚色賞を受賞した米映画「サイドウェイ」を、日本人キャストで新たにリメークした日本版だ。

 公開に先駆けて、銀座のお隣、有楽町の東京国際フォーラムで完成披露試写会が開催され、小日向文世、生瀬勝久、菊地凛子、鈴木京香の4人のキャストがオープニングで登場、ワインで乾杯した。

  • 映画にも登場する「ダリオッシュ」のダニエル・デ・ポロ代表

 というのも、この映画のもう一人の“主役”はワインなのである。

 主な舞台は、米カリフォルニア州ナパ・ヴァレー。カリフォルニアワインの聖地だ。劇中には、フロッグス・リープ、ニュートン、ベリンジャーなど、バラエティーに富む11のワイナリーが登場。色、味、香りなど千差万別なキャラクターをもつワインに、主人公たちは自らを重ね合わせつつ、人生を振り返るといった設定である。

 ワインと人生、そして人生折り返し点を過ぎてからの夢の実現……。

 映画に登場するワイナリーの一つ、「ダリオッシュ」のオーナー、ダリオッシュ・ハレディ氏は、そんな物語を体現している人物として知られる。完成披露試写会に合わせて、氏の右腕として活躍する同ワイナリーのダニエル・デ・ポロ代表が初来日したので、食卓を囲みながらじっくり話を伺った。

 では、ダリオッシュ・ストーリーのはじまり、はじまり――。

ワインへの尽きない情熱

  • 幼い時からの夢を実現、ワイナリーのオーナーになったダリオッシュ・ハレディ氏

 ダリオッシュ・ハレディ氏は、イラン西部、ロレスターン州のホッラマーバードの生まれ。家族は軍属で、イラン国内の主要都市を点々とする幼少時代を送っていた。

 父親は趣味でワイン造りを(たしな)み、特に、古くからのワイン産地シラーズに住んでいた時は、自宅地下のセラーには、ワイン樽が山ほど積まれていた。当時、氏は6歳。セラーに行って、樽から浸み出るワインをこっそり“テイスティング”するのが、どんな遊びよりも楽しかったという。

  • ペルシャ様式の宮殿を模したナパの「ダリオッシュ」ゲストセンター

 テヘランの大学で土木工学を学び、1968年に卒業。しばらく国内で仕事をしていたが、76年、自由な新天地を求めて南カリフォルニアに移住。英語をまったく話せなかった氏だが、義理の兄弟とともに、ロサンゼルスを拠点にスーパーマーケットの経営に乗り出し、ヒスパニックなど非白人向けの品揃えで人気店に。カリフォルニア全体に事業を拡大し、成功を遂げたアメリカン・ドリーマーの一人として、ビジネス誌がこぞって取材する存在になった。

 世界中のワインを飲み歩き、様々なシャトーのオーナーや醸造家たちとのネットワークを広げ、著名なワインコレクターとしても注目された。

 だが、彼の夢はここで終わらない。幼い時から最も切望していたのは、ワイナリーのオーナーになること。渡米から約20年後の1997年、あるナパのワイナリーが閉鎖されると聞き、買い取りを決断、95エーカーのブドウ畑を手に入れ、念願だったワインビジネスに進出したのである。それからプランニングに3年、畑や醸造設備などの整備に3年、そして2004年、ペルシャ様式の宮殿を模した訪問客用の拠点、ゲストセンターを完成させた。

宇宙のすべてがあなたに味方する

  • 野外劇場は、ペルシャ文化伝統を伝える場に

 まさに、人生の折り返し点を過ぎてからの夢の実現である。

 センターの入り口で一際目立つ円柱群は、古代ペルシャの遺跡、ペルセポリスで用いられたのと同じ石材を現地で調達・細工したものだそうだ。円形の野外劇場などもあり、氏は「洗練されたペルシャの文化伝統を伝える場にしたい」としている。

 ちなみに、「ダリオッシュ」で造られるワインはといえば、「ラフィット」や「オー・ブリヨン」などボルドースタイルを好む氏ゆえ、特に果実味濃厚なカベルネソーヴィニヨンがお得意のようだ。

  • 「ダリオッシュ」を代表するワイン、「シグネチャー カベルネソーヴィニヨン」

 普段あまりお目にかからないワインかもしれないが、プランタン銀座のワイン売り場では、映画公開を記念して10月20日まで開催中の「カリフォルニアワインフェア」の中で取り扱っているので、興味のある方は試してみてはいかがだろうか。

 氏は、在米イラン人向けのコミュニティー誌「ペルシアン・ミラー」のインタビューで、こんな風にも語っている。

 「夢を実現できたのは、打算でなく、情熱があったからだ。人生に迷いを感じている人に、私は、パウロ・コエーリョ作『アルケミスト(錬金術師)』にある言葉を贈りたい。 いわく、何かを強く望めば、宇宙のすべてがあなたに味方して実現に向けて助けてくれるのだ、と」

 夢を語ることは容易い。だが、その夢の実現に対して、どのくらい強く情熱を抱いているのか。それが重要なのだろう。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

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2009.10.09

「ダリオッシュ」のダニエル・デ・ポロ代表を迎えて

 台風18号の影響が心配されましたけれど、午後には勢力も弱まり、

 

09100801.jpgカリフォルニアのワイナリー「ダリオッシュ」のダン代表がプランタン銀座に夕刻に来店、先日お知らせしたセミナーを無事終えることができました。

 

 

 

 

 

 

 

 参加者の皆さんと、2種類のワインを試飲。

2006キャラバン カベルネソーヴィニヨン
2006ダリオッシュ シグネチャー カベルネソーヴィニヨン

 

「キャラヴァン」は、カベルネソーヴィニヨン76%、メルロ15%、カベルネフラン5%、プティヴェルド2%、マルベック2%のブレンド。「ダリオッシュ」は、カベルネソーヴィニヨン85%、メルロ9%、カベルネフラン3%、マルベック3%のブレンド。

 

「2つを比べると、キャラヴァンは果実味が前面に出た丸みのあるエレガントなワイン。ある意味では、ナパの典型的なカベルネの特徴が出ています。ダリオッシュは、ボルドーとカリフォルニアの架け橋にという思いを込めて造ったワイン。長い余韻を十二分に楽しんでほしい」と言います。

 

お買い上げのボトルにサインをプレゼントするなど、サービス精神がとっても旺盛なダン代表。

 

米国の大手百貨店、ノードストロームで働いた経験を持つそうで、どこに旅行しても、デパートは必ずのぞくそう。9月は、パリのプランタンで奥様とショッピングを楽しまれたとか。

 

ちなみに、オーナーのダリオッシュ氏がワイナリーを築くまでのストーリーを、「ヨミウリオンライン」の10月9日付け「GINZA通信」にまとめていますので、ご興味のある方は、ぜひチェックしてみてください。

 

最後に、売場スタッフと記念撮影・・・

 

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 いつも笑顔が素敵なダン代表でした。

 

さて、先立つ10月6日、マンダリンオリエンタル東京のフレンチダイニング「シグネチャー」で、ダンさんを囲んで「ダリオッシュ」のワインを楽しみました。


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ワインリストは次の通り。
ポー・ラ・ヴィ スパークリングワイン グラン・キュヴェ
2008ダリオッシュ シグネチャー ヴィオニエ
2007ダリオッシュ シグネチャー シャルドネ
2006ダリオッシュ シグネチャー メルロ
2006ダリオッシュ シグネチャー カベルネソーヴィニヨン

 

まずは、アミューズ。


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09100804.jpg「ダリオッシュ」はスパークリングワインを造っていません。

なので、最初のワインは、マボロシ・ワイナリーの私市(さきいち)友宏さんの奥様、レベッカさんが醸造家を務める、サイモン・レヴィ・セラーズのもの(インポーターさんが同じでした)。

シャルドネ100%使用のフレッシュでふくよかなタイプです。アールヌーボー調のエチケットがおしゃれですね。


マボロシ・ワインは、大阪生まれの私市さんが、「ラ・ターシュ」にあこがれて、米国人の妻とフランスに飛び出し、アルマン・ルソーで修行、その後、カリフォルニア・ソノマに渡って1999年に初リリースしたワインです。

渡仏した時には、周囲から「そんな夢まぼろしみたいなことを言って」と猛反対されたそう。日本的な響きが気に入って、そのままワイナリーの名前にいただいちゃったというわけです。

 

 

ヴィオニエを合わせたのは、

 

09100807.jpgウニのブラマンジェ カリフラワーのムースとサラダ、サフランの香るニンニクバジルソース添え

白い花の香りがとっても華やか。

完熟した白桃のとろける甘みとレモンのような酸味のバランスがいい感じでした。

 

 

シャルドネを合わせたのは、

 

09100808.jpgヒラメのヘーゼルナッツ・グラチネ ワイルドマッシュルームと秋トリュフを添えて 

果実の凝縮感とミネラルの豊かさは、さすが骨太のカリフォルニア・シャルドネ(と私は思っています)。香ばしいヘーゼルナッツの余韻が、料理とうまく融合していました。


 

 

メルロを合わせたのは、

 

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シャラン産鴨胸肉のローストと山栗のリゾット ジュニパーベリーの赤ワインソース


09100810.jpgいやいや、驚くばかりの強烈なメルロでした。スパイシーで濃厚で。メルロ独特の香りがあるのですが、タンニンも結構しっかり。

「これ、カベルネですか?」と尋ねていた方も。その気持ち、わかります。カベルネフラン5%ブレンド。

 

 

 

 

 

 

 

 

カベルネを合わせたのは、

 

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栃木県産牛フィレのロースト ポロねぎとピクルスを合わせた腎臓のタルト マスタード風味のムースリーヌソース

熟したプラムやチョコレート、土っぽさ、シナモンの香り、長い余韻・・。キーワードがいくらでも挙げられそうな複雑な味わいでした。


「ナパとボルドーの架け橋に」と言うボルドー好きオーナーならではの力強いカベルネは、やはり「ダリオッシュ」の真骨頂なのでしょう。ブレンドは先に記したとおりです。アルコール度数約15%。若さ、硬さがあって、あと数年は置いておきたいです。

 

 

さて、お口直し

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デザートは、ローヌ=アルプ地方の銘菓、ヌガー・ド・モンテリマールのムース仕立て リンゴのソルベとカルヴァドスのサバイヨン


09100813.jpg白いメレンゲの中に、ナッツやドライフルーツが宝石のように散りばめられたヌガーは、絶品でした!

 

 

09100814.jpg甘口のデザートワインは、

2006ダリオッシュ シャーパー レイトハーベスト。

セミヨン64%、ソービニヨンブラン36%。

 美しい黄金色で、軽い苦味がアクセントになり、ナッツ系デザートと相性がいいですね。
 

 

 

 

 

 

 

かわいらしいプティフールです。

 

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シェフのオリヴィエ・ロドリゲスさんと一緒に。右端は映画「サイドウェイズ」のチェリン・グラック監督、左端はマンダリンオリエンタル東京のデニス・リクター副総支配人。楽しい仲間で食卓を囲むと、本当に時間が経つのを忘れてしまいます。

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2009.10.02

カリフォルニア・ウルトラプレミアムワインのセミナーを8日に開催!

第77回オスカー受賞などで注目された米映画「Sideways(日本語タイトル「サイドウェイ)」。

鈴木京香、菊池凛子、小日向文世(こひなた・ふみよ)、生瀬勝久ら日本人キャストを迎えてリメイクされた、日本版「サイドウェイズ」(20世紀フォックス映画配給)が、10月31日から、いよいよ全国ロードショーされます。

 

 

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ⓒ2009 Twentieth Century Fox and Fuji Televesion 

 

主な舞台は米カリフォルニア州ナパ・ヴァレー(Napa Valley)。

そう、カリフォルニアワインの聖地なのです。


劇中には、ナパの美しい景観とともに、フロッグス・リープ、ニュートン、ベリンジャーなど、バラエティに富む11のワイナリーが登場します。
色、味、香りなど千差万別なキャラクターをもつワインをテイスティングしながら、主人公たちは自らを重ね合わせ人生を振り返る・・・ちょっと胸キュン、コメディタッチの大人の青春ドラマです。

 

映画の公開を記念して、プランタン銀座でも、10月1日から20日まで、本館地下2階のワイン売場で「カリフォルニアワイン・フェア」を開催中。

 

09100102.jpg予告編のビデオ上映をはじめ、映画に登場するワイナリーからのワインを集積。

映画のノベルティグッズなどのプレゼントもご用意しています。

 

今回お知らせするのは、

09100106.jpg「ナパのウルトラプレミアムワイン」として話題になっているワイナリー「ダリオッシュ」の特別試飲セミナー(無料)。「ダリオッシュ」のワインは、映画のストーリーのカギを握るワインとして描かれているんですよ。

セミナーでは、映画の完成披露プレミアに合わせて来日するダニエル・デ・ポロ代表が自ら、プランタン銀座のワイン売場でお話くださることになりました。

 

10月8日(木)午後5時45分から約30分を予定しています。

試飲するのは、
 2006Caravan Cabernet Sauvignon Napa Valley
 2006Darioush Signature Cabernet Sauvignon Napa Valley
 
 

09100104.jpgワイナリーのオーナーのダリオッシュ氏は、1970年代、イランの政情不安がささやかれる中、南カリフォルニアに移住。故郷のシーラーズは、昔からのワイン産地で、イスラム革命までは良質のワインを造っていました。

氏は、幼いころから、趣味でワイン造りをしていた父親のそばでこっそり"テイスティング"をしていたそうな。

 

米国に移住後は、義理の兄弟とロサンゼルスを拠点にスーパーマーケットを経営、カリフォルニア全体に事業を拡大し、成功を遂げたアメリカン・ドリーマーの一人として知られています。
1997年、念願だったワインビジネスに進出、土壌や気候を徹底的に調査したうえで、ナパなどの95エーカーのブドウ畑を手に入れました。ワインコレクターとしても著名で、無類のボルドー好き。

 

09100105.jpg今回来日するダン代表は、ダリオッシュ氏の右腕といわれている方です。

 

 

 

 

2004年、ナパに完成した新しいゲストセンターは、ペルシャ様式で美しい宮殿のよう。映画でもかなり目立っています。

 

 

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セラーもゴージャス、様々なテイスティングルームがあって、とても楽しいんです。

 

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なかなか目にする機会のないカリフォルニアのウルトラプレミアムワインのセミナー、

ぜひご参加ください。

セミナーのご予約は、ワイン売場(03-3567-7885)へ。

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2009.10.02

旨くてからだにやさしい、江戸スローフード

鬼平も思わず「うめえな」

  • 江戸スローフードのセレクトショップ、銀座・三河屋

 「ま、飯を食べながらはなそう。さ、早く……早く(とっ)つぁん、飯にしてくれ」

 舌が焼けるような根深汁に、大根の漬物。小鉢の生卵へ醤油をたらしたのを熱い飯へかけて、「む。うめえな……」(池波正太郎「鬼平犯科帳」の「墨つぼの孫八」より)

 主人公の火付盗賊改方、鬼の長谷川平蔵が思わず「うめえな」と漏らす江戸の味。食いしん坊の私は、捕物帳の筋立て以上に、酒の肴や飯の菜の登場する場面が気になって仕方がない。鬼平の料理は、今も変わらぬ庶民の味なのだ。

  • 糸屋として発展した明治時代、店舗は中央通りに面した現在の資生堂パーラーの場所にあった

 そんな江戸の季節感や食風情を伝えてくれる店が、東京・銀座8丁目、金春通りにある。ご飯をおいしく食するため、からだにやさしい伝統の味にこだわる「銀座・三河屋」。江戸スローフードのセレクトショップである。

 創業は江戸・元禄時代にさかのぼる。徳川家康公に率いられ三河の国からやって来た一代目は、江戸の上がり汐留で酒商を営んだものの、大酒飲みの当主で傾き、油屋に転業。慶応年間には銀座に移って糸商に専念、成功を収めた。繭形の屋号にその名残をとどめる。

 太平洋戦争後は和装小物を中心に婦人服地などを扱って商売を拡大したが、近年ジリ貧状態が続いていた。そうした中、2003年、事業の大転換を決断したのが、現社長の神谷修さんだ。

「江戸料理百選」を再現

  • 「シンプルな江戸食を媒介に、家族で食卓を囲む楽しさを伝えたい」と、神谷修社長の夢はふくらむ

 東京の花街、柳橋育ち。幼いころから、夏祭りの時期になると、近くの相撲部屋の関取衆や芸者のお姉さん方と一緒に盆踊りを楽しむといった粋な生活を送っていた。

 大学卒業後は資生堂に入社し、主に販売促進部門を歩んだ。商い優先で、学校の運動会にも父兄参観日にも一度も顔を出してくれなかった両親をみて、「絶対にサラリーマンになろう」と、あえて家業を継がなかった。

  • 神谷社長の運命を決めた書物「江戸料理百選」

 ところが、定年を1年後に控えた59歳のとき、「400年続いたのれんを自分の代で途絶えさせてはなるまい」との思いから家業を見直し、業態転換という大英断を下したのだ。まずは新規事業として何を始めればいいのか、半年ほど模索した。

 団塊世代の大量定年、ファストフードの広がりへの危機意識、ご飯食の見直し、江戸開府400年……。キーワードが次々と浮かんだ。そんな時、「江戸料理百選」という本に出合い、ひらめいた。250年も食べ続けている江戸料理は、日本人の舌に一番無理なく合うのではないか、と。

  • 江戸料理の様々な素材が並ぶ店内

 食ビジネスの経験はなかったが、「サラリーマン時代にセミナーで聞いた鈴木敏文イトーヨーカドー会長の、『経験はある時には邪魔になる』という言葉に背中を押されました。よし、挑戦してみるかってね」。

 もともと食いしん坊だったことも幸いした。「一日中働いていた親でしたが、毎月第3月曜日はお休み。浅草や築地に鴨鍋やら鰻やらおいしいものを食べに出かけた。そんな幼少時の経験が今どこかでプラスに働いている気がします。この点は親に感謝ですね」

 こうと決めたら行動は早い。すぐに本の出版元に電話して、著者の福田浩さんを紹介してもらい、会いに行った。

 福田さんは、東京・大塚の「なべ家」の主人。古い料理書の研究や江戸料理の再現者としても知られる。神谷さんは自分の思いの丈をぶつけ、新生三河屋の料理監修を依頼した。

粋な遊び心で食を愉しむ

  • 復活した日本独特の調味料「煎酒」

 第一弾が、文化文政期に姿を消した煎酒(いりざけ)。日本酒に梅干しと花ガツオを入れてことこと煮詰めた日本独特の調味料だ。一般的な醤油より塩分は少なめ、和歌山の南高梅の梅酢を用いてまろやかに仕上げた。

  • 昔ながらの酸っぱいタクアンにはファンが多い

 刺身や蒸し魚、冷奴、サラダ、和えものなど、どんな素材とも相性がいい「台所のオールラウンドプレーヤー」だが、「卵かけご飯に刻みのりとわさびをのせて、煎酒をさっとかける。単純だけど、これが一番うまい」という。

 江戸食は遊び心もいっぱいだ。「江戸料理百選」の一つに、「鯛の香物酢(こうのものずし)」といって、酢でしめた鯛と細かく刻んだタクアンを混ぜて食べる料理があるが、「よくこんな組み合わせを考えますよね。粋に通じた江戸の遊び心が、食の世界でも十分に発揮されている例ではないでしょうか」。ちなみに、昔ながらの酸っぱいタクアンの神谷さんおすすめの食べ方は、焼き飯に入れる、だった。

  • 江戸料理の「なべ家」で人気の甘味、「玲瓏とうふ」

 うまい昆布がとれたと聞けば北へ走り、独特の風味の味噌があると聞けば西に飛ぶ行動派。フットワーク軽く、全国の生産者を訪ねて回るが、手間暇かけた産物の大量流通には限界がある。「だから、そこそこビジネスなんですよ」とも。

 神谷さんの話を聞いて、大塚の「なべ屋」で江戸の味を試してみたくなった。秋サバや落ちアユなど初秋の味覚を堪能したあと、最後の甘味として出てきたのが、「江戸料理百選」にも載っている「玲瓏(こうり)とうふ」。寒天の中に豆腐を封じ込めて固め、黒蜜をかけて食すなかなかおしゃれな一品。初めてなのに、なんだかとても懐かしい味がして、気分はすっかり江戸時代にタイムスリップ。

 「鬼平犯科帳」の平蔵は、無類の酒好きでご飯好き、そして白玉に砂糖をかけて肴にするくらい大の甘党だったとか。平蔵もこの一品、気に入っていたのだろうか。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

 ◆銀座・三河屋

 http://www.ginza-mikawaya.jp/

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)