2009.09.12

時空を超えた大自然の恵み

「太陽神の聖獣」アルパカのシチュー

  • アルパカは、アンデスの人々の暮らしの中に溶け込んでいる(クスコで)

 前回の小欄で、東京・新橋のペルー料理専門店「荒井商店」をご紹介した。そこのマダムが、ペルー旅行に出掛けるにあたってアドバイスしてくれた2つ目が「日本では手に入らない食材に挑戦してね。たとえば、アルパカとか……」だった。

  • 空中都市マチュピチュは、海抜2400mに浮かび上がる

 アルパカといえば、最近テレビCMでも、「ミラバケッソ」とかいう不思議な“呪文”とともに登場する、つぶらな瞳のおとなしそうな人気の動物。ラクダ科に属する。

 現地では「太陽神の聖獣」とも呼ばれ、荷物運びに、柔らかな毛から作る防寒衣料に、また、良質なタンパク源を供給してくれる食糧として、インカの人々にとっていまも欠かせない家畜だという。

 マチュピチュの入り口にあるレストランで出合ったのは、このアルパカをジャガイモやニンジン、ハーブなどと一緒に煮込んだシチューである。アルパカ肉はクセがあると聞いていたが、シチューになると食べやすい。後ほど紹介するが、ペルーでよく飲まれているブドウの蒸留酒、ピスコを加えてマイルドな風味に仕上げているそうだ。

キリストが食した?“ネズミ”の丸焼き

  • クスコ中心のアルマス広場。左手がカテドラル

 次に挑戦したのは、ちょっとだけ勇気がいった。現地ガイドのマリソルさんから教えてもらった「クイ」である。「私たちにとっては、お祭りの時にしか食べられない高価で貴重なもの」という。

 日本語では、テンジクネズミ!! 手元のガイドブックを見たら、歯をむき出したネズミ君が丸焼きになってこちらをにらんでいるではないか。

  • カテドラルにある壁画「最後の晩餐」。皿の上に注目を

 断っておくが、私はゲテモノ食いが趣味なわけではない。そりゃあ、アフリカやアジアの取材で、日本ではあまりお目にかかれないものを食べてきた経験はある。だが、食用とはいえ、「ネズミ」の丸焼きとなると、一瞬たじろぐ。

 決心したのは、インカ帝国の首都だったクスコの街の中心、アルマス広場に面したカテドラルの壁画を見てからだ。この堂内には、メスティソ(混血)画家のマルコス・サパタ作の「最後の晩餐」の絵がある。

  • こんがり丸焼きのクイ(クスコで)

 ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院にある、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた「最後の晩餐」では、皿の上にあるのは魚料理といわれている。だが、クスコのカテドラルでは、皿の上に、丸焼きのネズミらしきものが載っている。これが「クイ」らしい。

 ペルー流解釈によると、「最後の晩餐」でキリストが召し上がりたいと思われたほど美味な食材なのだから、これは挑戦するに値するだろう。

 マリソルさんに予約してもらった地元レストランで、食べてみた。内臓を抜いたお腹の部分にはハーブ風味の穀物が詰められ、こんがりと焼き上がっていた。耳にあたる部分はニンジンで愛らしく飾ってある。

 店の人が上手に切り分けてくれたが、皮は厚くて硬く、食べられる肉の部分が意外に少ない。コクがあって、鴨のコンフィのような味わいがあり、なかなかおいしかった。

 ゆでジャガイモと、ロコトという肉厚のトウガラシに挽肉やタマネギを詰めて揚げたものが、同じ皿に添えられていた。

古代ナスカ人のスイーツ

  • (上左)ルクマのアイスクリーム、(上右)とってもジューシーなトゥナ。皿の右手、粒粒がある赤と緑の実、(下左)ペルー人が大好きなインカ・コーラ、(下右)甘いけれどアルコール度数が高いピスコ・サワー

 ペルーでは、果物の種類も豊富だ。グラナディア(パッションフルーツ)、チリモヤ、ブランキージョ。聞いたことのない果実がたくさんあった。

 その中で、「荒井商店」のマダムのイチオシだったルクマのアイスクリームを、ナスカの砂絵を見に行く途中で見つけた。

 ルクマは、黄色がかった緑色のミカンサイズの果物で、中身は橙色のカキのような感じ。古代ナスカ人も好んだらしく、当時の土器などにはルクマを食している場面が刻まれている。現地の人にいわせると、「水気が少なく、生だとまずい」そうだが、アイスクリームはクリのように濃厚な風味があった。ほかに、スープやケーキにも入れて食べるらしい。

  • マチュピチュの最高地点にある日時計で、太陽神のエネルギーをもらう

 その他の私のおすすめは、トゥナというウチワサボテンの実。みずみずしく、生のままスプーンで中身をすくうと、じゅわっと甘酸っぱいジュースが口の中に広がる。

 飲み物で忘れられない味は、インカ・コーラとピスコ・サワーだ。

 インカ・コーラは、首都リマ市建国400年を記念して1935年に発売された黄色いコーラ。米国では、ゴールデン・コーラと呼ばれているようだ。とっても甘い。

 ペルーで国内線の飛行機に乗ると、現地人らしき乗客の多くが注文していたから、人気なのだろう。当初はレモングラスの花粉で着色したらしい。

  • ナスカの地上絵は宇宙人のシグナル説もある。これはオウムの絵らしい

 ピスコ・サワーも、ペルーのいくつかのバーで口にした。ピスコはブドウの蒸留酒で、アルパカ・シチューの隠し味にも使われていたお酒。これに卵白とライムジュースを加えてシェイクしたカクテル。ガムシロップで甘みが付いているので飲みやすいが、アルコール度数は43度と高め。

 また、ペルーの南部、イカの周辺にはブドウ畑が広がっており、気軽に楽しめるタイプのワインが豊富にあった(ワインについては、プランタン銀座のホームページ内にある私のワインブログhttp://www.printemps-ginza.co.jp/wine/をご参照ください。近日中に南米ワインの情報をアップします)。

 この夏は、マチュピチュの神殿で、また、ナスカの上空で、時空を超えた大自然のエネルギーをもらったような気がする。

 さあ、秋からの仕事も頑張ろう。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)