すべて異なる葉の形、色の濃淡が魅力
「花は野にあるように」とは、茶匠・千利休が説いた言葉である。
前回(5月22日掲載)に続いて、東京・銀座にある野の花専門店「野の花 司」の話題をお届けする。
世の中にある多くの花屋さんは、オランダを中心とした切花の大市場で取り引きされる洋花・栽培の花を扱っている。「ちょうど野菜と同じ。温室栽培で季節感を消滅させ、店頭で扱いやすいようにと、いまは形状に手を加えることもできる。でも、まっすぐに造られた花を生けても、まるで棒を挿したようでしっくりしない。野の花の自然の造形美にこだわる花屋が都会に一軒くらいあってもいいのでは」――。女性オーナーのそんな思いから始まったのが、この店だった。
夏が近づくと、自然界には緑があふれる。よく見ると、丸かったりギザギザだったり、葉の形も様々だし、緑の色の濃淡もそれぞれに違っていて、興味は尽きない。
読者のいくみさんからコメント欄に質問をいただいた。前回の写真で、同店スタッフの関原万里子さんが手にしていたものについての問い合わせである。
「銀座に咲いた野の花、かわいらしいですね。忙しい忙しいと、ついつい早足で歩いてしまいがちだけど、ゆっくりと野の花を探して近所を歩いてみようと思いました。ところで、写真でスタッフの関原さんが手にしている野の花がとっても気になるのですが。こんもり丸い形から察するにコケ玉ですか?」
いくみさんのご指摘の通り、コケ玉です。コケ玉は、最近でこそ、観葉植物から木までいろいろなタイプが店頭に並んでいるが、同店では10年以上も前から扱っているそうだ。水分を好むコケのためにも、原則、湿地を好む植物を組み合わせてコケ玉に仕立てているという。
器によっても違う表情
写真は、コナラ、セキショウ、光岳キリンソウの組み合わせ。光岳キリンソウは、黄色の星型のかわいらしい花が咲く。ちょっと欠けてしまったけれど捨てがたいといったお気に入りの食器皿に載せたら、素敵ではありませんか?
店の裏手に回ると、草もの盆栽の緑が目にやさしい。緑の葉をたぐり寄せると、根元に小さな愛らしい花が隠れるように咲いていた。木の盆栽の添え物的存在だった草もの盆栽が、こんなにいきいきとして、自然の風情を感じさせてくれるとは、新鮮だった。
おだやかなお顔の石仏に添えられた白竜の緑もさわやか。味気ないマンションのベランダを趣のある空間に変えてくれそうだ。
野の花は、器によっても、まったく異なる表情を見せてくれる。同店の2階の展示スペースで、そのことを実感した。
石の皿やどんぶり鉢、流木や廃材、編みかごなど花を盛る器をはじめ、剣山や花留めなどがずらり。既成のものにこだわらないユニークな発想であふれていた。
華麗な白いシャクヤク一輪が生けられていたのは、銅製の網型の花留め。可憐な紫色のミヤコワスレは、炭を剣山代わりに使っている。炭には水を浄化する作用もあり、水が腐りやすい夏の時期にはぴったりなのだそうだ。使い込まれた風の銅の赤も、炭の漆黒も、緑を引き立たせ、涼感を演出する。
展示スペースの傍らには、野の花を眺めながらゆったりお茶を飲む場所がある。銀座空也の最中とお抹茶、黒豆抹茶みつ豆といった甘みから、辛党向きには、アシタバやフキミソの佃煮と日本酒のセットなども。
3階の教室スペースをスキップして、狭い階段を上って屋上に出ると、ここは野原? 雑木林? 小さな水辺?
ヤマボウシの木を中心にグリーンガーデンが広がっていた。向かいはデパートの銀座松屋という都会のど真ん中の立地をしばし忘れてしまいそう……。
マンション住まいのベランダに、小さな野草の空間をつくってみたくなった。
(プランタン銀座取締役・永峰好美)
◆野の花 司