2009.05.15

「仏像ガール」が指南 ~仏像は「学ぶ」前に「感じる」

三越屋上のお地蔵さまにホッ!

  • 銀座三越屋上のお地蔵さまは癒される

 誰にでもホッと一息つける日常の安らぎスポットというのがあると思うが、私にとっては、東京・銀座4丁目の銀座三越屋上がその一つ。ここで出会えるお地蔵さまの顔を見ていると、なんとも癒され、自然に頬がゆるんでくるのです。

 正式には、銀座出世地蔵尊。三井家の守護神、三囲神社の分霊とともに祀られている。明治の初め、築地・三十間堀川の開削中、地中から地蔵菩薩の石像が発掘され、安置された4丁目7番地界隈は縁日などでたいそうにぎわったという。

 震災や戦火など数々の受難を乗り越え、デパート屋上に安住の地を見つけたのは1968年。近年外国人観光客も増え、英語の説明板には、「Ginza Guardian Deity(銀座の守り神)」とある。緑の植え込みの傍らに、ひっそりたたずむお連れの仏さまの表情もとっても柔らかく、小さなことにイライラしてしまった自分をしばし反省……です。

  • (左)緑の植え込みの中に立つ/(右上)お地蔵さまの隣には三囲神社の分霊/(右下)お連れの仏たち

 今年は全国的に秘仏の開扉が相次いでいる。長野の善光寺の前立本尊には、連休期間中多くの参拝者が訪れた。また、興福寺創建1300年を記念して、東京国立博物館平成館で開催中の「国宝阿修羅展」も、1日1万人以上の人が詰め掛けて大人気。売店で販売された本物の阿修羅像を模したフィギュアは、発売当日に1万5千体が完売したというから驚きだ。

 そんな折、「仏像ガール」というユニークな肩書きをもつ女性にお会いした。「最近なんとなく仏像が気になっている」という声を受けて、プランタン銀座のカルチャーセンター「エコールプランタン」で、仏像の楽しみ方1日レクチャーをお願いしたのである。

 大学で仏教美術を専攻、「仏像が大好きで、その魅力をもっと皆に知ってほしい」との一心で仏像に人生を捧げる「仏像ガール」さんは、本名・廣瀬郁実さん、29歳。

 中学3年の春、父親をがんで亡くしたことが転機になった。「お父さんはどこに行ってしまったの?」との思いから、死後の世界を求めてお寺巡りを始めた。横浜育ちなので、まずはご近所の鎌倉から。小遣いを貯めて、高校2年のとき京都へ出掛けた。

三十三間堂で涙した日

  • 笑顔がステキな仏像ガールさん

 三十三間堂を初めて訪れた日のことは忘れられない。「朝早く誰もいないお堂で、ぽろぽろ涙がこぼれてきた。日本人はなんてすごいことをしてくれたんだろう、こんな素晴らしい光景を見せてくれてありがとうって、ただただ感動でした」

 そんな仏像ガールさんのレクチャーに集まったのは、比較的若い女性が多かった。

 おとな世代には仏閣巡りのベテランもいらっしゃるだろう。かく言う私も、祖母の影響で、小学生のときから京都・奈良の仏像巡りに同行させられ、岡部伊都子さんの仏像本を愛読。自由研究に「仏像との出会い」などという渋いテーマを選ぶ不思議な子どもだった。今回は、若い女性たちに広まる昨今の仏像ブームを通して、改めて仏像と素直に向き合ってみたくなった。

 「仏像のイメージって何?」

  • 仏像ガールさんの仏像を感じる本

 仏像ガールさんがそう問いかけると、参加者から様々な答えが返ってき。「ミーハー的かもしれないけれど、SMAPの香取慎吾君みたいな如来顔が好み。軽い気持ちでカッコいい仏像に出会いたい」

 「よく博物館に出掛ける。崇高で、見ていてホッとする」

 「5年前、いろいろ考えることがあって京都奈良へ一人旅。広隆寺の弥勒菩薩を見たら、涙が止まらなくなった。以来、一年に一度は弥勒さまの前に座る。対人間では得られない優しさに包まれて、迷いをふっきることができる」

 「伝統の街並みを旅するのが好き。薬師寺の日光月光菩薩には、崇高さだけでなく、後ろ姿になまめかしさを発見した」

 それぞれに、とても熱いのだ。

大切なのは出会うこと

  • 有楽町駅構内に鎮座する有楽大黒

 仏像ガールさんは言う。「知識がないからわからない、軽々しく好きといってはいけない……。そんなお便りをたくさんいただきますが、『全然詳しくないけれどホッとします」でいいんです。大切なのは、会うこと、感じること。お勉強は後回しにしましょう」

 レクチャーでは、12枚の仏像のスライドを見た。まずは、深く考えず、最初に感じたことをメモする。どっしり落ち着いた大仏から、スリムな薬師如来、喝を入れられている気分になった四天王、愛らしい子どもの弥勒菩薩まで。私のメモには、「不細工」「近づきたくない」などのマイナスイメージの言葉もいくつか。

 「それでいいんです。ありがたいものだから、気持ち悪いとか怖いとか、失礼な表現をしてはいけないって思う必要はないんです」と、仏像ガールさん。そう言われると、頭でっかちな知識から解放されて気持ちが楽になりました。

  • (左)有楽町駅前の宝くじ売場には夢を求める人が今日も来る/(右)ゆるキャラな有楽町大黒天は親しみやすい

 12枚の中で、「美しい」「気高い」「思慮深い」「あこがれ」と、ほめ言葉を羅列してしまったのは、滋賀湖北・向源寺の十一面観音菩薩。数奇な運命に翻弄された仏らしい。この夏は、ぜひ会いに行こう。

 さて、仏像ガールさんから、銀座の仏像スポットをもう一つ教えてもらった。JR有楽町駅銀座口の改札を入った駅構内に鎮座する「有楽大黒」である。昭和の初め、駅前の亀八寿司主人が秘蔵していたが、戦争末期に空襲を避けるため駅長に寄贈された。「ご通行の皆様の安全、幸福を守る」とあり、乗降客が拝む姿が見受けられる。

 有楽町駅中央口前の宝くじ売場には、別の「有楽町大黒天」もいらっしゃる。こちらの大黒さまは、二頭身で流行のゆるキャラ。プラスチックの覆いに手が入るくらいの丸い穴が開いており、頭をなでられる。高額当選者で有名な場所だけに、ご利益に預かれればと、私も撮影しながら3回ほどなでた。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

 ◆「仏像ガール」のホームページ

 http://www.buddha-girl.com/

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永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)