2009年5月アーカイブ

2009.05.29

都心であることを忘れさせる野の花の一群れ

すべて異なる葉の形、色の濃淡が魅力

  • 野の花の寄せ植え。何種類もの花が互いに引き立て合う

 「花は野にあるように」とは、茶匠・千利休が説いた言葉である。

 前回(5月22日掲載)に続いて、東京・銀座にある野の花専門店「野の花 司」の話題をお届けする。

 世の中にある多くの花屋さんは、オランダを中心とした切花の大市場で取り引きされる洋花・栽培の花を扱っている。「ちょうど野菜と同じ。温室栽培で季節感を消滅させ、店頭で扱いやすいようにと、いまは形状に手を加えることもできる。でも、まっすぐに造られた花を生けても、まるで棒を挿したようでしっくりしない。野の花の自然の造形美にこだわる花屋が都会に一軒くらいあってもいいのでは」――。女性オーナーのそんな思いから始まったのが、この店だった。

  • コナラや光岳キリンソウなどを組み合わせたコケ玉

 夏が近づくと、自然界には緑があふれる。よく見ると、丸かったりギザギザだったり、葉の形も様々だし、緑の色の濃淡もそれぞれに違っていて、興味は尽きない。

 読者のいくみさんからコメント欄に質問をいただいた。前回の写真で、同店スタッフの関原万里子さんが手にしていたものについての問い合わせである。

  • 草もの盆栽の緑は目にやさしい

 「銀座に咲いた野の花、かわいらしいですね。忙しい忙しいと、ついつい早足で歩いてしまいがちだけど、ゆっくりと野の花を探して近所を歩いてみようと思いました。ところで、写真でスタッフの関原さんが手にしている野の花がとっても気になるのですが。こんもり丸い形から察するにコケ玉ですか?」

 いくみさんのご指摘の通り、コケ玉です。コケ玉は、最近でこそ、観葉植物から木までいろいろなタイプが店頭に並んでいるが、同店では10年以上も前から扱っているそうだ。水分を好むコケのためにも、原則、湿地を好む植物を組み合わせてコケ玉に仕立てているという。

器によっても違う表情

  • 石仏に添えられた白竜

 写真は、コナラ、セキショウ、光岳キリンソウの組み合わせ。光岳キリンソウは、黄色の星型のかわいらしい花が咲く。ちょっと欠けてしまったけれど捨てがたいといったお気に入りの食器皿に載せたら、素敵ではありませんか?

 店の裏手に回ると、草もの盆栽の緑が目にやさしい。緑の葉をたぐり寄せると、根元に小さな愛らしい花が隠れるように咲いていた。木の盆栽の添え物的存在だった草もの盆栽が、こんなにいきいきとして、自然の風情を感じさせてくれるとは、新鮮だった。

  • (右)シャクヤクには銅製の花留め、(左)ミヤコワスレの剣山は炭

 おだやかなお顔の石仏に添えられた白竜の緑もさわやか。味気ないマンションのベランダを趣のある空間に変えてくれそうだ。

 野の花は、器によっても、まったく異なる表情を見せてくれる。同店の2階の展示スペースで、そのことを実感した。

 石の皿やどんぶり鉢、流木や廃材、編みかごなど花を盛る器をはじめ、剣山や花留めなどがずらり。既成のものにこだわらないユニークな発想であふれていた。

  • 器によっても表情が変わる野の花たち

 華麗な白いシャクヤク一輪が生けられていたのは、銅製の網型の花留め。可憐な紫色のミヤコワスレは、炭を剣山代わりに使っている。炭には水を浄化する作用もあり、水が腐りやすい夏の時期にはぴったりなのだそうだ。使い込まれた風の銅の赤も、炭の漆黒も、緑を引き立たせ、涼感を演出する。

  • 銀座の屋上にグリーンガーデンが広がる

 展示スペースの傍らには、野の花を眺めながらゆったりお茶を飲む場所がある。銀座空也の最中とお抹茶、黒豆抹茶みつ豆といった甘みから、辛党向きには、アシタバやフキミソの佃煮と日本酒のセットなども。

 3階の教室スペースをスキップして、狭い階段を上って屋上に出ると、ここは野原? 雑木林? 小さな水辺?

 ヤマボウシの木を中心にグリーンガーデンが広がっていた。向かいはデパートの銀座松屋という都会のど真ん中の立地をしばし忘れてしまいそう……。

 マンション住まいのベランダに、小さな野草の空間をつくってみたくなった。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

 ◆野の花 司

 http://www.nonohana-tsukasa.com/home.html

この記事のURL | Trackback(0) | Comment(0)

2009.05.28

1995ブルゴーニュ赤の飲み比べ

1995年のブルゴーニュ赤を中心にいただくという、知人が主催するワイン会に参加しました。

場所は、銀座1丁目のフレンチ「ル・シャボテ」です。

 

泡を含めると、9本のラインナップ!

 

 

09051300.JPG

 

 1.NV アンリ・ビリオ グランクリュ・アンボネィ キュヴェ・トラディション
 2.1995 サントネー クロ・ド・マルト(ルイ・ジャド)
 3.1995 ポマール キュヴェ・ダム・ド・ラ・シャリテ (オスピス・ド・ボーヌ)
 4.1995 ヴォルネイ クロ・デ・デュック (マルキ・ダンジェルヴィーユ)
 5.1995 ニュイ・サン・ジョルジュ プルミエクリュ レ・サン・ジョルジュ 

   (ドミニク・ローラン)
 6.1995 シャルム・シャンベルタン (J.C.ファゴ)
 7.1995 グラン・エシェゾー (グロ・フレールエスール)
 8.1995 シャンボール・ミュジニー プルミエクリュ

   (コント・ジョルジュ・ド・ボギュエ)
 9.1995 ミュジニー (ジョセフ・ドルーアン)

 

どれもある意味では、ブルゴーニュの王道をいくワイン。
こうやって何種類も飲み比べると、ピノノワールの限りない可能性を再認識!です。

 

私が特に気に入ったのは、2と7。

 

2のサントネーは、ブルゴーニュ有数のネゴシアン、ルイ・ジャドの7ヘクタールのモノポール(独占畑)「クロ・ド・マルト」で造られます。
繊細な赤いベリーの果実味、タンニンは中程度でとっても上品。王道ブルゴーニュの最初を飾るにふさわしいワインでした。主催者によると、価格も5千円台。見つけたら、迷わず買いたいです。
 
7のグラン・エシェゾー、グラスの中で香りが華やかに広がり、カシスやラズベリーの凝縮された豊かな味わい、森の土のニュアンスも感じさせます。
ジャン・グロの次男、ベルナール・グロが造るこのワイン、兄ミッシェル・グロのエレガントさ重視に比べると、発酵温度をあまり上げずに、より力強く仕上げているといわれています。
私はどちらも好きですが・・・。
 

 

さて、合わせた料理は・・・

 

①北海道ホタテのエスカベッシュ

②サクラマスの自家製スモークとフォアグラのジュレ

③和歌山産オコゼのポテト巻き、メヒカリ添え

④シャラン産カモの胸肉ロースト。


量もたっぷり。

ごちそうさまでした!!    
 

09051301.JPG 09051302.JPG 09051303.JPG 09051304.JPG 

 

 

 

 

 

 

     

この記事のURL | Trackback(0) | Comment(0)

2009.05.25

日本のワイン再発見

このところ、日本のワインがとてもおいしくなったという話を聞きます。
そこで、私が主催するワイン講座でも試してみました。白3種類、赤1種類です。

 1.シャトーマルス 甲州穂坂収穫2007
    品種 甲州
   本坊酒造・山梨マルスワイナリー(山梨県笛吹市)
 2.シャトーマルス 甲州白根シュール・リー2007   
   品種 甲州
   本坊酒造・山梨マルスワイナリー
 3.ミュゼ・ドゥ・ヴァン 桔梗ヶ原マスカットベリーA2006    
   品種 マスカットベリーA
   アルプス (長野県塩尻市)
 4.グレイスケルナー2008 レイトハーヴェスト
   品種 ケルナー
   中央葡萄酒 (山梨県甲州市)

 

これが、どれもなかなか好評でした。

中でも、女性の生徒さんたちに評判がよかったのが、4番目のグレイスケルナーの甘口タイプ、レイトハーベストでした。


 

09052500.JPG

 

レイトハーベストとは、遅摘みのことで、ドイツのアウスレーゼのように過熟したブドウを使った甘口です。
ケルナーは、ドイツで人気の品種で、赤のトロリンガーにリースリングを掛け合わせたもの。栽培地は北海道余市町。暖流の影響、日照時間の多さなど、北海道内でも恵まれた条件を備えた地域です。

まずグラスに注いでまもなく、ふんわりと広がりのある熟れた果実の香りに圧倒されます。味わいは、芳醇な果実味とともにミネラルが凝縮されていて、十分な甘みの中に引き締まった酸味も感じられます。ほんのり上品な貴腐香も・・。
「チーズケーキなどのデザートと合わせてもおいしくいただけそう」と、女性陣の感想は一致しました。

 

 

09052501.JPG 09052502.JPG 09052503.JPG                                                                     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1番目と2番目は、日本を代表する固有品種の甲州種です。栽培の歴史は古く、修行僧行基の時代、今から1300年ほどさかのぼる説もあります。1番目の栽培地は山梨県韮崎市の穂坂地区。フランス産のオーク樽で熟成されており、ふくらみのある味わい。


2番目の栽培地は、同じ山梨県でも甲府盆地の西の白根地区。「シュール・リー」とは、フランスのロワール地方のミュスカデで用いられる製造法で、発酵が終わった後、酵母菌などから成る澱(おり)をすぐには取り除かないで、しばらくの間タンクの中でワインと接触させる方法。清涼感のある酸味に独特のコクが加わります。微発泡がみられました。


3番目の赤は、先日長野に旅行した時に購入しました。マスカット・ベリーAは、明治時代に開発された日本固有の交配種。ジャムのようなやさしい甘みに滑らかなタンニンが合わさり、なかなか複雑な味わいです。和食とも相性のよさそうな赤ワインでした。

 

4種類とも千円台という買いやすさ。白ワインに関しては、プランタン銀座のワイン売場でも取り扱っています。

 

 

この記事のURL | Trackback(0) | Comment(0)

2009.05.22

コンクリート砂漠に咲く野の花

  • 店先はいつも季節の野の花でいっぱい

 東京・銀座のようなコンクリート砂漠の中で過ごしていると、季節のうつろいに鈍感になる一方だ。が、ビルの谷間に、ほんの小さな季節の移り目を発見したときの喜びは、かえって大きい気がする。

 銀座3丁目、銀座松屋のちょうど裏手にある「野の花 司」は、そんな喜びを感じさせてくれる店である。全国各地から「野にあるまま」の状態で届けられる花々が、それぞれに初夏の訪れを語っている。

  • 「野の花のことなら何でもおまかせ」の関原万里子さん

 野の花の専門店としてオープンしたのは、15年ほど前。店の女性オーナーは、新聞社系の出版部門に勤めた後、編集者として独立。「花屋さんの仕事」シリーズ(神無書房)をまとめているうちにその魅力にとりつかれ、「これは自分でやってみるっきゃないな」と思い立ち、店を出すことにしたという。

5月の連休が落ち着いたある日、カメラマンと2人、改めて取材に伺った。

 せつないまでに可憐な美しさ、そして、どこかで出会ったことがあるような懐かしさ……。

 スタッフの関原万里子さんが、一つひとつ丁寧に花の名前を教えてくれた。

 「あれもカワイイ、これも気品がある」と、カメラマンに撮影の注文を出しているうちに、かなりの枚数になってしまい、しかも、どれも皆様にお見せしたい!

 そこで、今回は、「GINZA版・初夏の小さな野の花図鑑」をまとめてみた。

 優しく、気高く、そして、たくましく。

 あなたは、どの花がお好きでしたか?

 次回も、「野の花 司」の話題を続けます。

  • ワスレナグサ
  • ミヤコワスレ
  • ヒメツルソバ

  • ギンロバイ(銀露梅)
  • ヒメツキミソウ
  • ナニワイバラ

  • オオヤマレンゲ
  • マイヅルソウ
  • チョウジソウ

  • ツユクサ
  • ヒメライラック
  • ヒトリシズカ

 ◆野の花 司

 http://www.nonohana-tsukasa.com/home.html

この記事のURL | Trackback(0) | Comment(0)

2009.05.21

イスラエルワインに注目!

プランタン銀座のワイン売場にも、最近評判のイスラエルワインが登場しました!


現在展開中の「ニューワールドワインフェア」で、ゴランハイツ・ワイナリーから「ヤルデン」シリーズの5タイプです。エチケットは、魔法のランプの図柄で、エキゾチックな中東の風景が頭に浮かびました。


イスラエルのワインといっても、あまりピンとこない? ですよね。


女性にとっては、死海の塩を使った化粧品やガミラおばさんの手作り石鹸など、ユニークな美容商品のイメージの方が先行しているかもしれません。


ところが、一口飲んで驚いたのですが、なかなか存在感のあるワインなのです。

 

まずご紹介するのは、

「ヤルデン・マウントヘルモン・レッド2007」。1890円。

 

09052001.JPG

 

品種は、カベルネソーヴィニヨン、メルロー、カベルネフランをブレンドするボルドースタイル。どっしり重みがあり、熟したプラムの凝縮した果実味を感じました。

 

コストパフォーマンス抜群!! です。

 

イスラエルは、キリストの聖地。古代イスラエルでは、4000年以上前からワイン醸造が始まり、旧約聖書にもその記述があります。

ゴランハイツ・ワイナリーは、イスラエルのゴラン高原にある小さな街カツリンに、1983年誕生しました。
ゴラン高原は、比較的涼しく、火山灰土壌で水はけに優れており、醸造用のブドウの生育に適した気候風土といえます。

 

それに加えて、カリフォルニアから最適の設備を導入、また、「オーパスワン」などで活躍している醸造家を招聘して研究を重ねています。

 

ブドウ畑の小さな区画ごとにサーモスタット等を設置し、ブドウの出来具合など綿密な記録を収集するほか、コンピューター制御で温度管理されたステンレスタンク等を使うなど、徹底した管理システムが構築されているのが特徴のようです。

 

 

プランタン銀座で展開中の「ヤルデン」シリーズは、ほかに、

白ワインは、

 

「ヤルデン・マウントヘルモン・ホワイト2007」 1785円。

ソーヴィニヨンブラン、エメラルドリースリング、フレンチコロンバールを使用。フレッシュな味わい。

 

「ヤルデン・シャルドネ2006」 2310円。

熟した洋ナシやパイナップル、新だるからくるバニラ香もほんのり。

 

「ヤルデン・ミュスカ2007」 1995円。

マスカット100%の甘口デザートワイン。焼いたチーズケーキなどと合わせたいです。

 

そして、私のおすすめは、赤ワインですが、

 「ヤルデン・カベルネソーヴィニヨン2005」 3675円。

 

09052002.JPG

熟したブラックベリーとチョコレートの濃厚さ、さらにフレンチオークの豊かなたる香が味わいに複雑なニュアンスを与えています。

 

イスラエル航空のファーストクラスでも愛飲されているとか。最近のトピックスとしては、イタリアのヴェローナで開かれた国際ワインコンクール「ヴィニタリー2009」で、金賞に輝いたお値打ちワインでもあります。

 

 

10年以上の長期保存も可能でしょうが、いま飲んでも、大満足! でした。   

 

この記事のURL | Trackback(0) | Comment(0)

2009.05.18

バスク豚の夕べ その2

東京・南青山の「ランベリー」での、「まぼろしのバスク豚ディナー」の続編です。

 

前菜が終わり、魚、肉と続きます。

 

3皿目は、バスク地方で有名な鱒料理。静岡県産の富士の名水で育てられた富士見鱒を炭火でさっとあぶったものです。50度のオリーブ油でコンフィにしたそうで、皮がパリッとおいしく仕上がっていました。

 

09042706.jpg     09042708.jpg 

 

子タマネギに赤ピーマン、トマトのローストには、スペインを意識して香ばしいアーモンドがのっています。燻製バターが旨みを上手に引き出しておりました。添えられたプラムは赤ワインとアーモンドオイルでコンフィチュール風に。そういえば、バスク地方の特産に、クロサクランボのジャムがあると聞いたことがあります。

 

白ワインでなく、ローヌの赤ワインを合わせていました。

1999 コート・デュ・ローヌ クロ・ドゥ・レルミタージュ です。

あのゴクミとアレジ夫妻所有のワイナリーが造るワイン。手書きスケッチ風のエチケットが、セレブ風。しっかりした凝縮感のあと、ふくよかな甘みが広がります。

 

さあ、いよいよ、主菜の肉の登場です!

 

2か月の乳のみ子豚と1歳豚の2つの味わいを楽しむ料理です。

乳のみ豚は、肉にストレスを与えないようにしてやさしくほぐすそうです。皮がカリッとして、歯ごたえも楽しめます。ロックフォールチーズの風味。
添えられたレバーや心臓などの内臓ミンチを詰めたマッシュルームや、フォアグラと香草などのキャベツ包みは、赤ワインビネガーをきかせています。ばら肉は、ハチミツとバスク地方の辛さ控えめなトウガラシをつけて焼いてありました。

   

09042709.jpg   09042710.jpg 

 

ワインは、ブルゴーニュの赤です。

1995 ヴォーヌ・ロマネ プルミエ・クリュ レ・ボーモン (ドメーヌ・ペルナン・ロサン)

今回注目のワインです。

 

ドメーヌ・ペルナン・ロサンは、フランス国内に熱烈なファンを持っていたヴォーヌ・ロマネの造り手でした。1980年代は、ブルゴーニュのブドウ栽培・醸造コンサルタントとして忘れられないスーパースター、ギイ・アカの影響下にあり、ブドウの収穫量を抑え、アルコール発酵前に低温で色素の抽出を行う方法を採用。濃い色調でブドウ由来の果実香の「アカ・スタイル」を確立していました。

 

ところが、最近、アンリ・ペル・ミノに売却され、2000年からはスタイルが変化。それ以前のヴィンテージは幻といわれ、めぐり合いを熱望するファンは後を絶ちません。

 

というわけで、今回は1995年ヴィンテージを飲めて、ラッキー!

アジア風スパイスが感じられ、タンニンも多め。「アカ・スタイル」が健在でした。

 

続けて、チーズも山の味。「オッソー・イラティ・ブルビ・ピレネー」。舌をかみそうな名前ですが、羊乳特有の旨みの強いチーズです。

初夏から秋までピレネーの山岳地帯に追い上げられた羊は、高山植物などを食べて香りの高いミルクを出すといわれています。「オッソーの谷」と「イラティの森」に由来する名前。

2皿目の料理と合わせた辛口ジュランソンとの相性がよいようです。

 

最後のデザートは、これもバスクで有名なチョコレートと焼き菓子の組み合わせ・・・

 

チョコレートの強い風味に負けないタンニンと甘さを備える酒精強化(フォーティファイド)ワインが合います。

 

とくれば、お酒はバニュルス。

NM バニュルス キュヴェ・デュ・ドクター・アンドレ・パルセ  (ドメーヌ・デュ・マス・ブラン)

バニュルスは、VDN(天然甘口ワイン)の仲間。13世紀以来の伝統があります。グルナッシュが主体。糖度の上がったブドウを遅摘みし、アルコール発酵中にブランデーなどを添加して造ります。ドライで十二分な日照量を享受できる土地ならではのワインです。 


09042711.jpg  09042712.jpg

 

このワイン、バレンタインデーの季節になると、チョコレートの隣りにさりげなく置いてあるお店もあるので、おなじみの方もいらっしゃるでしょう。

 

このドメーヌは、バニュルスだけで10種類も造っている第一人者。甘さの度合いと熟成の仕方で、こんなに種類が増えるんです。口当たりよく、食事を締めくくるのにふさわしいワインで、どこか懐かしい風味が気分をリラックスさせてくれます。

 

とっても気さくなオテイザさんは、日本に来て発見がたくさんあったと言います。今度はその発見を生かして、日仏融合の料理を披露していただきたいなと、次回の来日が楽しみになりました。

 

さて、今回の発見は、鱒のコンフィにローヌの赤の相性がとてもよかったこと!

 

ところで、プランタン銀座のワイン売場でお客様にもスタッフにも、大人気なローヌの赤ワインがあるんですよ。

 

 

コート・デュ・ローヌ カルト・ブランシュ 1996  (ドメーヌ・マズール) 

今なら、セール価格で、税込2,520円です。

 

この造り手は、16世紀から続く老舗ドメーヌ。樹齢百年以上の木を含む、150haもの自社畑を所有しています。品種はグルナッシュとシラー。果実味たっぷり、まろやかな熟成香とスパイシーな風味、柔らかなタンニンの渋みが溶け込んでいて、ローヌの赤のおいしさが表現されています。

 

私のかなりのおすすめです。

 

 

この記事のURL | Trackback(0) | Comment(0)

2009.05.15

「仏像ガール」が指南 ~仏像は「学ぶ」前に「感じる」

三越屋上のお地蔵さまにホッ!

  • 銀座三越屋上のお地蔵さまは癒される

 誰にでもホッと一息つける日常の安らぎスポットというのがあると思うが、私にとっては、東京・銀座4丁目の銀座三越屋上がその一つ。ここで出会えるお地蔵さまの顔を見ていると、なんとも癒され、自然に頬がゆるんでくるのです。

 正式には、銀座出世地蔵尊。三井家の守護神、三囲神社の分霊とともに祀られている。明治の初め、築地・三十間堀川の開削中、地中から地蔵菩薩の石像が発掘され、安置された4丁目7番地界隈は縁日などでたいそうにぎわったという。

 震災や戦火など数々の受難を乗り越え、デパート屋上に安住の地を見つけたのは1968年。近年外国人観光客も増え、英語の説明板には、「Ginza Guardian Deity(銀座の守り神)」とある。緑の植え込みの傍らに、ひっそりたたずむお連れの仏さまの表情もとっても柔らかく、小さなことにイライラしてしまった自分をしばし反省……です。

  • (左)緑の植え込みの中に立つ/(右上)お地蔵さまの隣には三囲神社の分霊/(右下)お連れの仏たち

 今年は全国的に秘仏の開扉が相次いでいる。長野の善光寺の前立本尊には、連休期間中多くの参拝者が訪れた。また、興福寺創建1300年を記念して、東京国立博物館平成館で開催中の「国宝阿修羅展」も、1日1万人以上の人が詰め掛けて大人気。売店で販売された本物の阿修羅像を模したフィギュアは、発売当日に1万5千体が完売したというから驚きだ。

 そんな折、「仏像ガール」というユニークな肩書きをもつ女性にお会いした。「最近なんとなく仏像が気になっている」という声を受けて、プランタン銀座のカルチャーセンター「エコールプランタン」で、仏像の楽しみ方1日レクチャーをお願いしたのである。

 大学で仏教美術を専攻、「仏像が大好きで、その魅力をもっと皆に知ってほしい」との一心で仏像に人生を捧げる「仏像ガール」さんは、本名・廣瀬郁実さん、29歳。

 中学3年の春、父親をがんで亡くしたことが転機になった。「お父さんはどこに行ってしまったの?」との思いから、死後の世界を求めてお寺巡りを始めた。横浜育ちなので、まずはご近所の鎌倉から。小遣いを貯めて、高校2年のとき京都へ出掛けた。

三十三間堂で涙した日

  • 笑顔がステキな仏像ガールさん

 三十三間堂を初めて訪れた日のことは忘れられない。「朝早く誰もいないお堂で、ぽろぽろ涙がこぼれてきた。日本人はなんてすごいことをしてくれたんだろう、こんな素晴らしい光景を見せてくれてありがとうって、ただただ感動でした」

 そんな仏像ガールさんのレクチャーに集まったのは、比較的若い女性が多かった。

 おとな世代には仏閣巡りのベテランもいらっしゃるだろう。かく言う私も、祖母の影響で、小学生のときから京都・奈良の仏像巡りに同行させられ、岡部伊都子さんの仏像本を愛読。自由研究に「仏像との出会い」などという渋いテーマを選ぶ不思議な子どもだった。今回は、若い女性たちに広まる昨今の仏像ブームを通して、改めて仏像と素直に向き合ってみたくなった。

 「仏像のイメージって何?」

  • 仏像ガールさんの仏像を感じる本

 仏像ガールさんがそう問いかけると、参加者から様々な答えが返ってき。「ミーハー的かもしれないけれど、SMAPの香取慎吾君みたいな如来顔が好み。軽い気持ちでカッコいい仏像に出会いたい」

 「よく博物館に出掛ける。崇高で、見ていてホッとする」

 「5年前、いろいろ考えることがあって京都奈良へ一人旅。広隆寺の弥勒菩薩を見たら、涙が止まらなくなった。以来、一年に一度は弥勒さまの前に座る。対人間では得られない優しさに包まれて、迷いをふっきることができる」

 「伝統の街並みを旅するのが好き。薬師寺の日光月光菩薩には、崇高さだけでなく、後ろ姿になまめかしさを発見した」

 それぞれに、とても熱いのだ。

大切なのは出会うこと

  • 有楽町駅構内に鎮座する有楽大黒

 仏像ガールさんは言う。「知識がないからわからない、軽々しく好きといってはいけない……。そんなお便りをたくさんいただきますが、『全然詳しくないけれどホッとします」でいいんです。大切なのは、会うこと、感じること。お勉強は後回しにしましょう」

 レクチャーでは、12枚の仏像のスライドを見た。まずは、深く考えず、最初に感じたことをメモする。どっしり落ち着いた大仏から、スリムな薬師如来、喝を入れられている気分になった四天王、愛らしい子どもの弥勒菩薩まで。私のメモには、「不細工」「近づきたくない」などのマイナスイメージの言葉もいくつか。

 「それでいいんです。ありがたいものだから、気持ち悪いとか怖いとか、失礼な表現をしてはいけないって思う必要はないんです」と、仏像ガールさん。そう言われると、頭でっかちな知識から解放されて気持ちが楽になりました。

  • (左)有楽町駅前の宝くじ売場には夢を求める人が今日も来る/(右)ゆるキャラな有楽町大黒天は親しみやすい

 12枚の中で、「美しい」「気高い」「思慮深い」「あこがれ」と、ほめ言葉を羅列してしまったのは、滋賀湖北・向源寺の十一面観音菩薩。数奇な運命に翻弄された仏らしい。この夏は、ぜひ会いに行こう。

 さて、仏像ガールさんから、銀座の仏像スポットをもう一つ教えてもらった。JR有楽町駅銀座口の改札を入った駅構内に鎮座する「有楽大黒」である。昭和の初め、駅前の亀八寿司主人が秘蔵していたが、戦争末期に空襲を避けるため駅長に寄贈された。「ご通行の皆様の安全、幸福を守る」とあり、乗降客が拝む姿が見受けられる。

 有楽町駅中央口前の宝くじ売場には、別の「有楽町大黒天」もいらっしゃる。こちらの大黒さまは、二頭身で流行のゆるキャラ。プラスチックの覆いに手が入るくらいの丸い穴が開いており、頭をなでられる。高額当選者で有名な場所だけに、ご利益に預かれればと、私も撮影しながら3回ほどなでた。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

 ◆「仏像ガール」のホームページ

 http://www.buddha-girl.com/

この記事のURL | Trackback(0) | Comment(0)

2009.05.14

バスク豚の夕べ その1

東京・南青山の「ランベリー」は、岸本直人シェフのなんとも繊細な料理にいつも感動させられる素敵なフレンチレストランです。

銀座の「オストラル」で腕を振るわれていたころから、私は大のファンでした。

 

そして、ソムリエで支配人の長田照彦さんの歯切れのよい解説には教えられることばかり。

 

岸本シェフも長田ソムリエも、プランタン銀座の「エコールプランタン」で、おしゃれな講義をしていただいたことがあります。


今回は、4月末に「ランベリー」で開かれた「まぼろしのバクス豚ディナー」についてご紹介したいと思います。


スペインとの国境にあるフランス・バスク地方は、食の宝庫。生ハムやチョコレートの産地として有名です。

ここの出身のシェフはいま、パリのビストロでも非常に注目されています。


バスク豚が「まぼろし」と呼ばれるのは、1981年、22頭にまで減り、絶滅の危機に瀕したという事情があったからです。

この豚を妻とともに蘇らせたのが、初来日した生産者のピエール・オテイザ氏で、2006年にはフランス政府からレジオン・ドヌール勲章を授与されました。

今回のディナーは、「ランベリー」のスーシェフがフランス修行時代に同氏から地産食材の教えを受けたというご縁で実現したそうです。

 

バスク豚は、現在では年間生産量が3千頭まで回復したとのことですが、依然として非常に希少な豚であることには変わりがありません。

2か月間は親豚のミルクで育ち、成長した後は12-14か月になるまで野山を元気に駆け回り、クリやドングリ、ブナの実など、季節の恵みに囲まれて暮らすそうです。よくイベリコ豚と比較されますが、旨みがより凝縮されていて力強い味わいといわれてるようです。


当日供されたワインは5種類でした。

 

09042713.jpg 

 1.NM アンリ・ジロー ブリュット・エスプリ
 2.2006 ジュランソン・セック キュヴェ・マリー (ドメーヌ・クロ・ウロラ)
 3.1999 コート・デュ・ローヌ クロ・ドゥ・レルミタージュ
 4.1995 ヴォーヌ・ロマネ プルミエ・クリュ レ・ボーモン

   (ドメーヌ・ペルナン・ロサン)
 5.NM バニュルス キュヴェ・デュ・ドクター・アンドレ・パルセ

   (ドメーヌ・デュ・マス・ブラン)


まず、サラミや生ハムなどを盛り合わせた1皿目。「バスクからの想い」というタイトルがついていました。

オテイザさんが自ら切り分けてくれた中には、生後1か月の赤ちゃん豚から作られたという貴重なものも。日本にもファンが多いアンリ・ジローのシャンパーニュと合わせます。

 

シャンパーニュ地方アイ村にあるメゾンの歴史は、ルイ13世統治下の17世紀初めにさかのぼります。ただし生産量が少なく、モナコ王室や英国王室や特別な顧客などへの販売が中心で、一般市場に登場したのは近年のこと。

 

そして、世間的には無名であったこのシャンパーニュを一躍有名にしたのは、あのワイン評論家のロバート・パーカー氏。「ハチミツ味のあるブルゴーニュの白に近い」「ノン・ヴィンテージのシャンパーニュは最高峰の一つ」「プレステージクラスはクリュッグのような後味」などと、絶賛したのでした。

よく熟れたモモのような香りとともに、ナッツやバニラのニュアンスが感じられます。クリーミーでふくよかな甘みとコクが、サラミの油分をやさしく包んでくれました。

 

09042702.jpg 

 

09042703.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2皿目は、ランドの砂地で育ったホワイトアスパラガスの冷製です。立派なホワイトアスパラに、驚きました。

ワインは、ジュランソンの辛口白。


ボルドー地方の東からピレネー山脈にかけて広がる地域は、「南西地方」とくくられます。スペイン国境に近いピレネー地区で作られるジュランソンは、過熟のブドウから造られる甘口の白ワインとして有名ですが、今回は辛口です。

 

ブドウ品種はグロ・マンサンが主体。辛口とはいえ、ハチミツや白い花のような、ほんのり甘みが感じられます。ドメーヌ・クロ・ウロラは、1983年、ワイン醸造学者のシャルル・ウール氏が娘と2人で設立しました。現在は14haの畑を所有。キュヴェの名前「マリー」は、娘さんの名前だそうです。

 

 

09042704.jpg 09042705.jpg 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホワイトアスパラのソースは、シェリービネガーとマヨネーズを合わせていました。そう、アスパラガスといえば、グリーンでもホワイトでも、やっぱりマヨネーズで決まりですね! 

ダイコンの花の黄色、エンドウマメの花の藍色、オリーブペーストの土色など、花が咲きこぼれるアスパラガス畑をイメージしているそうです。さりげなく添えられた、砂糖まぶしのピスタッチオがワインとよく合います。

 

 

次回は3皿目以降についてご紹介します。

 

 

この記事のURL | Trackback(0) | Comment(0)

2009.05.11

ジャン・ヴェッセルのメーカーズディナーその2

前回に続いて、ジャン・ヴェッセルのメーカーズディナーのお話です。

 

ディナーで供された4番目は、「ブリュット ウィユ・ド・ペルドリ」。

彼らの真骨頂ともいえるシャンパーニュです。

 

私は半年ほどこの泡に魅せられて、とうとう箱買いしてしまったほどの熱烈ファンです。


「ウィユ・ド・ペルドリ」とは、ヤマウズラの目の意味。ほんのりとピンクがかったロゼ色です。ヤマウズラは、こんなに美しい色の目をしているんですね。

黒ブドウのピノノワールを100%使ったブラン・ド・ノワールで、白ワインと赤ワインをブレンドして作るロゼ・シャンパーニュとは異なります。


現オーナーのデルフィーヌさんによれば、ピノノワールの果実の色と味わいを生かしたシンプルな作り方は、100年以上前から同家に伝えられていたものとか。先代の父親が復活を試みたものの、一時は市場の支持が得られず途絶えた時期もあったらしいのです。


あえてフランスを飛び出し海外で修行を積んだデルフィーヌさんは、この伝統の手法と味を見直し、改めてブランドの再生を果たしたというわけです。


09050801.jpg繊細な口当たりで、ローストしたリンゴ、カシス、サクランボなどの熟成した果実の香りと味わいが楽しめました。酸味はまろやかで、蜜の濃厚さも感じられ、広がりのあるシャンパーニュ。


仔牛フィレ肉のローストを合わせましたが、中華でも和食でも、どんな料理にも合いそうです。デルフィーヌさんからは、「食事のコースで、ブルゴーニュのワインからボルドーに移るとき、その間に挟んで気分を切り替えるのにもいいですよ」と、アドバイスをいただきました。


 

さて、最後の5番目のワイン「ドゥミ・セック ロゼ フリアンディーズ」は、ヴェッセルが新たに取り組んだ甘口ロゼです。デザートの赤い果実のサヴァランといただきました。

 

ロゼ作りは、デルフィーヌさんが学生時代にさかのぼります。

 

大学卒業間近のデルフィーヌさんが休みで実家のメゾンを訪れた時、先代のもとに日本のインポーターが来ていて、英仏語通訳をかってでました。

 

そこから日本とのビジネスが始まったそうで、日本人がロゼ・シャンパーニュを好むとの情報から、いろいろ研究し、4年前に甘口ロゼを完成させました。


 

09050802.jpg 09050803.jpg 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピノノワールを用いて赤ワインと同様の工程で作られるので、赤みが強く、味わいには渋みやスパイシーさも感じられます。

ラズベリーのようなやさしい甘さが特徴で、ホイップクリームのデザートとよく合いますし、フォア・グラなどとも相性よさそうですね。

 

ちなみに、プランタン銀座で現在取り扱いがあるのは、「エクストラ・ブリュット」「ブリュット・ロゼ」「ウィユ・ド・ペルドリ」の3種類。
お値段は、4千円台で、コストパフォーマンス抜群です。店頭では、時々スペシャルセールで、3千円台で買えることもあるんですよ!
まずは、オンラインショッピングで、試してみるのもおすすめです。

この記事のURL | Trackback(0) | Comment(0)

2009.05.08

銀座に点在、魯山人ゆかりの地を歩く

京橋骨董通りの大雅芸術店が話題に

  • 京橋骨董通りの加島美術

 北大路魯山人といえば、陶芸をはじめ、絵画、書、篆刻(てんこく)、料理など、幅広い分野で自由闊達に活動した希代の粋人として知られる。最近では、評伝が新たに出版されたり、大手メーカーの緑茶飲料のイメージキャラクターになったりと、再び注目されている。

 1883年(明治16年)、京都に生まれた魯山人だが、東京・銀座とは縁が深い。青葉がまぶしい季節。銀ブラのヒントに、ゆかりの地をいくつかご紹介したいと思う。

 魯山人は、尋常小学校入学と同時に木版師の養家に入った。卒業後は当時流行の西洋看板書きで生計を助けた。20歳のころ上京し、書家の岡本可亭(かてい)(画家・岡本太郎の祖父)の内弟子になって版下書きなどを手掛けたのち、独立。大陸に渡って古美術への審美眼を養い、帰国して篆刻の技術を用いた看板づくりを始め、各地にファンを増やしていった。

  • 銀座中央通りに面した黒田陶苑。魯山人作の鑑定も行っている

 そうしたファンには、加賀の山代の旅館主たちがいて、30代になったばかりの魯山人を快く食客として受け入れた。九谷焼の器に盛られた日本海の幸にいたく感激した彼は、ある日、九谷焼の窯元、須田菁華(せいか)を訪れて陶芸を試みた。ここで初代から、染付や赤絵の技法を初めて学ぶ。日本料理と焼きものの関係を見直し、「食器は料理の着物である」との名言を残すのだ。

 研鑽を積んだ魯山人は1919年(大正8年)、友人の中村竹四郎と共同で、東京市京橋区に「大雅芸術店(のちに大雅美術店」に改称)」を開店した。現在小さなギャラリーが集まる京橋骨董通りにある「加島美術」の場所。赤茶色の壁が美しい店である。

 店には古美術や骨董を並べ、来客には手料理を提供して話題になった。2階には会員制割烹の「美食倶楽部」を設け、店頭商品の古陶器に自ら料理を盛り付けるなどしてかなりの人気を博したらしい。だが、関東大震災で焼失。2年後場所を赤坂の日枝神社近くに移して、「星岡茶寮」を開業する。卓抜な演出で、政財界の粋人が集う文化サロンになった。料理と器、絵画、書。さらに、北鎌倉に築窯し、陶器を焼くようになった。しかし、36年(昭和11年)、共同経営者とのもめごとから追放され、鎌倉に引っ込むことに。

  • あづま通りの清月堂ギャラリー。地下にはティールームも

 ちょうどそのころ銀座で創業した黒田陶苑(とうえん)は、魯山人の陶磁器作品の専売店舗「黒田風雅陶苑」として発展した。現在も銀座7丁目、中央通りに面した同店で、魯山人のいくつかの作品を拝見した。辛口の日本酒を入れたらさぞおいしいだろうと想像できる志野焼きの「さけのみ」の紅が目に刻まれた。不遇だった幼少時、養母の背中で見た満開のツツジから、紅色には格別こだわりがあるとのエピソードにもうなずける。

 時は下り、戦後まもない46年、銀座5丁目のあづま通り沿いに、自作を置く工芸処「火土火土美房」を開く。現在は、和菓子の銀座清月堂をルーツとするレストランが、ギャラリーを開いている。

 その当時の魯山人について、女優の山口淑子さんからうかがったことがある。戦後、日本の映画女優としてアメリカを訪問、日系二世の彫刻家、イサム・ノグチさんと恋に落ちた山口さんは、帰国後、魯山人の鎌倉の離れを借りて新婚生活をスタートさせた。「二人の芸術家を身近に見て、美意識に合わないものは存在すら許さないという厳しいたたずまいに圧倒される思いでした。私は、彼らの世界を理解しようと必死でしたね」との言葉が印象的だった。

先代「久兵衛」の話には耳を傾けた

  • 金春通りの銀座久兵衛。外国人客も目立つ

 銀座8丁目・金春通りのすしの名店「銀座久兵衛」の先代、今田壽治氏との付き合いが始まったのは、魯山人70歳のころからという。傍若無人、孤高の人、ときに傲慢、不遜などと形容され、堅物のイメージが強い魯山人も、先代の話には耳を傾けたらしい。

 有名な話がある。「マグロは、もっとぶ厚く豪勢に切ってくれ」と頼んだ魯山人に、先代は「握りずしってのは、タネとメシのバランスだ」と、たんかを切って返した。その職人の心意気が気に入ったらしく、それからたびたび久兵衛に立ち寄り、京都や松山などへ一緒に旅する仲になったという。

  • 久兵衛二代目の今田洋輔さん

 二代目の今田洋輔さんは、当時小学5年生くらい。「僕にとっては好々爺という感じでした。魯山人さんは、毎日ワイシャツのカラーを取り替えるので、それを見ていた僕が新しいカラーを付けて渡したら、よく気がきく子だねと、ほめてくださった」

 窯出しのたびに作品を持参してくれて、一時店の器が全部魯山人作になったという。その縁にちなんで、店内には作品を集めたギャラリーが併設されている。

  • 魯山人のしょうゆ皿。久兵衛では実際に使っている

 先日、その魯山人作の器で、すしをいただく機会があった。しょうゆ皿やまな板皿、そして湯呑まで、我を主張しすぎず、料理を引き立てるように実用的かつ使いやすく作られている。

 「用あるものはことごとくその用を使い果たすところに天然の妙味がある」という言葉を、評伝の一つ、山田和さんの「知られざる魯山人」(文藝春秋)で知った。

 日常生活で使われてこそ、美は輝く。ゆかりの場所を訪ねながら、粋人の美学に思いをはせた。

 (プランタン銀座取締役・永峰好美)

この記事のURL | Trackback(0) | Comment(0)

永峰好美のワインのある生活

<Profile> 永峰 好美 日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。プランタン銀座常務取締役を経て、読売新聞編集委員。『ソムリエ』誌で、「ワインビジネスを支える淑女たち」好評連載中。近著に『スペインワイン』(早川書房)